第四十二話
それから十時間後。すでに朝日が昇り始めた時間になり、シドナムの言う集会が始まった。24区の象徴であるツインタワーの片割れに大規模な会議室がある。三百人以上参加できるような巨大なホールだが、そこに集まったのはたったの八人だけだった。その中にシドナムもいた。しかし研究の責任者であるシドナムを除いて、彼らはこの島で行われている研究に決して必要な人材ではない。国にも認められていない不法侵入者だ。彼らはシドナムが勝手に招き入れたのである。
「まさか本当に片付けを終わらせるとはな、ハヴァ」
会議室の前列に座る参加者にはハヴァもいた。シドナムは彼に嫌味ったらしくそう言い放つ。
「窓ガラスの替えがねぇもんで、本土まで飛んでいったんすよ。体力使うわ無駄金を使うわでもうガラス割るのは勘弁っす」
「そうしとけ。これからもっと金入りが悪くなるからな」
会議室前方スクリーンの前に立つシドナムは参加者を見る。彼らは老若男女様々でまるで統一性がない。少なくとも誰が見ても研究者ではないことは確かだ。だが重要な人物であることには変わりない。
「さて、こんなクソ朝早くに集まってくれてありがとう。お前らに大事な報告がある」
大事な報告と言われ一同の空気が張り詰める。
「昨晩ハヴァが大臣を殺した」
大臣と言われ彼らはまず総理大臣を考える。それしか考えつかないものの、とても信じられなかった一人が挙手し、確認する。
「ボス、大臣ってあの立田ですか?」
質問したのは黒髪長髪の男だ。この中で一番背が高い。
「もちろんだ。あいつは前から邪魔だったからな。これで問題なく好きに動ける」
「それで、これからどうするんですかな?」
何かを企むシドナムに声をかける老人。かなりの老齢で腰が曲がってしまっている。
「まずこの島を奪った。次は独立だ。どこにも負けない力を手に入れる必要がある。お前らみたいな人造人間がたくさん必要だ」
この場においてシドナム以外全員が人造人間である。それぞれが自己再生をし、特殊な力を個別に持っている。己の力を振るえば簡単に人を殺せるような恐ろしい能力を秘めているのだ。
「まだ人造人間を集めるということですか」
黒髪長髪長身の男が言う。シドナムは頷いてそれに答え、さらに言葉を続ける。
「目星はついてるんだ。人造人間ナンバー9『ネネ』だ」
シドナムが手元のスイッチを押すとプロジェクターの電源が入り、スクリーンに画像が映し出された。一人の女子高生が友人と思われる男子生徒と共に下校する写真だ。笑っている女子高生の目つきが悪く、それが特徴となっている。
「確かな情報筋からだから間違いない。こいつは最近日本で確認された伝説の人造人間の一人だ。現在は『白銀ネネ』と名乗っている」
伝説、と聞いて全員がざわつく。こんな子供が伝説と言われる人造人間には見えないからだ。
「ボス、伝説っていうのは、もしかして『初期型』ってことですかね」
恐る恐るハヴァが聞く。
『初期型』。ハヴァは様々な国の機密を平気で口にした。誰も知らないことだが、知っていることが逆に自らを危険にさらす可能性がある。『初期型』という言葉はそんな事態を引き起こす危ない言葉なのだ。
「そうだ。初期型の人造人間は俺たちの仲間として是非欲しい。情報はすでにお前らの携帯に送ってあるから確認しておけ」
人造人間たちは各々の携帯端末を取り出して送られてきたデータの確認をする。
「さて、この仕事だが……ランヂ、やってくれるか?」
ランヂと呼ばれた人物、先ほどから積極的にシドナムの話に相槌を打ち、質問をしていた黒髪長髪の男だ。シドナムとは付き合いこそそこまで長くはないが、こうして人の話を聞く姿勢を取ることで信頼を積み重ねてきた。まともな仕事をしたことがなくとも彼らにはある程度の信頼がある。
「もちろんです。僕に任せてくださいよ。明日にはネネはこちらの仲間です」
「そいつは頼もしいな。居候先の住人はただの人間だ。俺たちには必要ない。殺してしまえ」
「了解です」
「お前らもうすぐだ。もうすぐで俺たちが自由に生きられる世界が手に入る。それまで気張ってくれ」
そう言うとシドナムはプロジェクターの電源を落とす。会話の流れから誰もがこの集会が終わりになると思っていたときだった。
「あの……」
か細く消えてしまいそうな声が上がった。
前列に座る参加者のうち、一番隅に座り今まで全く目立とうとしなかった人物へ、他の全員が目をやる。
ショットグラスを買ったと思ったら計量カップでした!チクショー!




