気配
昼前、廊下が少し騒がしくなった。
足音が増える。扉の開く音が続く。私は、自分の部屋でそれを聞いていた。
呼ばれてはいない。
でも、空気が違う。
私は、ベッドから立ち上がった。
廊下に出ると、人が集まっている。数人の大人が、低い声で話していた。
私の姿に気づくと、声が止まる。
誰も、何も言わない。
それだけで、分かってしまう。
話題に、なっている。
私は、視線を外した。
通り過ぎようとしたとき、後ろから声が落ちてくる。
「……あの子の件だ」
直接じゃない。
私に向けた言葉でもない。
でも、聞こえる距離だった。
「落ち着いてきた」
「外傷もない」
短い報告。
私は、足を止めなかった。
「今日は、もう大丈夫だろう」
誰かが言う。
その言い方が、少し引っかかる。
今日は。
私は、指先を握る。
部屋に戻る。
扉を閉める。
静かになる。
私は、椅子に腰を下ろした。
窓の外は、いつもと同じだ。
でも、昨日とは違う。
何かが、私のいないところで動いている。
私は、それに触れていない。
まだ。
タケトシの姿は、見えなかった。
それが、少しだけ救いだった。
私は、深く息を吸う。
次は、まだ来ていない。
そう、思うことにした。
思わないと、身体が先に動いてしまいそうだった。




