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死体の山で蝿に囲まれていた少女は、“蝿の王女”と呼ばれながら人間になることを学んでいる  作者: ベルモット
第2章 役に立つ力

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22/201

気配

 昼前、廊下が少し騒がしくなった。


 足音が増える。扉の開く音が続く。私は、自分の部屋でそれを聞いていた。


 呼ばれてはいない。


 でも、空気が違う。


 私は、ベッドから立ち上がった。


 廊下に出ると、人が集まっている。数人の大人が、低い声で話していた。


 私の姿に気づくと、声が止まる。


 誰も、何も言わない。


 それだけで、分かってしまう。


 話題に、なっている。


 私は、視線を外した。


 通り過ぎようとしたとき、後ろから声が落ちてくる。


「……あの子の件だ」


 直接じゃない。


 私に向けた言葉でもない。


 でも、聞こえる距離だった。


「落ち着いてきた」


「外傷もない」


 短い報告。


 私は、足を止めなかった。


「今日は、もう大丈夫だろう」


 誰かが言う。


 その言い方が、少し引っかかる。


 今日は。


 私は、指先を握る。


 部屋に戻る。


 扉を閉める。


 静かになる。


 私は、椅子に腰を下ろした。


 窓の外は、いつもと同じだ。


 でも、昨日とは違う。


 何かが、私のいないところで動いている。


 私は、それに触れていない。


 まだ。


 タケトシの姿は、見えなかった。


 それが、少しだけ救いだった。


 私は、深く息を吸う。


 次は、まだ来ていない。


 そう、思うことにした。


 思わないと、身体が先に動いてしまいそうだった。

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