第四十一話
「お前、なんだそれはッ」
奇妙な殺しの現場を目撃し、さらに殺人犯が目の前にいるとあって立田はすでに腰が抜けていた。シドナムとハヴァを視界に捉えながらドアへ向かってゆっくりと這いずる。
「大臣、逃げないでくださいよ。もうあんたは終わりなんだ」
シドナムが懐からタバコの箱を取り出し、慣れた手つきで咥えてライターで火をつける。もはやここが禁煙であることは誰にとってもどうでもいいことだ。一服してから彼は口を開く。
「ハヴァ、あとは頼んだ」
どかっとソファに座るシドナム。命令されたハヴァは立田を見た。同時に彼の手の光の塊がさらに大きくなる。
「やめろ、殺さないでくれ!」
「そりゃ無理だおっさん。俺の仕事は殺すことなんだ。諦めてくれ」
ズボンに小便の染みを作って命乞いする立田の前で彼はその光の塊を近づけていく。触れればどうなるか立田には分からない。だが死ぬことだけは間違いない。しかし自分がどうやって死ぬのか分からないのがまた立田の恐怖を増幅させる。
「ひいやああああ」
声にならない声を上げ、絶叫する立田。
「待てよハヴァ。ここでやっちまったら片付けが大変だろうが」
「じゃあどこでやれって言うんすか」
「ここじゃないどこかだ」
シドナムとハヴァの会話も聞こえないほどに立田は混乱している。今すぐ立ち上がれればドアの向こう側へ逃げられるというのに、体が言うことを聞いてくれないのだ。
「わかりましたよボス。外でやりゃあいいんでしょ」
彼らが話をしている間に、立田はなんとかドアノブに手をかけることできた。ゆっくりとドアを開け、廊下へ出ようとする。
「だから逃げんなって、おっさん」
ハヴァの手から光の塊が発射される。予備動作もなく、まるで空気の流れに乗っているかのように立田へと流れていく。
その塊は立田の背中に命中すると服と皮膚を裂き、食い込んだ。
「うぎゃあああああッ」
立田の絶叫が廊下に響き渡る。
「外に出たけりゃ出してやるよ!」
そう言うとハヴァはロープを引く動作をした。するとどうだろうか、連動して立田の体が無理やり彼らの方へと飛ばされた。ハヴァは見えないアンカーを作り出したのだ。
飛ばされた立田は部屋を横断し、窓ガラスを割って飛び出した。
「あ」
64階から落ちていく立田が何かを言おうとしたがすでに時遅く、ハヴァによるさらなる光の塊が飛んできているのが目に入った。それが空中で命中し、破裂した。
立田の体も巻き込まれ、強力な空気の圧力に彼はあっけなく爆散し消えてなくなった。唯一残った彼の右手が窓ガラスに張り付いた。だがそれもすぐに落下し見えなくなった。
「おー、激しいな」
「汚ねぇ花火、ってやつだぜ」
大臣の処理を終え、ハヴァはシドナムの方を見る。
「こうなっちまった以上後戻りはできないっすよ。ボス、そろそろ俺にもちゃんとした仕事くれるってことですよね?」
「もちろんだ。今すぐ仕事をくれてやる」
「本当っすか。なんでもやりますよ」
シドナムが部屋から出る。ハヴァもついていくがドアの辺りで彼に手のひらで制される。
「なんすか」
「まずは散らかったこの部屋の掃除を頼む。お前がやったんだからな。片付けは大事だぞ」
「掃除って、ここを?」
部屋の中を見回してみるとまず目に入ったのが割れた窓ガラスだ。これは替えなければならないだろう。誰の金で新しいガラスを用意するのか、簡単だ。ハヴァのポケットマネーだ。毎月そこそこの金をもらっているがここまで大きな窓ガラスを用意するとなると頭が痛い。
「終わったら集会するから連絡しろ。じゃあな」
ドアの淵にタバコを押し付け消火するシドナム。彼はそれを部屋の中に放り投げるとハヴァのことを振り返ることもなく去っていった。
「くそっ、タバコぐらいてめぇで片付けろってんだ」
悪態をつくとハヴァは部屋の掃除に取り掛かった。
地面に落下した血しぶき内臓右手諸々の片づけ大変そうだね。




