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死体の山で蝿に囲まれていた少女は、“蝿の王女”と呼ばれながら人間になることを学んでいる  作者: ベルモット
第3章 使われる力

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見えない違和感

朝の空気は冷たかった。


事務所の窓を開けると、夜の湿り気がまだ少し残っている。街はすでに動き始めていて、遠くで車の音が重なっていた。


ミリアは窓辺に立ち、外を見ていた。


何かがおかしい。そう思う理由を、うまく言葉にできない。


危険が迫っているわけではない。誰かの気配がはっきりあるわけでもない。


それでも、背中の奥に細い違和感が残る。


昨夜から消えない感覚だった。


机の方で紙の音がする。


タケトシが資料をめくっている。


「眠れたか」


顔を上げないまま、低い声で聞いてくる。


「……普通」


短く答える。


完全な嘘ではない。だが、本当でもない。


ミリアは窓から離れ、椅子に腰を下ろした。


机の上には、昨日の紙が置かれている。


――揺れは、小さい。


それだけの言葉。


意味は分からない。


けれど、無関係な言葉ではない気がした。


自分の何かを測られているような、そんな感覚が残る。


見られている。


その事実だけは、はっきりしていた。


「考えてるな」


タケトシが言う。


ミリアは紙を指で押さえたまま、小さく息を吐く。


「誰なんだろう」


ほとんど独り言のような声だった。


タケトシはすぐには答えない。


代わりに、資料を閉じる音がした。


「分からない相手ほど、距離を保て」


経験から出た、静かな言葉だった。


ミリアはもう一度、紙を見る。


揺れは、小さい。


それが評価なのか、警告なのか。


まだ分からない。


「……でも」


ミリアはゆっくり顔を上げた。


「近くにいる気がする」


タケトシの視線が、わずかに鋭くなる。


部屋の空気が少し変わった。


「理由は」


「分からない」


正直に言う。


それでも、確信に近い感覚があった。


孤島で何度も感じたもの。


視線。


誰かが、どこかから見ている。


ミリアは窓の外を見る。


朝の街は何も変わらない。


人が歩き、車が流れ、遠くで工事の音が響いている。


普通の景色。


それでも。


背中の奥の感覚は、まだ消えていなかった。

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