冬麻と菜月の日常?
舞台はハピネスを離れ、遠く海外へ。
冬麻さんと菜月さんは元気でしょうか……。
バババババババ
「あら~、そう言えば私、ガスの元栓閉めたかしら~?」
「大丈夫だと思うよ。菜月は心配性だな」
「えへへ~♪」
バババババババ
「そう言えば、昨日秋乃ちゃんからメールが来たのよ~」
「おお、愛しの秋乃からか」
「お友達も一杯出来て~、学校生活は順調ですって」
「はっはっは、それは何よりだ」
バババババババ
「それとね~、ハルちゃんからもメールが来たのよ~」
「あの愚息が連絡を入れるとは珍しい」
「駄目よパパ。ハルちゃんだって、私達の可愛い子供でしょ~」
「すまんすまん、どうも癖でな」
「あのね~、バイト先の人達に、モノマネの事話したんだって~」
「……ほう?」
「その人達の事、随分信頼してるのね~」
「俺達以外には殆ど教えなかったからな。まあ、無理もないが」
「よね~。子供の頃は大変だったし」
「まあ、あいつが自分で話したのなら問題無かろう。しかし、ハピネスと言ったかな?」
「うん、便利屋さんだって聞いてるわよ」
「少し調べておくか。場合によっては、一度直接伺うのも良いだろう」
「ふふ、パパったら何だかんだ言っても、ハルちゃんの事心配なのね~」
「君や秋乃と違って、あいつは弱っちいからな」
「そう言う事にしておくね♪」
バババババババ
「それとね、ハルちゃん怪盗コレクトに会ったんだって~」
「彼は今日本にいるのか?」
「みたいね~。美術品の宝石を巡って戦ったんらしいわよ」
「勝ったのか?」
「引き分けだって~。美術品は守ったけど、逃げられちゃったみたい」
「それは勝ちに等しいな。しかしハルめ、なかなか良い経験をしている」
「次会うときは、凄く逞しくなってたりして~♪」
「……菜月、期待はしない方が良いぞ」
バババババババ
「そうだ、菜月。実はトムから雰囲気の良いレストランを教えて貰ったんだ」
「あら素敵ね~」
「どうだい、今夜二人で夜景を見ながら食事、と言うのは」
「喜んでお誘いを受けるわよ♪」
「もう予約をしてあるんだ。最近忙しくて、なかなか時間が取れなかったからね」
「そうね~。ゆっくり寝る暇も無かったし」
「……今夜もそれは無理だと思うが?」
「あらやだ、もうパパったら~♪」
「……りとも」
「菜月……」
「……人りとも」
「パパ……」
「お二人ともっ!!」
横から聞こえてきた叫び声に、菜月と冬麻は近づく唇を止める。
「何だねジャック。今良いところなんだが」
「何だね、じゃ無いですよっ!! 状況を考えて下さい」
ジャックと呼ばれた金髪の青年は、顔を真っ赤にして叫ぶ。
「状況? 勿論把握して居るとも」
「武装したテロ組織のアジトに~、突入作戦中。つまり~」
「「戦場だ(よ~)」」
「戦場でノロてんじゃねぇぇぇぇ!!!」
ジャックの絶叫に、先程から絶え間なく聞こえてくる銃声がかき消された。
状況説明。
敵アジトの広い通路。奥からは数名の敵が、マシンガンで絶え間なく銃撃。
冬麻、菜月、そしてジャックは、曲がり角に隠れて隙を窺っている。
以上説明終わり。
「どう考えたら、この状況でノロケられるんですかっ!?」
「若いなジャック。戦場では心を乱した者から死んでいくのだよ」
「流石パパ。カッコ良いわ~♪」
「ああ~もお~」
頭をかきむしるジャック。
「ここを突破出来なければ、敵のボスに逃げられて作戦失敗なんですよ」
「分かっているさ。少し落ち着けよ」
「だから……」
「ジャックちゃん。慌てた心じゃ、良い作戦も出てこないわよ~」
「そう、菜月が今良いこと言った」
マイペースな二人に、ジャックは気が気じゃない。
このまま時間が過ぎれば、作戦は失敗。
巨悪を取り逃がすことなど、正義感の強いジャックには到底許せない事だ。
「落ち着けよ。君が落ち着いたら、そろそろ動くからさ」
「……はい?」
「ジャックちゃんたら、ここ来てからずっと慌てっぱなし何だもん」
「平静を保てとは言わないが、焦った状態では良い結果は出ないぞ」
「では、お二人は自分のためにわざと時間を稼いで……」
「あ、パパ。私この間新しいネグリジェ買ったのよ~」
「ほほう、それは楽しみだ。君の艶姿、たっぷり堪能させて貰おうかな」
「そんな訳無いですねぇぇぇ。分かってましたよぉぉぉ!!」
叫ぶジャックだが、心は先程よりも大分落ち着いてきていた。
「では、そろそろ仕掛けるとするか」
「……何故このタイミングで?」
「ずっと銃撃してて、相手から何のリアクションも無かったら、どう思う?」
「それは、不審がります」
「良い答えだ。不審は迷いを産み、迷いは隙を産む」
「それでも銃撃を続けるのは~、彼らが良く訓練されてるからね~」
「なら、どうやって突破を?」
「簡単だ。心を乱して、奇襲をかければ良い。姿勢を低くして、耳を塞いでいろ」
冬麻は懐から、煙草の箱を取り出す。
二十本の煙草を全て口にくわえて、火を点けた。
「じゃあよろしくね~」
菜月に頷くと、冬麻は一気に煙草を吸う。
火を点けられた煙草は、全て根本まで灰になった。
そして、
「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」
口と肺一杯に溜まった煙を、通路の奥に向けて思い切り吹き出した。
周囲に真っ白な煙が充満して、視界はほぼゼロになる。
突然の変化に敵は動揺したのか、怒声が響き銃撃がまばらになる。
ほんの一瞬乱れた心。その隙を冬麻は逃さない。
「喝っっっっっっっっっ!!!」
気合い一閃。
冬麻から発せられた「気」の様なものが、アジト中を震わせる。
それで充分だった。
煙が晴れた時には、通路の奥に敵が折り重なるように倒れていた。
その後はさしたる抵抗もなく、無事敵のボスを捕縛することが出来た。
応援部隊に引き渡し、ようやく冬麻達はお役ご免だ。
「ふむ、任務は無事完了だな」
「お疲れさまね」
「な~に、本当の戦いはこれからだぞ」
「もう、パパったら♪」
バカップルモード突入の二人に、一人の男が近づく。
「御堂様、お役目お疲れさまです」
「ああ、何とか無事に終わったよ」
「それでどうでしたか、うちの若いのは」
「良い物持ってるわ~。もう少し実戦経験詰めば、良い捜査官になると思うわよ」
「もうちょっと心にゆとりが欲しいが、まあ初陣としては立派かな」
「それは何よりです。すいませんでした、お二人の手を煩わせてしまい」
「気にしないで~。味方の育成も大事な仕事だから~」
「悪の組織は多いからな。優秀な味方が一人でも増えるのは、大歓迎さ」
「ありがとうございます。では私は事後処理がありますので」
男は一礼して、二人の前から立ち去った。
この世に悪があるかぎり、二人の戦いは終わらない。
何故なら二人は「正義の味方」なのだから。
実際にいたら、寿命が縮むほどイライラするバカップルですね。
ジャックはみんなの代弁者でしょう。
少しだけ、物語は動き始めました。
ハルのモノマネ。
これが、この物語のキーになります。
これからも、スローペースで話は進んで参ります。
次回もまたお付き合い頂ければ幸いです。