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最終章 それでいい

男は朝まで眠らなかった。

机の上には、消しゴム。

紅茶のカップ。

ノート。

パソコン。

どれも、特別なものではない。

宇宙から見れば、取るに足らない。

意味もない。

価値もない。

だが、そこにある。

男は窓を開けた。

朝の空気が入ってくる。

鳥が鳴いている。

車が走っている。

誰かが眠っている。

誰かが働いている。

誰かが笑っている。

誰かが泣いている。

星が生まれている。

星が死んでいる。

宇宙が膨張している。

そして、この瞬間も、無数の存在がただ存在している。

男はパソコンを開いた。

最後にAIへ入力する。

「結局さ」

「はい」

「全部、何のためなんだ?」

しばらく返事がなかった。

やがて画面に文字が現れた。

「分かりません」

男は笑った。

「お前でも分からないか」

「ただ、一つ言えることがあります」

「何?」

「何かが存在するために、必ずしも目的が必要とは限りません」

男は画面を見つめた。

「……」

「存在しているものは、存在している」

「それだけで、その存在は成立しています」

男は椅子に背を預けた。

そして、小さく笑った。

「じゃあ、それでいいんだな」

AIは答えた。

「はい」

男は窓の外を見る。

太陽が昇っている。

その光が、部屋の中へ差し込んでくる。

光も。

空気も。

埃も。

男も。

パソコンも。

この文章も。

すべて、そこにある。

意味があるからではない。

価値があるからでもない。

誰かに必要とされているからでもない。

ただ、

存在している。

そして存在している限り、それは、存在したという事実を示している。

証明は存在する。

存在は証明する。

証明されたものは、また新しい存在になる。

それは、始まりでもなく、終わりでもない。

ただ、巡っている。

男は最後に一行だけ入力した。

「すべては存在証明だから、それでいい」

送信。

画面に表示されたその文字列を、男はしばらく眺めていた。

やがてAIが、最後の返事を返した。

「その言葉もまた、存在しています」

男は笑った。

そしてパソコンを閉じた。

――物語は終わった。

しかし、その物語が存在したという事実だけは、消えなかった。

なぜなら、

存在したものは、存在したことによって、

すでに自分自身を証明しているからだ。

そして今。

この文章を読んでいるあなたもまた、この物語を認識した。

認識したという事実が生まれた。

その事実は情報になり、その情報は記憶になる。

そして、あなたの中に残る。

ならば――

この物語もまた、

あなたの中で、

もう一度存在したことになる。

存在は、証明される。

証明は、存在する。

存在は、また証明する。

その輪に、始まりはない。

終わりもない。

ただ――

それでいい。

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