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死体の山で蝿に囲まれていた少女は、“蝿の王女”と呼ばれながら人間になることを学んでいる  作者: ベルモット
第3章 使われる力

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気配の向こう側

夜の施設は、昼間とはまるで別の顔をしていた。

廊下の照明は半分だけ落とされ、足音が静かに反響している。


ミリアは自室の窓辺に立ち、夜の街を見下ろしていた。

遠くに灯る明かりが、孤島とは違う世界を思い出させる。


「……静かだね」


小さく呟く。


タケトシはドアの前で足を止め、控えめにノックをする。

やがてゆっくりと扉を開けた。


「起きていたのか」


「うん」


振り向いたミリアの表情は落ち着いている。

それがかえって、タケトシには気がかりだった。


「今日は何もなかった」


「うん」


「だが、何もない日が続くとは限らない」


ミリアは少しだけ目を伏せ、それから小さく頷く。


「分かってる」


タケトシはそれ以上踏み込まない。

今は押すべきではないと判断した。


「無理はするな」


「うん」


それだけを残して、タケトシは部屋を出る。

廊下の奥へと歩いていく背中は、迷いを抱えたままだった。


ミリアは再び窓の外を見る。

夜の街は静かだ。


けれど、胸の奥がわずかにざわめく。


理由は分からない。

ただ、どこかで誰かに見られているような感覚が残っていた。


――――


無機質な会議室の机に、一枚の報告書が置かれる。

そこには簡潔な文字が並んでいた。


――対象確認。

――孤島生存者。

――能力保持の可能性。


「……確定ではないのか」


低い声が問う。


「はい。ただし、複数の証言が一致しています」


「特徴は」


「現場では、“鬼”と呼ばれているようです」


わずかに空気が張りつめる。


「本人が名乗っているのか」


「いえ。現場の人間がそう呼んでいるとのことです」


「理由は」


「単独で制圧。過剰な反応速度。感情の希薄さ。

 そして、蝿が集まっていたという証言があります」


沈黙が落ちる。


「……皮肉だな」


男は椅子に深く腰を下ろした。


「放っておけ」


静かな命令だった。


「だが、記録は残せ」


「了解しました」


報告書の端に赤い印が押される。

それは“観察対象”を意味していた。


会議室の灯りが落ちる。

灰鐘は、まだ動かない。


ただ、見ている。


その夜。

眠りに落ちる直前、ミリアは胸の奥のざわめきを思い出す。


まだ遠い。


けれど、確かにある。

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