23 ライカ先輩とアデリナ先生
翌日、学校に行きたくないようと喚いたが、にこやかなマイケルに襟首をつかまれて、そのまま引きずられてきた。
教室へ入った瞬間、ザッと音でも立てそうな勢いでみんながおれを振り向いた。すでに噂が出回ってしまったようだ。これが外堀を埋められた、ってやつなのか。
「ヘイ、ミスタ・ナガシン。はやく入ってくださーい」
「いやだ……入ったら殺される」
実際男子の何人かは血走った目で殺気立っていた。
戸口でもめていると、
「おーい」
でかい声が響き渡った。
聞き覚えのある女の子の声だけど、気のせいだろう。
無視していると、ドカドカと足音がして、乱暴に首へ腕を回された。
「もう、友達なのに冷たいなー!」
「ぐえっ」
ヘッドロックをかけられる。
そのままぶんぶんと上下にゆすられた。
それはいいんだけど、む、胸が当たって……天国だ。いや、いかん。友達にそんな不埒な思いを抱くなど。
「ライカ、まずその、胸が」
「なに? おっぱい? おっきくなったでしょー。成長期なのかな?」
逆にぎゅうぎゅう押し付けてきた。
これはもうなんて言うか……このまま死んでもいい。
「GO、TO、HEEEELLL!」
「ぐわあっ!」
思いっきりケツを蹴られて、おれは飛び上がった。おかげで天国ヘッドロックから脱却できた。
「ミスタ・ナガシン。今日こそアナタを殺したいでーす!」
「前から殺したいみたいじゃねーか、それ」
「まあまあ、落ち着いて。おっぱいくらい触らせてあげるからさ」
「アメーイジンッ!!」想像したか、マイケルは鼻血を吹いた。
「ダメだライカ、自分を安売りするな」
冗談だろうけど、リアリティがありすぎる。
「それより、ここへなにしに来たんだ」
「見てわかんない?」くるりと回る。うちの学校のブレザー。相変わらずスカートは短い。
「いや、わかる」
「じゃあ聞かないでよ! いやー、リュウガクって楽しいね。でも一年間修業したせいで、同い年じゃなくなっちゃったんだ」
よく見たら胸のバッヂは上級生のものだった。
「いっしょのクラスにはなれないけど、遊びに来るからね! 先輩と呼ぶように」
「ライカ先輩……」
「うんうん。いいねいいねー。あ、チャイムだ。またね!」
上機嫌にスキップしながら行ってしまった。
ひらひらと舞うスカートはぎりぎりで中身が見えない。何か魔法でもかかってるんだろうか。
「ライカもすっかり馴染んでいるな」
いつの間にかエルが来ていた。
「馴染んでるのか、あれ……。もうなにが起きても驚かないと誓うぜ、おれ」
朝から一日分疲れた。
教室へ入る。
殺気は前にもまして膨れ上がっている気がしたけど、もう考えるのはよそう。ぐったりと机に突っ伏す。
担任が来るまで寝ていたい。
腕と机の隙間が作る、この暗闇だけがおれの世界なんだ。
だれも邪魔しないでくれ……。
数分後、戸口が開く音がして、カツカツと足音がした。担任にしては軽く、ヒールみたいな音だ。
声を聴いて、驚かないと誓ったおれは驚愕した。
「みな様、おはようございます」
ガバッと顔を上げる。
アデリナさんだ……。
眼鏡をかけ、髪をアップにしているけどメイド服のアデリナさんだ……。
「担任の先生は、急遽、ゴニョゴニョ……なことになりましたので、本日よりわたくしが代役を務めさせていただきます。名前は……」
「ア、アデリナ! なにをしておる!」
あれ、エルも知らなかったんだ。驚いて立ち上がっている。
「エル様。わたくし、心配症でも過保護でもありませんが、このようなところへおひとりで行かせるなんて不安でたまりません」
それ、心配症で過保護なんじゃ……。
「なので陰ながら見守らせていただくことにいたしました。――起立!」
堂々と見守ってるじゃん! 自分で号令かけてるし。
「こらそこ、遅い!」
ビシッと指さされる。慌てて立ち上がった。
「ナガシン様。いいえ、ナガシンくん。あなたには特に厳しく当たらせていただきます」
「へ?」
「あなたのような平凡な男にエル様を差し上げるわけには参りません!」
「よかった、理解してくれる人がいた……」
おれは心底ほっとした。
「なんと言いました。エル様では不満なのですかっ!?」
「どっちなんですか!」
ヤバい。三日分疲れそうだ。
そのあともぎゃあぎゃあエルとアデリナさんは言い合っていたが、おれは再び机に突っ伏すと、世界から意識を隔絶した。




