第7試合 根性あれば何とかなる⁉︎
その時、また視界の脇で先程〈決闘〉スキルが発動した時と同じく運営からのメッセージが流れていた。
『HPがゼロになりましたので〈根性〉スキルが発動し、一度だけHPを1へ戻します。次にHPがゼロとなりますと死亡扱いとなり復活ポイントまで強制転移されます。また蘇生直後はペナルティとして一定時間能力値が低下します』
へえ、〈根性〉スキルにはそんな効果があったんだね。スキル説明には「根性があれば何とかなる」なんていい加減なことが書いてあったけど。
確かにこの効果はそう表現するのが妥当だね。
〈根性〉スキルの効果で何とか転倒状態から立ち直り、再び連中に向かって構え直して……あれ?
連中、私が立ち上がったの見て震えてないか?
「お、おい?今、あの女確かにHPゼロになったよな?したよな?……な、なのに何でまだ生きてるんだよ?」
「オレに聞かれたって知るかよそんなコト!HPゼロから蘇生するなんて知らねえし、聞いたコトねえよ!」
「な、なあ……もしかして、オレら、ヤベー奴に喧嘩売ったんじゃねえか?」
どうやら〈根性〉スキルの効果はあまり知られていないような発言をしていた。そのせいで目の前の連中は完全に及び腰だ。
最初はスパーリング相手にちょうど良いと思ったが、今は私もHPが1の状態だ。
ここは相手から退かせるためにもう一押し。
「……なあアンタら、まだ……戦るかい?」
凄みを利かせた表情と声色で、指をワキワキと動かしながらジリジリと連中ににじり寄っていく。
「じょ……冗談じゃねえ!PK側が返り討ちにあったなんて笑い話にもなるかよ!」
「お、覚えてろよっ!……ドワーフの女格闘家なんてそうはいないからな!絶対復讐してやるからな!」
そんな捨て台詞を言い残して、連中二人は身を翻してこちらを振り向くことなく街へと逃げ帰っていった。
そして運営側から戦闘終了を告げるメッセージが流れてくる。
『戦闘が終了しました。
〈根性〉スキルが2に上昇しました。
〈話術〉スキルが3に上昇しました。
プレイヤー◯◯から30万ゼムと魔法の指輪を強奪しました。
称号「賞金稼ぎ」と「格上喰い」を得ました』
「うん?強奪?……それに……しょ、称号って、何?」
スキルのレベルアップは非常にありがたいが。
強奪って……ああ、そういう事か。
確かにあの連中が財産没収とか言っていたな。
この30万ゼムって大金はまさにあの連中の財産だったというワケで、こちらからすれば喧嘩を売られた相手からの賞金だと理解しておこう。
私の持ち金が1000ゼムなのを考慮したら、今私はとんでもない大金持ちになってしまったのだ。
……これは怖い。
出来ることなら銀行に預けるなり、さっさと装備を購入に使ってしまって手元に残しておきたくない。
能力値なんかを確認すると、レベルが上がったことで各能力やスキルのレベルが上昇していたりするのだが。
能力値とスキル、その両方にボーナスポイントなるものが表記されていたのだ。
称号や魔法の指輪など、色々と知らないことばかりで頭が結構こんがらがっているが、まずやるべき事。
それは、宿屋に移動したほうがよいという事だ。
だって、そろそろお腹が空いてきたから。
最初にナビゲートをしてくれたAIからログアウトは宿屋や自宅など安全な場所でするように」という説明を貰っていたので。
今日の練習はここまでにしておこうと思った。
「宿代は大部屋が5ゼム、個室は10ゼムだよ」
ゲームなのでそこまで気にする必要もないが、これでも一応私は女性だと自負しているので男性と同室になる可能性のある大部屋ではなく個室を選ぶことにした。
18歳未満の子供がプレイヤーの場合は、性的な防護対策がかけられると付属してあった説明書に書いてあったが。
私は成人済みなので、本人の責任とこのゲーム世界の倫理さえ踏み外さない程度ならば、性的な要素はオープンとなっているらしい。
つまり先程のPKの連中が私に勝っていた場合、私に性的な行為をしてきた可能性もあったということだ。
くわばらくわばら。
さて、個室で安心したところで。
あらためて本日の練習の成果を見てみようとステータス画面を開く。
【ステータス】
名前 フェブラ
種族 ドワーフ
職業 剣闘士
レベル 5
HP 200/200
MP 50/50
筋力 40
耐久 40
器用 30
敏捷 28
魔力 5
精神 20
能力値ボーナス 10
装備:初心者の服、魔法の指輪(未鑑定)
持ち金:300990ゼム
スキル:
〈格闘術〉5〈体術〉5〈話術〉3〈根性〉2
〈気合い〉3〈暗視〉1〈決闘〉2
スキルボーナス 10
称号:「賞金稼ぎ」「格上喰い」
登録必殺技:キサラギスペシャル
(リストクラッチ式ハーフネルソンスープレックス)
……うん、色々と気になる点がある。
まずは「称号」の欄に二つほど追加されている新たに得た称号とやらの詳細を確認してみると、
「賞金稼ぎ」
取得条件:PK認定されているプレイヤーに挑まれた戦闘に勝利する。
効果:PK認定されたプレイヤーとの戦闘に勝利すると追加報酬を得る。
「格上喰い」
取得条件:モンスターなら20以上、プレイヤーなら10以上のレベル差のある対象と戦闘し勝利する。
効果:レベルが10以上格上の対象との戦闘時、与ダメージ上昇(中)、被ダメージ減少効果(小)。
あー……やっぱこの称号はあの連中と戦って勝利した結果なのか。
まあ、効果だけを見たら別に私にマイナスな要素は無さそうに思えるので、この点は放置しておいても良さ気だ。
それに、あの連中からお金と一緒にあの連中から「強奪」した魔法の指輪。
もちろん未鑑定なので何の効果があるのかは鑑定しないと不明なのだが。鑑定には専門のスキルを使うか、装備する必要がある。
「うーん……でもこの指輪、あの坊やが指に装備してたのバッチリ見ちゃってるんだよねえ、私」
ということは最低でも、私に不利益のある呪いの装備とかじゃないのだけは確定してる。
確かにお金に余裕はあるから鑑定士を探して鑑定して貰ってもいいのだけれど、それを探す手間が面倒くさい。
「よし!……それじゃ装備してみますか」
覚悟を決めるために一発気合を入れる声を発し。
魔法の指輪(未鑑定)を右手の人差し指に嵌めてみた。
すると、この指輪の効果がステータス画面に現れる。
戦士の指輪
「戦士の石」が嵌った銀製の指輪。
効果:防御力、筋力、敏捷が+20される。
……うおっ?コレは凄い効果なんじゃない?
身体を動かしてみて分かったけど、反応自体は元の身体とさほど違いはなかったがやっぱりドワーフだからなのか跳躍距離や走る速度が低く感じた。
最後にアクセルスピンハイを空振ったのも、ただ足が短かっただけでなくジャンプ力、回転スピード、その全てが不足していたからだ。
だから敏捷が上がるのは非常にありがたい。
なので能力値ボーナスも全部敏捷に割り振り、スキルボーナスは〈格闘術〉と〈体術〉に半々に割り振りして。
「あー楽しかった!……うん、始めるまでは楽しめるか不安だらけだったし、思わぬアクシデントもあったけど。首の怪我を気にせずに身体を動かせるの……すっごい楽しいっ!」
そんなわけで。
私、安達涼香の「ラグシアオンライン」初体験の初日は無事に終了することとなった。