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第四十話

「なんてことだ。こんな技術が完成していたとは」


 もはや疑う余地はない。目の前で傷を負った人間が瞬時に再生するのだから。総理大臣という立場を利用して国家機密をいくつか覗いてきたが、今までこんな技術がお披露目されたことなど一度もなかった。本当にここで完成させたのだろう。

 しかし立田には気になることが一つだけあった。どうしても気になるたった一つのポイントだ。


「目標は臓器と四肢の複製だろう? クローン人間とはどういうことだ。なぜいくつも段階を踏み越えてクローン人間を造ったんだ? そのわけを教えて欲しい」


 このプロジェクトは人間そのものを造ることを想定していない。後々宗教絡みや倫理問題が邪魔をしてくることは目に見えているからだ。だから人体の一部だけを複製することを目的としている。だがシドナムはこの男を人造人間だと言い張った。先ほどからシドナムの言動がなにやらきな臭い。


「実はね、大臣。俺、最初から臓器の複製だとかそんなの興味なかったんですよ。俺が昔いた場所ではとっくに人間のコピーができる環境でしてね、今更なにしようってんだって話 なんですよ」


 シドナムの態度が一変、急に馴れ馴れしくなる。彼が今までこのような態度を取ったことはなく、およそまともな状態ではないことがわかった。


「なんだ、言葉には気をつけろよ。今の発言は忘れないぞ」

「待てよ、待てってば」

「国家予算を使ってできたものがクローン人間だと? どうせろくな理由じゃないんだろう。お前は言われた通りに臓器を作っていればいいんだ」

「なんだと? ああクソ、もうどうだっていい」


 短気で有名な大臣の追い詰めるような発言に、これから何かを言おうとしたがそれを邪魔されたシドナムは眉間に皺を寄せて腕まくりした。空気はどちらにとっても最悪だった。


「クソジジイてめぇ、俺はなぁ、今からこの島を乗っ取るからな」

「何を言うかと思いきや、実験のし過ぎで気が狂ったか」


 あまりに荒唐無稽な話に立田は鼻で笑う。もはや関係の修復は不可能であり、立田にとってのシドナムは動物園のサルと大差ない存在となっていた。


「私は死ぬほど忙しい。どうやらこの計画には見直しが必要なようだ。これから君みたいな人間を排除していかなければならんしな」


 そう言って立田が帰ろうと応接室のドアへ向かった時、ちょうど茶の準備が終わったようで秘書がキッチンから出てきた。彼女の手にはトレイに3つの容器がある。


「今お茶を用意しましたよ。どこへいかれるのですか?」


 帰ろうとしている立田に秘書が首をかしげた。


「今すぐ帰るぞ。時間の無駄だった」

「え、そんな」


 秘書は悲しそうな顔をしたがそれは会議がおじゃんになったからか、もしくはせっかく淹れたお茶が飲まれることがないことを悲しんだのか、どちらにせよ秘書にとっても無駄骨になったことには変わりない。


「それじゃあシドナム君、もう会うことはないだろう」


 立田がドアに手をかけたとき、背後から物音がした。ガラスが割れる音だ。近い位置からした。とても近い。

 思わず彼が振り返り音の原因を確認してみると、足元に陶器の破片が散らばっていた。辺りに茶がこぼれカーペットに沁みを作っている。すぐに秘書が落としたのだとわかった。


「落としたのか?」


 直立不動の状態で持っているものを落とすなんて、ちらりと見たこの一瞬の間だがどう考えても普通ではない。立田は秘書になにかあったのかと思い、視線を上げた。


「かっ、あっ」


 秘書の目が見開かれている。


「は?」


 立田は何が起きたのか理解するのに少しだけ時間がかかったが、目の前でおきていることなので嫌でもすぐに理解する。彼女の首に青白く光る棒のようなものが突き刺さり、こちら側に貫通していた。傷口から流れ出る血がぼたぼたと落ち、お茶の染みを上書きする。秘書も自分に起きた異変に気が付いたのか両手で棒を触る。しかし、それをどうにかするわけでもなくすぐに白目を剥きその場に崩れ落ちた。


「おい、どうした!」


 彼は急いでしゃがみ込み、倒れた秘書の体をゆするもびくともしない。死んだのだ。直径五センチはある棒が貫通し、大量出血を起こした。それで助かる可能性は無に近い。彼女もまた助かるはずがない。


「お前ら何をした!」


 この場において立田以外に異常事態を起こせる人物は二人しかいない。彼はシドナム達を睨む。


「何って、()()()んですよ」


 あっさりとシドナムが認める。ゴミを見るような目で秘書の死体を見下し、そして立田を視線を移す。


「人造人間の彼は特殊な能力を持っていましてね。人なんざこんな感じであっという間に殺せちまうんですよ。なぁ、ハヴァ?」

「ボス、俺にこんなことさせるために呼び出したんすか」


 ハヴァと呼ばれた男は先ほどの無表情から一変、心底嫌そうな表情を隠そうともしない。そんな彼の手の平に青白く光る塊が握られていた。それはまるでスライムでできたボールのように手の中で常に形を変え続け、しかし決して大きく崩れたりはしない。不思議な塊だった。


ウォッカがなくなりそうなのでまた買ってきます。次は安酒にしよう。この前高い酒買ったのにあっという間になくなっちゃったからもう安酒にしよう。酔っぱらえれば味なんてどうでもいいし。

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