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死体の山で蝿に囲まれていた少女は、“蝿の王女”と呼ばれながら人間になることを学んでいる  作者: ベルモット
第3章 使われる力

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見えない視線

朝の空気は冷たい。


目を覚ました瞬間、胸の奥にわずかな違和感が残っていた。


夢は見ていない。

けれど、眠りが浅かったような感覚がある。


窓を開ける。


通りを走る車。

遠くの人の声。


景色はいつもと変わらない。


それでも、何かがほんの少しだけ、ずれている。


振り返る。


誰もいない。

廊下も静かだ。


気のせいだと思おうとする。

でも、身体の奥がわずかに強張っている。


食堂へ向かう。


足音が、いつもより響く気がした。


立ち止まり、耳を澄ます。


自分の呼吸だけが聞こえる。

それ以上は、何もない。


食堂に入ると、タケトシが席についていた。


視線が一瞬だけ合う。


「眠れたか」


「うん」


完全ではない。

けれど、嘘でもない。


椅子に座る。


食器の音が、妙に遠く感じる。


「今日の任務は予定通りだ」


タケトシの声は落ち着いている。


「捕縛。排除じゃない」


頷く。


捕まえる。

殺さない。


距離を詰める。


その感覚を、身体が思い出していく。


ふと、背中に視線を感じた。


今度ははっきりしている。


ゆっくり振り向く。


窓の向こう。


道路の向かい側に、黒い車が停まっていた。


エンジンは切れている。

窓は暗く、内側は見えない。


ただ、そこにある。


それだけで、空気がわずかに張りつめる。


立ち上がる。


タケトシは止めない。


外へ出る。


冷たい空気が肺に入る。


一歩、踏み出す。


車は動かない。


こちらを見ている。

そう感じる。


もう一歩。


その瞬間、エンジンが静かにかかった。


音は低く、一定だ。


車はゆっくりと発進し、角を曲がって消えた。


追わない。

追えない。


ただ、確認された。


そんな感覚だけが残る。


「気づいたか」


後ろからタケトシの声。


「うん」


「まだ動く段階じゃない」


その言葉を飲み込む。


動く段階がある。

つまり、何かは始まっている。


孤島のときとは違う。


あれは獣の気配だった。

これは、人の意志だ。


見ている。

測っている。

試している。


「……灰鐘?」


小さく呟く。


タケトシは否定しない。


「断定はするな」


それだけ。

でも、それで十分だった。


私たちは狙われているわけじゃない。

観察されている。


その距離が、かえって冷たい。


守るための力。


そう思っていた。


けれど今は、その力が見られている。


値踏みされている。


呼吸を整える。


今日は捕縛任務。


それだけだ。


それだけのはずなのに、


胸の奥の気配は、消えなかった。

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