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月影浴2 ノイズ~静寂  作者: @naka-motoo
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真夏の銃剣(その5)

 鼻の手術が痛い、ということは聞いていた。けれども、そもそも僕は手術を受けるのが生まれて初めてなので、比べようがない。ただ、救急車で厚生病院の処置室に運ばれた瞬間、とてつもなく鼻が痛みだし、とにかく一晩置いて、朝一番で手術を受けることになった。

 相手の拳が顔面にワンクッションしてずれて鼻に当たっただけなのに、たったそれだけで折れるとは。僕の鼻は折れて形が歪んでしまっていたのだ。だから、見る人見る人みな僕の顔の中心を凝視していたに過ぎない。さつきちゃんもそうだったのかと思うと、ああして肩を抱き寄せてくれたことが実は特に深い意味が無いものなんだろうな、と、少し残念にはなる。

 それと。

 左耳の鼓膜が破れていた。鼻は手術で元通りになるようだが、鼓膜はどうしようもない。

 じーん、という音が常に左耳奥で聞こえ、外部の音が完全に聞こえない訳ではないが、50mほど先の音のような感じで、人の声は全く聞き取れない。まあ、右耳があるからいいかな、とは思うけれど、自分の体の一部がもう再生しない、というのはなんだか寂しい感じはする。それに、この、じーん、という音は気にしなければ何ともないけれども、一旦気にしだすと、体中がむず痒くなるような不快感に襲われる。

 僕のお父さん、お母さんにはさつきちゃんが電話して知らせてくれた。

 市電の電停で起こった顛末はこういうことだった。

 ・・・

 さつきちゃんは電車の中にもう乗ってしまっていたのだけれども、僕が岡崎達に引っ張られて歩いて行く様子を見て、無理やり乗客をかき分けて電車を降り、僕を追ったのだ。太一たちはもう電車の奥の方まで入っていたのですぐに降りることはできなかった。太一は次の電停で降りて、考えられそうな場所を探した。脇坂さんと遠藤さんも降りようとしたのだけれども太一が強く制止し、それよりはさつきちゃんのお母さんにすぐ連絡して、耕太郎を家まで送り届けるように指示したのだ。

 岡崎達は頭がいいので、自らが‘犯罪者’になるような暴力的な真似はしないだろうと、その点は太一は安心していたらしい。ただ、久木田や大勢の人間がやられたように、‘相手の精神をズタズタにする’ことはなんの躊躇もなく平気でやってのける。そしてその刃物が僕だけでなく、さつきちゃんにも向けられることを太一は心底恐れていたらいい。

 そのさつきちゃんは、人込みの中で僕たちを見失ったけれども、‘人のたくさんいる場所は避けるはずだ’と、これまた冷静な判断をして、神社とは反対の道を走ったのだ。ほどなく、あの駐車場に4人がいるのを見つけた、ということだ。

 ただ、この先はさつきちゃんは言わないのだけれども、多分、僕がパンツを脱ごうとするまでの遣り取りは見ていたのではないだろうかと思う。つまり、僕の‘恥ずかしい姿’全部を。そして、‘今ここで止めないと’と感じた時、怖いけれども勇気を振り絞って、「卑怯者」という言葉を岡崎に投げかけ、姿を見せたのではないかと思う。さつきちゃんだって、怖くないはずはない。僕の‘心’を守ろうとして必死で岡崎に立ち向かったのだと思う。


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