侵入
破壊音は、想像していたよりも小さかった。
だが、夜の静けさを裂くには十分だった。
空気の張りつめ方が、一瞬で変わる。
ミリアの身体が先に動いた。
考えるより早く、足が床を滑る。
音を立てず、光を避けるように位置を変える。
侵入は裏手。
距離は、部屋三つ分ほど。
壁の向こうで、確かな重みが動く。
靴底の感触。
呼吸の間隔。
衣擦れのかすかな音。
数は三。
ミリアは壁に背を預け、目を閉じた。
見るためではない。
感じ取るために。
動きの癖が分かる。
ためらいの位置が分かる。
完全な素人ではない。
だが、統率の取れた訓練でもない。
タケトシが低く言う。
「殺すな」
命令ではなく、確認だった。
ミリアは答えない。
だが、その意味は理解している。
ここは島ではない。
ここは、戻ってくる場所だ。
侵入者の足が止まる。
部屋の気配を探っている。
こちらの位置を測ろうとしているのが分かる。
近すぎる。
ミリアは一歩、前に出た。
影から影へ。
床のきしみすら残さない移動。
一人が振り返る。
気づいた瞬間には、もう遅い。
視界に捉えた時には、ミリアは懐にいた。
腕を取る。
力は最小限。
関節だけを外す。
骨は折らない。
声が出る前に口を塞ぎ、静かに床へ落とす。
無力化。
残り二人が動いた。
銃口がこちらを向く。
遅い。
ミリアは壁を蹴り、低く潜る。
視線の外側へと滑り込む。
撃たせない。
判断させない。
考える余地を与えない。
戦闘ではない。
制圧。
タケトシは動かない。
ただ見ている。
ミリアの戦い方が変わっているかどうかを。
最後の一人が後退した。
恐怖が顔に浮かぶ。
だが逃がさない。
ここで逃げれば、次はもっと多く来る。
ミリアは一瞬だけ止まる。
それは迷いではない。
選択の間だった。
距離を詰める。
意識を刈り取る。
力は抑える。
破壊ではなく、制御のために。
やがて、静寂が戻った。
残るのは呼吸だけ。
ミリアは動かない。
自分の手を見ている。
震えてはいない。
だが、確かに違う。
島での戦いとは。
壊すためではない。
守るための力。
タケトシが近づいた。
「……戻れたな」
ミリアは答えない。
それでも、意味は分かる。
これは以前とは違う戦いだった。
その時だった。
外の闇の奥で、何かが動いた。
ほんの一瞬。
見ていた者がいる。
だが、気づける者はいない。
まだ。




