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…涼しい。

森の木々達がサワサワと透き通るように、綺麗な風を私に向けてくれる。


ここは私の憩いの場所、小さな森の奥にある、あまり知られていない泉。

キラキラと太陽に当たっていくつもの生を宿す場所。妖精も沢山いる。


「フィオナ、風邪を引いてしまうよ。暖かくして」


心配そうな声、私の友達のフライドだ。


「ありがとう、でも平気」


彼は、風の妖精、フライド。淡い水色の髪を一つに括っていてとても儚げな妖精だ。

そんな彼にお礼を言って草原の上に寝転んだ。


「フライドが運んでくれる風は好きなの」


ぽそっと小声で言ったのがフライドに聞こえた。

いつも、この方はここの泉に来る。


「街の風はあまり好きではないわ」


俺は静かに頷いた。


「あそこの風は嫌な空気も混じっていますからね」

「ええ」


フィオナが銀色の髪を揺らして寝返りを打つ、その瞳は呆れが混じっていた。


「人は何故争い事を好むのでしょうね」


掠れ、聞こえるか聞こえないかぐらいの声で言う。

街の風、空気は何処に居ても貪欲な血の臭いが入り混じっているからだ。妖精である俺も街の風は好ましくない。だから尚更、この方の絶望感、呆れは痛いほど分かっているつもりなのだ。




何時間、ぼんやり空を眺めていただろうか。空は高い木に殆ど隠れている。しかし、空の輝きは木の間から差し込まれる日の光によって、キラキラと美しく私の心は穏やかになっていった。


「ここは本当に安らぎの場所ね…そろそろ帰らないと、カイが待ってるわ」

「えぇ、また来て下さいね」



私はフライドに軽く手を振り小さな森を後にした。

この森は魔力が強すぎて愛猫のカイを連れていけない。

カイとは、私が飼っている白猫だ。魔力はあるものの、私くらいの魔力がないとあの森はキツイだろう。

何年前だろうか…魔女がこの世界から居なくなったのは、って言っても生き残りが居るんですけどね。


私は魔女。人間が嫌い。人間のせいで、私の仲間は死んだのだから…。


私は森を出て、薄暗い一本道を長々と歩いた。

暫し歩いていると小さい家が見える。


「ただいま、カイ。」


カイが私の事を待っていたかのように、満面の笑みで飛びついてくる。


「お帰りなさい、ご主人」


小さなカイを胸で受け止めて私はカイに笑顔を返した。


「…ところで、貴方は何のご用ですか?」


笑顔を絶やさないまま、しかし、地を這うような声色でカイを撫でながら壁に隠れているであろう人物に向けて言った。


「知らなかった…とでも?」


もう一度、後ろに居る方に言う。


「私みたいな少女を付けておいて、何か仰って下さい」


相手が何も言わない事に腹立たしさを覚え、段々と低い声になってしまう。


「…な、なんで分かったんだ?」


漸く、姿を表したのは…

こっちが驚いた。まだ小さい男の子がいたのだ。薄い茶髪の癖っ毛で背が低く、とても顔が整っていた。

でも、相手は子供でも異様なまでの殺気を漂わせているので、面白そうだと思い、子供の問いに答えることにした。


「一昨日から付けてますよね。気配…隠しきれてませんよ」


子供の目が揺れたのが分かった。


だが、それを見て優しく微笑むなど、私はしない。


「もう一度聞きます。なんの御用ですか?」


もう日が暮れて薄気味悪い気配とフィオナは一体化していた。


フィオナは小さい男の子の方にくるりと回って、漆黒の瞳に小さい男の子の姿を捉えている。

ゴクリと喉がなる音が部屋に響く、勿論相手が鳴らした音だ。


小さな男の子の頭の中では、何故…何故…何故。

と言う疑問が埋め尽くされていた。

自分より、少しばかり年上の娘を付けるなど容易にできる仕事だと思っていた。

現に、3日前から付けていても此の様にばれた様子は微塵も感じられなかったのだ。

しかし、目の前の目的の娘は自分が3日前から付けていた事を知っていたのだ。

にも関わらず、俺に茶番をさせていたのか。

男の子のプライドは結構、傷ついたようだ。己でも自分の力は知っているし、絶対に気付かれない自信もあった。

それなのに、すぐにばれ、もう2日も同じ事をさせられていたというのだからだ。

俺は、目の前の目的の娘を見上げた。


その娘は口元は笑っているが、目は笑っていない状態だった。

数秒の沈黙が辺りの静けさを物語った。

それを壊したのは俺が投げたナイフが部屋の壁に刺さった音。


「あ〜あ…せっかく逃がす機会を与えたのに、」


たったの数秒間だった。フィオナは男の子が放ったナイフを避けて、瞬時に小さな男の子のお腹に一発蹴りをいれてから言葉を投げかけたのだ。

(いや、私が悪いんじゃない、相手がナイフを投げつけてきたから戦闘体制になって、ついつい体が動いてしまっただけ。仕方がないことでしょ?)


「あ〜らら、ご主人、手加減しないとこいつ伸びちゃってるよ?」


いつのまにかフィオナの腕の中にいないと思っていたカイが、椅子の上に座って笑いながら言った。


「不可抗力よ」


不敵な笑みをフィオナは見せる。

カイはやれやれと溜息を零し、フィオナの腕の中に戻った。

とりあえず、小さな男の子の手足を縛っておく。

だって、暴れたら面倒だもの。

(あら?意外に早いわね。)


小さな男の子は目を覚まして身動きが取れないことを知ってか知らずか、大人しい。


「さてと、貴方は私を殺しにきたの?」


なんでもないような顔をする。むしろ笑顔。

が、口を開くまで帰さないと、妙な威圧感を漂わせる。

小さな男の子の重い口が開いた。


「違う」小さな男の子は少し俯きながら呟く。


「そう、ではなんのご用でしたの?」


「ただ陛下に素姓を調べて来いって言われたんだよ!」


「それで、後を付けてたの?」


「そうさ」


失敗に終わったけどな、と、小さな男の子は言った。


「私、王宮にいってみたいわ、カイも一緒ならね」


男の子がピクッと揺れた。


「陛下が会いたがってたみたいだし、そっちこそいいのか?」


「ええ、つまらなかったら、すぐに帰らせてもらうけど、それに、直接聞きたいしね。陛下が私の素性を調べている理由を」


フィオナは、この男の子をみて少し面白いと思ったから王宮に行くことにしたのだ。


ただ、それだけなのに、男の子が盛大に笑った。

それはもう、我慢していた笑いを出すかのように


「面白いな。俺、お前に決めた!俺は、イオン・ミカエル。よろしくな!我が姫」

イオンの口がニィと釣りあがってそれを確認したのと同時に右手を取られ手の甲に口付けされた。ちゅっという効果音が響いて

…………………………………………………我が姫!?そして、何された私!


フィオナは、呆気に取られるしかなかった。

こいつ本当に子供か?

フィオナをこんな状態にした彼は可愛らしい上目遣いの笑みでこちらを覗いている。

さて、どうしたものか…

取り敢えず1番疑問に思った事をイオンに投げかける。


「えっと、何故、我が姫?」


イオンは一瞬驚いた様に私を見て答えてくれた。だってまだ見た目が13程度でも年頃の娘…知らない筈はないのだ。


「この国では男が女性を1人守る事が普通なんだ。」

冗談ではなく真剣な瞳でフィオナは、いつできたの!?と思っていた。

そして、すぐに顔を切り替え、まるで犬みたいなイオンに


「では、よろしくお願いしますね、我が騎士。でも、私に負けた貴方が守るのですか?」


今のフィオナの顔はなんだか大人びていてイオンが何やらグサッと射抜かれたポーズをしている。


フィオナは、人間が嫌いだけど犬みたいなイオンは面白いかな…と、思った。


こうして、フィオナに人間の友達?が1人出来ました。


「ゴホン、貴方の名前を聞きたいのですが?」


イオンはわざとらしく咳をして、そういえば言ってなかったな。と思った


「私はフィオナ、よろしくね。イオン」


「よろしく。フィオナ様」


くいっと私の袖を引っ張るかと思いきや、私の頬に何やら柔らかい物が触れましたよ。

さてさてさて、このエロ餓鬼は何処で覚えたのか、私の頬にキスして来ましたよ?


まぁまだ子供だしいいかと、纏めた。

これが、大人の対応です。たとえ、3歳ぐらいの差でも。


「では、明朝すぐに伺います。」


イオンはさらりと礼をフィオナにし、スタスタと右手を上げて暗闇の中に消えた。




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