【12】追放者ギルド<3>
さて、そんな話を済ませて書類上の手続きなんぞをいくつか終えてギルドのロビーに出ていくと――片隅のおんぼろのソファに、見覚えのある小柄な少女が座っていた。
あの、宿屋の娘だった。
「遅かったですね、ウォーレスさん。待ちくたびれちゃいました」
「俺は君が待ってるなんて思いもしなかったんだが……何してるんだよ、こんなところで」
「何ってそりゃあ、ウォーレスさんを迎えに来てさしあげたんじゃないですか」
「迎えに? なんで」
「ウォーレスさんのこの街での滞在場所として、うちの宿の一室をお貸ししようかと思いまして。ああ、もちろんお代はギルドの方から頂くのでご安心を」
「そりゃあありがたい話だが……なんだってまた」
「私は冒険者界隈のお話には疎いのでよく分からないですけど、有名人なんでしょう、ウォーレスさん。ならそういう人を泊めていればうちの宿屋にも箔がつくというものです」
清々しいぐらいに打算だった。
苦笑を浮かべながら、俺は肩をすくめて彼女に頷く。
「ああ、そうかい。まあでも、何であれありがたい。それじゃあこれからしばらくの間、よろしく頼むよ。ええと――」
「ソラス。ソラス・トライバルと言います。よろしくどうぞ、お客様」
あまり営業的でない涼やかな笑みを浮かべてそう返すと、彼女――ソラスは「ああ、そうそう」と付け加えるように呟いた。
「それはそれとして、ウォーレスさんに早速ひとつクエスト依頼を出させて頂きました。初仕事としてぜひ、こなしていただけると幸いです」
「依頼だって?」
ソラスの言葉にそう訊き返しながら、俺はロビーの壁に貼り付けられた依頼掲示板を見る。
「近隣の野盗退治」だとか「行方不明の子供捜索」だとかまばらにクエスト依頼書が貼られたその中には、たしかにソラスの名前で出されたものが一枚あった。
「なになに……『薬の材料調達依頼』? 君、体の具合でも悪いのか?」
そんな俺の質問に、ソラスは首を横に振る。
「いえ、私は健康体そのものですが……私のお父さんが少しばかり病弱でして。滋養強壮のためにと定期的に薬を調合しているんです」
「お父さん、か。……なるほど、だから君が一人で宿を切り盛りしてたのか」
「そんなところです」
短く頷いた後、彼女はそこでその形の良い眉を少しばかり困ったようにしかめる。
「で、その薬の素材を定期的に街の外の森まで集めに行っているのですが……最近そこにモンスターが住み着き始めて、私一人では近寄れないのです」
そんな彼女の言葉で、俺も合点がいく。
「なるほど。だからモンスターを追い払ってくれと、そういうことか」
「はい。……お願いできると、幸いなのですが」
そう言ってくるソラスに――俺は依頼書を手に取りながら、頷いてみせる。
「ああ。寝床を貸してくれるってんなら、その恩もあるしな。この依頼、俺が引き受けるよ」
そう返すと、ソラスはぱあっとその表情を和らげて笑みを浮かべる。
「ありがとうございます、ウォーレスさん。であれば道案内に私も同行しますので」
「ああ、頼むよ。……ちなみにモンスターって、どんな奴なんだ?」
何気なくそう問うと、彼女は笑顔のまま、
「トビヒハキオオトカゲです」
「トビヒハキオオトカゲか。聞き慣れない名前だな……」
「ええ、まあ。ちょっと空を飛んだりするくらいの、何の変哲もないトカゲですよ。ウォーレスさんなら楽勝だと思います」
「過大評価な気もするが……まあいいか。トカゲの1匹や2匹くらいなら、実際楽勝だろ」
以前の俺ならばわからないが、今はこの【腕輪】と【剣】があるのだ。
そんじょそこらの雑魚モンスターになら、まるで負ける気はしなかった。
そう。そんじょそこらの、雑魚モンスターになら――
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