プロローグ 俺は、存在しているのか
現実と虚構のアンチテーゼ
男は、夜中にふと目を覚ました。
部屋は暗かった。
枕元の時計だけが、午前二時を示している。
まだ眠気は残っていた。けれど、一度目を覚ましてしまうと、頭の中には妙にくだらないことが浮かんでくる。
今夜もそうだった。
男は天井を見つめたまま、ぼんやりと考えた。
――俺って、本当に存在してるんだろうか。
肉体がある。
記憶がある。
名前がある。
昨日までの出来事も覚えている。
鏡を見れば、自分の姿が映る。
写真にも自分が写っている。
戸籍にも名前がある。
誰かに呼ばれれば、振り向く。
それでも。
男は眉を寄せた。
それらはすべて、「自分が存在している」という前提の上に成り立っているのではないか。
鏡に映っているものが、自分であることをどうやって証明する?
写真に写っている人物が、自分だとどうやって証明する?
戸籍に名前があることは、自分の存在そのものを証明しているのか?
他人が自分を認識していることは?
考えれば考えるほど、足元が怪しくなっていく。
男は起き上がった。
枕元のパソコンを開く。
そして、AIに入力した。
「自己の存在を、自分自身で証明することってできると思う?」
しばらくして、画面に文字が現れた。
「難しい質問ですね」
男は小さく笑った。
「またその答えかよ」
だが、その下に続いた一文を読んで、笑いが止まった。
「もしかすると、存在していること自体が、存在証明なのかもしれません」
男は画面を見つめた。
午前二時。
部屋は静まり返っている。
なのに、その一言だけが妙に頭から離れなかった。




