消えない
部屋に戻っても、すぐには落ち着かなかった。
椅子に座る。机の上には、何も置いていない。
それなのに、視線がそこに向く。
紙は、もうない。
でも、内容は残っている。
場所。人数。期間。
それだけ。
私は、首を振った。
考えるな。
そう思う。
胸の奥が、落ち着かないままだ。
まだ、決める場所じゃない。
立ち上がって、窓を開けた。
外の空気が入ってくる。
少し冷たい。
深く吸って、吐く。
身体は、少し落ち着いた。
頭は、そうでもない。
廊下を歩く。
食堂の方から、音がした。
食器が触れ合う音。
話し声。
いつもと同じだ。
そのはずなのに、違って聞こえる。
私は、足を止めた。
あの条件なら。
ふと、そう思ってしまう。
ここから、どれくらい離れるだろう。
何日、戻らないだろう。
誰と、行くことになるだろう。
考えるな、と言ったはずなのに。
私は、手すりに指をかける。
力を入れすぎて、少し痛い。
その感覚で、我に返る。
今は、ここにいる。
それだけでいい。
部屋に戻り、ベッドに腰を下ろした。
天井を見る。
何も書いていない。
なのに、頭の中には並んでいる。
数字と、短い言葉。
私は、目を閉じた。
しばらく、そうしていた。
どれくらい経ったかは、分からない。
ノックは、なかった。
呼び声も、ない。
それでも、条件は消えなかった。
触れただけのはずなのに。
私は、目を開ける。
決めていない。
でも、もう無関係ではいられない。




