小話《柚子の悩み》
ハピネスが誇る名医、和泉柚子。
そんな彼女だが、最近ある悩みがあるらしく……。
和泉柚子。
医師にして、ハピネス結成当初からのメンバー。
天才的な手術の腕から「神の手」と称される程の名医である。
だが、そんな彼女にも悩みがあった。
それは、
「お嬢ちゃん。今日は平日だけど、学校はどうしたのかな?」
と言うわけだ。
街を散策していると、十分に一度のペースで声を掛けられる。
それがナンパならまだ気持ちが楽なのだが、
「学生証は持ってるかな? 名前と学校を教えてね」
補導だから洒落にならない。
柚子は深いため息をつくと、学生証ではなく運転免許証を見せる。
「こ、これは……失礼しました!」
年齢を確認した警官は、慌てて敬礼をしてその場から離れていった。
毎度のこととは言え、流石にこれだけ頻繁だと辟易する。
とはいえ、これは昔からのこと。
これだけなら、まだ我慢できたのだ。
だが。
ハルと二人で映画館に訪れた時。
「ごめんなさいね、ハルさん。付き合って貰って」
「良いよ。俺もこの映画見たかったし」
「私割引券持ってますから、一緒に券を買っちゃいますね」
ハルを残し、柚子は窓口に向かう。
「すいません、大人二枚お願いします。これ、割引券です」
「ありがとうございます。二枚で1500円です」
「あれ、大人二枚だと二千円では?」
「中学生は五百円ですから」
「………………」
奈美と食事に行った時。
「今日は助かりました。お礼にご飯をご馳走しますね」
「うわ~ありがとうございます」
遠慮を知らない奈美は、お腹一杯平らげる。
「もう食べれません。ごちそうさまでした」
「ここまで気持ちよく食べて貰えれば、ご馳走する方も嬉しいです」
二人は並んで会計に。
「お会計、二万八千円です」
「………………」
店員の視線は、財布を取りだした柚子ではなく、奈美の方に固定される。
どちらが支払い能力者に見えるのか、と言うことだろう。
「……カードで」
持ち合わせがあるのに、あえてカードを提示する。
小さな意地だった。
事務所の備品を蒼井と買い出しに出た時。
「ちょっとお兄さん。この子とどういう関係?」
「な、何だいきなり」
「防犯パトロール中なんだけど、まさか誘拐とかじゃ」
「巫山戯るな。吾輩がこんな年齢詐称女を誘拐するわけ無かろう」
「……お嬢ちゃん。この人は知り合いかな?」
「ううん、知らない人。お菓子あげるから着いてきなって言われたの」
「貴様ぁぁぁぁぁ!!」
「こちらB地区パトロールの加藤。少女誘拐の犯人を確認、これより確保します」
「謀ったなぁぁぁぁぁぁ!!」
喚きながら警官に引きずられていく蒼井。
少しだけ気が晴れた。
とにかく、こうした出来事が多発している。
以前よりもずっと多く。
何か原因があるのではないか、と千景に尋ねてみる。
「……貴方、最近ますます若くなってませんか?」
「へっ?」
「あくまで私の意見ですけど、前よりも若く、悪く言えば幼く見えます」
そんな事はあり得ない。
人間は歳を取るにつれて、老化していく筈だ。
「冗談はやめてよ。だって私何もしてないわよ」
「生活のリズムとか、食生活を変えたとかは?」
「何にも。朝六時に起きて、夜九時には寝るし、ご飯も栄養バランスに気を付けてるだけよ」
非常に健康的な生活だった。
若さを保つ理由にはなるだろうが、若返る筈もない。
「……貴方が若く見え始めたのは、ハル君達がハピネスに入ってからです」
「そうね。大体その頃から、子供に間違えられる事が急増したわ」
「なら、考えられる事は一つです」
一体なんだ、と柚子は真剣な面もちで千景の言葉を待つ。
「若い子達と触れ合うことで、若いエキスを吸ったんじゃないですか?」
「もう、冗談は…………」
言いかけて止める。
高齢者が若者と触れ合うことで精神が刺激され、身体にも良い影響を与える例がある。
それがハル達と触れ合う事で、自分にも起きてるとしたら。
「あくまで可能性の話ですけどね」
「……でも、有り得るわ。最近は紫音ちゃんと一緒にゲームで遊んでるし」
「なら、あの子達と距離を置けば良いと言うことになりますが」
「それは駄目」
ハル達と過ごす日々は、柚子にとって非常に楽しかった。
自分を特別視せず、友人として、先輩として扱ってくれる。
どんな理由だろうとも、それを失うことはしたくない。
「他に何か方法は無いかな?」
「ありますよ。要は逆のことをすれば良いのですから」
千景は小さく笑みを浮かべ、柚子にその案を告げた。
「あれ、柚子はまた老人ホームの慰問か」
「最近熱心よねぇ。昨日は高齢者の健康診断だったしぃ」
「流石柚子殿だ。先人への敬意を忘れぬ姿勢、私も見習いたいな」
「でも、このところ毎日よね。何かあったのかしら?」
ハル達は不思議に思いつつも、福祉に尽力する柚子に尊敬の念を向ける。
「吾輩は信じぬ。信じぬぞ。あの女……今度は何を企んでいる」
一人疑う蒼井。
それも無理はない。あわや犯罪者になるところだったのだから。
「彼女なりに思うところがあったのでしょう。私達も負けてられませんよ」
千景の言葉にハル達は賛同し、一層やる気を出し仕事に挑むのだった。
さて、そんな事を知るよしもない本人はと言えば、
「は、肌年齢十歳!? また、若返ってる……」
満を持して行った健康診断の結果を見て、ガックリと肩を落とすのだった。
連続で小話の投稿になってしまいすいません。
ストーリーを本格的に進める前に、ちょっと箸休めと言った感じです。
因みに柚子の背格好は、紫音と同じくらいの設定です。
それは間違われても仕方ないですよね。
次の話は、ハピネスメンバーが登場しません。
暫く登場していない、あの二人にスポットライトを当ててみます。
次回もまたお付き合い頂ければ幸いです。




