異世界転移したらコンビニで無双できた
アキラは初めて、仕事にやりがいを感じていた。
元の世界では、どちらかと言えば役に立たない側。
怒られてばかり。
失敗ばかり。
それが今や――
異世界のコンビニで無双状態である。
「アキラ〜! これも頼む〜!」
ほぼ同時期に入った同僚。
お調子者の男、星乃が叫ぶ。
「全くしょうがないなぁ」
悪態をつきながらも、人に頼られるのは嬉しかった。
「でもどうせなら男じゃなくてさぁ〜」
「リンちゃんとかジーコちゃんみたいな美少女と仕事してぇよ俺は」
星乃が文句を言う。
「今日はあの二人、店長と女子会だから」
「文句言うな」
バックヤードの扉が開く。
現れたのは、小柄なチワワ系獣人の先輩と、疲れ切った中年男性だった。
「ボブ先輩! 竹田さん!」
「お疲れっす!」
二人で頭を下げる。
「おう、お疲れさん!」
ボブ先輩が元気よく返す。
一方、竹田はボソボソ何か言っていた。
聞き取れなかったので、とりあえず笑顔で頷いた。
社会人スキルである。
引き継ぎも終わり、仕事終了。
だが帰り際、星乃が急に暗い顔になる。
「竹田さんさぁ……」
「別居中で色々取られたらしいよ……」
(うわぁ……知りたくなかった……)
アキラも苦い顔になる。
バックヤードの空気が一気に重くなった。
だが星乃はすぐ話題を切り替えた。
「そういやアキラ達のギルドって最近どうなん?」
「なんかしてんの?」
「今んとこ大きい仕事はないなー」
「ちょっとしたモンスター駆除くらい?」
「おいおい、そんなんじゃS級にはなれねーぞ?」
「そもそもS級ギルドって、あんまり分かってないんだよな」
言った瞬間。
アキラはハッとした。
遅かった。
星乃の目が輝いていた。
「そういう事なら俺が説明してやるよ!!」
(やっちまった……)
星乃。
説明大好き人間である。
加えて、
強さランキング、勢力図
相関関係、裏設定
全部大好物だった。
以前、軽い気持ちで質問した結果。
二時間拘束された。
「まずギルドっていうのはな――」
一時間経過。
「で、S級になるには希少アイテムの発見とかS級モンスター討伐とか色々条件があって――」
二時間経過。
「それでな! 今あるS級ギルドは三つ!」
「でも二つはほぼ活動してなくて、実質トップは――」
「童子一家」
「戦闘狂の集団だ」
アキラは半分意識を失っていた。
こくり。
こくり。
船を漕ぎながら頷くだけの機械と化している。
そこへ。
「お前らまだいたの?」
呆れたようなボブ先輩の一言。
それにより本日は解散となった。
別の意味で疲れ切ったアキラは、重い足取りで帰宅する。
家へ戻ると、メイド長が静かに出迎えてくれた。
「おかえりなさいませ」
「あー……ただいま……」
ジーコとリンはまだ帰っていないらしい。
風呂へ入り、ソファで一息ついたその時。
ツクモの声が響く。
『マスター』
『魔導機にバン様から連絡が入っています』
「ん?」
『緊急指令のようです』
魔導機を見る。
そこに表示されていた文章を見て、アキラの表情が変わる。
『S級モンスター』
『九尾の狐、目撃情報あり』
『大至急、組合まで来るように』
ーーーーーーー
九尾の狐。
誰もが一度は名前を聞いた事がある存在だ。
元の世界でも有名だった。
神の使い。
妖怪の王。
災厄。
様々な姿で語られてきた伝説。
それはこの世界でも同じだった。
絶対的強者。
S級モンスター。
過去にも数多くのギルドが討伐へ向かった。
だが誰一人として仕留める事は出来なかった。
最後の大規模討伐作戦は二十年前。
そして今。
再び目撃情報が入った。
その報せを受け、冒険者組合は各ギルドへ緊急招集をかけたのである。
説明を受ける為、組合へ向かったアキラ達。
応接室の扉を開けた瞬間だった。
「もういっぺん言ってみろ!!」
「ぶっ殺すぞ!!」
物騒な怒号が飛び交う。
「おっ」
リンの目が輝く。
完全に参戦する顔だった。
「リンさん!?」
「ここブレイキングダウンの会場じゃないからね!?」
「ウキウキで混ざろうとするのやめてもらっていいですか!?」
「とりあえず、そのチャカしまって!?」
アキラが慌てて止める。
室内では大柄な男と、白衣の女性が睨み合っていた。
「お前……ウチら百鬼夜行に喧嘩売ってんだな!?」
白衣の女が怒鳴る。
「はっ!」
「先代の頃はS級だったかもしれねぇが、今はB級だろ?」
「落ちぶれたギルドがA級に楯突くんじゃねぇ!」
場が凍る。
誰が見ても。
触れてはいけない部分だった。
白衣の女――ユキチの肩が震える。
「上等だ……」
怒鳴るでもなく。
静かな声だった。
「表に出ろ」
その目だけが笑っていない。
だが。
「お前ら!!」
「いい加減にしろ!!」
バンの怒声を響かせながら部屋に入ってきた
室内が静まった。
ユキチは舌打ちしそうな顔で振り返る。
「ユキチ」
バンが真っ直ぐ見る。
「九尾の件、お前にも関係あるだろ」
数秒の沈黙。
「……はい」
先程までの激情が嘘のように消える。
「すみませんでした。バンさん。」
ユキチは静かに席へ座った。
怒りは消えていない。
「アキラ!」
「お前らも突っ立ってねぇで座れ!」
促され席へ向かう。
そして運悪く。
ユキチの隣しか空いていなかった。
(気まずぅ……)
アキラは静かに着席した。
「さて」
バンが全員を見渡す。
「ここにいる理由はそれぞれだろう」
「名を上げたい奴」
「金が欲しい奴」
「S級を倒したい奴」
「何も考えてねぇ奴」
アキラ達は目を逸らした。
「だが共通してる事がある」
「九尾が現れた」
一気に空気が変わる。
「まずは確認だ」
「発見したら組合に即報告」
「単独行動はするな」
「援軍を待て」
「だが」
バンが笑う。
「チャンスだ」
ざわめく冒険者達。
「伝説を見つけた奴は名を残す」
「討伐した奴は英雄になる」
「捕獲した奴は一生遊んで暮らせるかもしれねぇ」
笑いが起こる。
「ただし――」
バンの目が鋭くなる。
「死んだら意味がねぇ」
「無理はするな」
そして。
「無茶はしろ!!得意だろ??お前ら!!」
室内が沸いた。
「おおおおおおっ!!」
アキラ達も自然と拳を握る。
話も終わり、席を立とうとしたその時。
「なぁ」
隣から声がした。
ユキチだった。
先程まで怒鳴っていたとは思えないほど落ち着いた顔。
だが目の奥には。
消えない炎が残っていた。
「ちょっと話、いいか?」




