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死体の山で蝿に囲まれていた少女は、“蝿の王女”と呼ばれながら人間になることを学んでいる  作者: ベルモット
第3章 使われる力

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侵入

 破壊音は、想像していたよりも小さかった。


 だが、夜の静けさを裂くには十分だった。

 空気の張りつめ方が、一瞬で変わる。


 ミリアの身体が先に動いた。


 考えるより早く、足が床を滑る。

 音を立てず、光を避けるように位置を変える。


 侵入は裏手。

 距離は、部屋三つ分ほど。


 壁の向こうで、確かな重みが動く。


 靴底の感触。

 呼吸の間隔。

 衣擦れのかすかな音。


 数は三。


 ミリアは壁に背を預け、目を閉じた。


 見るためではない。

 感じ取るために。


 動きの癖が分かる。

 ためらいの位置が分かる。


 完全な素人ではない。

 だが、統率の取れた訓練でもない。


 タケトシが低く言う。


「殺すな」


 命令ではなく、確認だった。


 ミリアは答えない。

 だが、その意味は理解している。


 ここは島ではない。


 ここは、戻ってくる場所だ。


 侵入者の足が止まる。

 部屋の気配を探っている。


 こちらの位置を測ろうとしているのが分かる。


 近すぎる。


 ミリアは一歩、前に出た。


 影から影へ。

 床のきしみすら残さない移動。


 一人が振り返る。


 気づいた瞬間には、もう遅い。


 視界に捉えた時には、ミリアは懐にいた。


 腕を取る。

 力は最小限。


 関節だけを外す。


 骨は折らない。


 声が出る前に口を塞ぎ、静かに床へ落とす。


 無力化。


 残り二人が動いた。


 銃口がこちらを向く。


 遅い。


 ミリアは壁を蹴り、低く潜る。

 視線の外側へと滑り込む。


 撃たせない。

 判断させない。


 考える余地を与えない。


 戦闘ではない。


 制圧。


 タケトシは動かない。


 ただ見ている。


 ミリアの戦い方が変わっているかどうかを。


 最後の一人が後退した。


 恐怖が顔に浮かぶ。


 だが逃がさない。


 ここで逃げれば、次はもっと多く来る。


 ミリアは一瞬だけ止まる。


 それは迷いではない。

 選択の間だった。


 距離を詰める。


 意識を刈り取る。


 力は抑える。


 破壊ではなく、制御のために。


 やがて、静寂が戻った。


 残るのは呼吸だけ。


 ミリアは動かない。


 自分の手を見ている。


 震えてはいない。


 だが、確かに違う。


 島での戦いとは。


 壊すためではない。


 守るための力。


 タケトシが近づいた。


「……戻れたな」


 ミリアは答えない。


 それでも、意味は分かる。


 これは以前とは違う戦いだった。


 その時だった。


 外の闇の奥で、何かが動いた。


 ほんの一瞬。


 見ていた者がいる。


 だが、気づける者はいない。


 まだ。

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