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死体の山で蝿に囲まれていた少女は、“蝿の王女”と呼ばれながら人間になることを学んでいる  作者: ベルモット
第3章 使われる力

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来るという感覚

 歩き出してからも、夜の空気は静かだった。


 だが、その静けさはさっきまでとは違っていた。


 音が消えたわけではない。

 風も匂いも、確かに存在している。


 それでも、何かが変わっている。


 背中に残る感覚が、消えない。


 視線のようなもの。


 触れられているわけではない。

 だが、確実にそこにある。


 むしろ、近づいている。


 ミリアは歩きながら、呼吸を整える。


 異常ではない。

 そう思おうとするほど、身体が強張る。


 島で覚えた反応だった。


 生き残るために必要だった感覚。


 後ろから、子供の足音が続く。


 小さい。

 規則正しい。


 乱れがない。


 人間の歩き方ではない。


 ミリアは一度、足を止める。


 子供も止まる。


 距離は変わらない。


 近づかない。

 離れない。


 ただ、そこにいる。


「……まだ離れないのか」


 低く呟く。


 問いではなく、確認だった。


 子供は答えない。


 代わりに、視線を動かす。


 その瞬間、空気がわずかに重くなる。


 呼吸が浅くなる。


 タケトシが前で立ち止まる。


 何も言わない。


 だが、警戒していることは分かった。


 同じものを感じている。


 外灯の光の下を通る。


 影が伸びる。


 一瞬だけ、数が合わない気がした。


 見てはいけない。


 そう思う前に、身体が理解していた。


 思い出せば、壊れる。


 子供が夜空を見上げる。


 星はない。

 雲もない。


 ただ黒い空が広がっている。


 それでも、何かを追っている。


「……何を見ている」


 問いは自然に出た。


 答えはない。


 子供の瞳は焦点が定まっていない。


 だが、確かに何かを見ている。


 次の瞬間。


 ミリアの身体が、勝手に動いた。


 子供の肩を掴む。


 強く。


 守るためではない。

 逃がさないためでもない。


 ただ、そうしなければならないと理解した。


 理由はない。


 だが確信がある。


 ――近い。


 その言葉が、頭の奥で響く。


 声ではない。

 思考でもない。


 ただの感覚。


 遠くで、何かが動いた。


 足音ではない。


 風でもない。


 だが確かに「意志」を持った動きだった。


 ミリアは理解する。


 これは偶然ではない。


 ずっと前から続いていた流れの中に、自分がいるのだと。


 そして今、それが動き出したのだと。

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