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泣くな!




『子供が生まれたら結婚させましょうね』



 という仲良しな母親同士の口約束が、こんな事態を生み出したのだとフィーナは思った。

 ――おのれ、お母様。


 言っても仕方がないが、フィーナは心の内で母親への恨みを呟いた。

 それから視線を下に向ける。


 おいおいと泣き声をあげ、みっともなくフィーナにすがりつく男。


 ――あなた、そんな人だったんですね。


 というのがフィーナの正直なところである。


「あの、しゃんと立ってくださる? あなた」

「離婚してくれないなら無理だぁ」


 ――子供ですらしないわ。そんな顔


 今泣き喚いている男の名は、ビルド・リンツハルト伯爵。

 フィーナの夫である。

 残念ながら。



 ことの起こりは、やはり母親同士の約束を、生まれた幼い子供たちに言ってきかせ、出会わせ、仲良く遊ばせ、そして結婚までさせた母親達なのだろう。

 しかし実際結婚するかは自分で決めなさい。というのが父の話だった。


 というのも、フィーナの実家オーレン家の当主は伯爵。そしてリンツハルトも伯爵。同じ身分同士で、敵対関係にもない。結婚して両家の関係をどうこうする必要もなく、しかもフィーナに至っては三女。

 政略結婚に積極的ではない母の意向と、歳の離れた姉達の想いもあって、フィーナには将来の自由が与えられていた。

 だから結婚相手も好きに選んでいいはずだったのだ。


 ではなぜ約束されたビルドと結婚したのかというと、まず幼い頃からそういうものと教え込まれた。というのが大きい。

 幼馴染ということもあって、ビルドのことは嫌いでなく、恋する相手もいない。

 そしてもっとも大きかったのが、今は亡き先代のリンツハルト伯爵。つまりビルドの父親の願いが大きかった。

 

 先代はそれはそれはフィーナを可愛がってくれた。

 娘に欲しい。というのは耳にタコができるくらいきいた。


 長男であるビルドが政略結婚もせずにフィーナと結婚したのは、その意向あってのことだ。

 つまり、決してビルドが積極的に望んだわけではなかったのだ。



 だとしても。である。



 結婚し、先代が亡くなり、慌ただしさが落ち着いて、ようやく夫婦生活をおくれる。というところで、なぜ突然「離婚してほしい」と言われなくてはならないのか。

 そしてなぜ、大泣きされなければならないのだろうか。

 甚だ疑問であった。


「あの、ビルド? どうして急に離婚だなんて言い出したのかしら」


 ズビッと鼻をすするビルドに苦笑いを浮かべつつ、フィーナは子供に話すように尋ねた。


「僕……好きな人がいるんだ」


 ――ほう。


「それはいつから?」

「もう三年も前からだよ」


 と言ってその相手を思い出したのか頬を染めるビルド。

 三年前。というと、まだ先代が体調を崩す前だったはずだ。


「その時点で、どうしてお義父さまにおっしゃらなかったの?」

「……相手はその……男爵令嬢で……。父は君を気に入っていたし」


 ――言い出せなかったと。


「なら、せめて私に言ってくださればよかったのに」

「言えるわけないだろう! ずっと僕と結婚すると思って生きてきた君に、婚約破棄したいなんて傷付けるようなこと!」


 フィーナはにっこりと微笑んだ。


「結婚してから離婚を言い渡されるより、百万倍マシです! このお馬鹿!」


 本当に、頭が悪いにもほどがあると、フィーナは思った。







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