3︰人間X
「美月。あのさ……」
「や、やめ……来ないで!!」
もう合わないだろうと思っていたし、もう合いたくないと思っていた。
どうやら運命の女神様はとても残酷、そんな言葉はどこでもよく聞くけれど、流石どこでもよく聞く言葉。
ほんとうに、ほんっっとうに、ほんとにほんとにほんとに残酷……!!
運命の女神様ってサイテーー!!
「……なに、いきなり大きな声出しちゃって、みんな驚いてるよ」
──え?
周りをよくみわたしてみる。
そしてこの数秒をちょっと思い返しては、ハッとした。
「あ、いや……その、ご、ごめん」
な、なんでコイツなんかに謝ってるんだろう、アタシ……。
し、仕方、仕方ない。だってアタシが謝ったのは周りに対してだし、コイツにでは無いし。
「まあとりあえず来てよ。こっち」
来いと言われて素直に応じてやろうとも思えないけど、とりわけ断る理由もなく、どころか昨日のことを問い詰めなければならない。
……ちょっと怖いけど、いやとても怖いけど!
「ぁ……うん、わ、わかっ……た」
「随分素直なんだね」
「っ……」
なぜ声が震えたのかは自分でもよくわからないし、理由を考えるより前に苛立ちが来た。
そしてその苛立ちを表に出すより早かったのは、沈黙という重圧と、いやに耳につく小さな周りの話声。
そのまま廊下を二人で……アタシはアイツの少し後ろをついて行く形で歩いていく。
少なくともアタシは俯いて歩いている、だから周りにはどういう風に見えているのかはわからないけれど、とにかくいい風には映んないだろーな、ということは理解できた。
ふと昨日のことに思い馳せる。少しぐらいは思い出せないか、と。
そうして無理に思い出せない昨日の消えた記憶を引きずり出そうとしていたら、不意に浮遊感を感じて思考が止まる。
「え……」
「え? あ、ちょっ……美月!」
前に立って歩いていたアイツが自分に手を伸ばしているのが見える。
咄嗟にその手を掴もうと手を伸ばし、その手が空を切った。
背中をいくつかの段に押し付けられながら落下する感覚。
どうやら階段から落ちたらしい。
踊り場まで転がり落ちて、中途半端に意識朦朧とした頭で何かを理解しても、納得までは行き着かない。
……いま、階段にいたんだなぁ。そんなことをしんみりと感じながら。
少し思考を動かせてきた気もする。
だんだん明瞭になってきた視界の中に、アイツの制服が見えた。
……まって、まって、アイツの目の前でいま、アタシ倒れてるじゃん……!!
弱み握られているのだからそんな、これ以上弱いところは見せてたまるか!!
気合いで体をおこして、なんとか平気そうに見せるためにしっかり白い地面を踏み締めた。
「ちゃんと階段上がる時は注意してあがってよ……もう、心臓に悪いな……」
「いちいち助けようとなんてしなくていいのに。ほら、大丈夫だから。もたもたしてると時間無くなるよ!」
そう言ってくるり、と回ってみせる。
けど今度ははっきりと、足にへんな感覚が走るのを感じた。
また、また倒れるわけにはとバランスを取ろうとしたけれど、無理にバランスを取ろうとしたからなのか、さっきに次いでまたも倒れそうになる。
「わっ?!」
「ちょっと美月!!」
そしてまた思考停止。
引っ張られたのはわかる、それにまだ倒れてないのを考えると……。
頭を上げてまた、ぼんやりしてしまう。
アイツの顔が、すぐ目の前に、あった、から……。
「君さ。本当に嘘下手だからあんまり意地はらない方がいいし、なにより自分のことしか見えてないからこうなるんだ」
「う、うるさいっ!!」
「倒れないように支えてやった人に対してそれ、かぁ」
優しく体を引き剥がされる。
私気づかなかったけど、ずっと顔を見ていたっぽい。
え、えぇ……なんで?! なんで私がこいつなんかの顔ずっと見てなきゃなんないのよ!!
もう、最悪、最悪、最悪……この時間全部こいつに渡してやるつもりなかったのに……
濁った音が響き渡る。
もうこの時間は終わり。
なんとなく、もうそろそろ時間だとは思ってたけど、まさかそう思ったその瞬間終わると誰が思うの?
「も、もう時間だから教室に急がなきゃ」
「……そうだね、じゃあまた、昼休みにでも」
「放課後とかでいいじゃんめんどくさい」
「放課後だと、お互いにさ、都合合わないでしょ?」
そっか……アタシの彼氏の件とか気にしてくれてるんだ……とか思ったけれど、だとしたらなんで一線超えてしまったのかという問題に行き着く。
なんで、なんで、アタシに彼氏いること知ってるでしょ……!?
それとも揉めたからもう大丈夫だって思ったの?
そんなの……そんな、自分勝手な……!!
「美月、ほら僕さ、アルバイトしてるし。見たでしょ?」
……そういえばそうだったな、なんてあほらしいことを思った。
元を思えばそれが始まりだったのに、そこまで意識が回ってなかったなんて。
「まあとにかく、教室行こっか。一緒に、ね」
「はぁ!? なんでアンタなんかと一緒に……」
「だってほら、方向同じだよ。途中でさよならするだけ」
「あぁ……そっか」
本当に自分ってバカでアホなんだなと、心からそう思った。
まあ、その一瞬だし。
だから、途中まで結局一緒に教室へ戻ることにした。




