6月~転校生がやって来た~(2)
「意外と図書室は広いんですね」
「中等部と高等部が一緒に使っているからじゃない」
「その割には、人がいないような…」
放課後。拓巳は、沙維香と共に、図書室にいた。今、図書室にいるのは、この二人を覗いて司書教諭だけだ。
「受験前だと、多くなるんだけどね」
「人がいない図書室は寂しいものです」
沙維香が悲しそうに言った。
「それよりさ、図書部の活動について話すよ」
沙維香の表情がパッと明るくなる。
「簡単に言うと、文化祭で出すフリーペーパーを作るだけ」
「フリーペーパーとは?」
「僕も昨年から参加しただけなんだけど、テーマは自由なんだって。自分の好きな作家について書いたり、他の地区の図書館についてのレポートを書いたり」
「面白そうです」
「面白いかなぁ…僕なんて書き終わるのに、時間かかったし」
「大岐さんは、何をテーマに書いたのですか?」
「確か…図書室の今後についてだったね」
「読んでみたいです」
「いやぁ…」
正直に言えば、人に読ませるものじゃないと拓巳は思っている。締め切りに間に合わせるため急いで書いた文章は、誤字脱字が多く、内容もまとまってない。これを読んだ裕也たちの感想は、「読みにくい文章」「何を言いたいのか分からん」「読むのさえ時間の無駄」など散々言われてしまった。
「気が向いたらね…」
「そうですか…それで、他に活動は?」
「えっ?」
拓巳は間抜けな声を出した。
「フリーペーパーを作る以外の活動です」
拓巳が最初に行ったことを覚えてないのかな。
「ないよ」
「えっ…」
今度は沙維香が間抜けな声を出す。
「その活動しかないんだよね…」
沙維香の表情がだんだん沈んでいった。
「母から聞いていた話しとは違います」
違うとは?
「母がいた頃は、読んだ本の感想を発表したり、図書祭りを開いたり、月1回の図書広報誌を作成したり、活発的に活動していたみたいです」
初耳だ。
「僕は先輩から、フリーペーパーを作成するだけと聞いていたけど…」
「こんな部活になっていたとは…」
沙維香の落胆した様子が伝わってくる。拓巳は申し訳ない気持ちになった。
ごめんなさい、ごめんなさい。先輩からは、フリーペーパーの作成以外の活動内容を聞いてないのです。
ふと、沙維香の方を見ると、拓巳を力強く見つめている。
「大岐君!」
「はい?」
「図書部の活動内容を変えませんか?」
「…へっ?」
「母がいた頃とまでとは言わないですが、部活の内容をもっと充実させるべきだと思うのです」
それは拓巳も常日頃思っていたことだ。ただ、拓巳自身何をすればよいのか分からなく行動が出来なかった。
「例えば?」
「月1回の広報誌の作成」
「僕、文章力ないよ…」
「読んだ本の感想を発表というのは?」
「僕、本は漫画以外読まないよ」
「…」
沙維香が黙った。拓巳は焦った。
ごめんなさい、小野さん。僕は、小野さんが期待している部員にはなれそうにないです。
そもそも、唯一の先輩もあまり本を読むタイプではなかった。というか、その先輩が活動内容を今のようにしたのでは。
内心、拓巳は先輩を少し恨んだ。
「せっかくだから、今の図書部の活動がこうなった原因をOBに聞いてみるのは?」
拓巳は思いつきで言った。
一瞬沙維香の目が光ったように感じた。気のせいか。
「大岐君、それ面白いですね」
「…へっ?」
30分以内に間抜けな声を数回出している気がする。
「母がいた頃と比べ今の図書部は何故堕落したのか。調べてみる価値はありそうです」
「調べるって…」
「それを元にフリーペーパーを作成する」
「だから、調べる方法は?」
「大岐君。卒業した先輩の連絡先分かりますよね?」
「うん」
「最初はその先輩から話しを聞くのです。大岐君、連絡よろしく!」
小野さん、おしとやかな外見に似合わず強引だなぁ。でも、フリーペーパーのテーマにするのはいいかも。テーマを考える手間が省けた。
拓巳は、急いで先輩の携帯電話にメールを送った。