6月~転校生がやって来た~(1)
転校生がやって来る。拓巳がそのことを知ったのは、5月の最終週、新聞部に所属している岡部一寿の手伝いをしている時だった。
「えっ、転校生がやって来るの?」
「そう。しかも、女子だ」
「この時期に転校生なんて珍しいね」
「父親の仕事の都合とかって先生は言ってたけどな。詳しいことは知らん」
「どこのクラスかって分かる?」
「そこまでは…」
「…情報通の一寿でさえ、詳しいことは分からないんだね」
一寿は少しムッとした表情になった。
「仕方ないだろ。先生たちが話しているのをチラッと聞いただけなんだから」
「どっちにしろ、僕と関わることなんてなさそうだけど…」
「それはそうかもなぁ。拓巳は親しくない人と喋るの苦手だし」
「親しくなれればいいけど…」
「可能性は低そうだ」
先週そのような会話をしたため、転校生が来ること自体驚かなかったものの、拓巳のクラスとは。
しかも…かわいい。
一言でいえば、和服を着れば日本人形そのもの。でも、日本人形って、髪型ロングヘアなイメージ。転校生は、セミロング。そもそも、日本人形って、顔そんなに可愛くない。むしろ、怖い。だとしたら、なんて表せばいいのか。
クラスメートたちもざわざわしている。男子たちの中には、そわそわしている者もいる。
転校生は、黒板に名前を書いた。
「小野沙維香です。みなさんとは一日でも早く打ち解けたいです。よろしくお願いいたします」
朝のホームルームが終わると、転校生の周りに人(ほとんどが女子)が集まった。
「沙維香ちゃんって呼んでいい?」
「何で、この時期に転校してきたの?」
質問攻めにあうも、転校生は一つ一つ丁寧に返していく。
「好きなように呼んでいいよ」
「父親の仕事に都合だよ」
拓巳は、その様子を遠巻きに見ていた。
「あの転校生気になる?」
裕也が聞いてきた。
「気になるというか…気になるというか…」
「同じこと2回言った。気になるんだね」
「うん。裕也は?」
「特には…」
「気になってないのは、クラスの男子で裕也だけだよ」
拓巳も含め男子たちは、転校生に視線を向けている。
いつの間にか、教室のドアから、他のクラスの人たちが沙維香のことを覗いていた。その中に、一寿や放送部の南本聖の姿があった。
「岡部といい南本といい、遠巻きに見てないで話しかければよいものの」
「無理だよ。小野さんに声をかける男子がいたら、相当勇気のあるやつだね」
「もし、拓巳は声をかけるとしたら?」
「えっ、無理…」
「もしだよ、もし。自分の思っていることを言った方がいいよ」
「日本人形みたいで可愛いね…と」
「日本人形みたいって…表現方法として間違っているような…」
裕也が冷めた目で見た。
「いや、和服が似合いそうだなと思って、日本人形以外の例えが出なかった」
「ここはそのまま和服が似合いそうでいいんじゃないか」
「あぁ、そうか」
「拓巳の今後が心配になるよ…」
「えっ、何で?」
「自分で考えな…」
転校生への質問は、部活に関する話題になっていた。
「部活って、まだ決めてないよね。だったら、バスケ部に来ない」
「吹奏楽部もいいよ」
「演劇部に入ったら、主役になれると思うけどなぁ」
「すみません。実は、入りたい部活は決めているんですよ」
「えっ、何部?」
「図書部です」
拓巳は、思わず椅子から転げ落ちた。
図書部って言ったよね。間違いじゃなよね。でも、何で図書部?
拓巳は嬉しさと戸惑いが同時に来ていた。
周りのクラスメートたちも戸惑っていた。
「図書部?」
「そんな部活あったっけ?」
「聞いたことないよ」
困惑表情のクラスメート。転校生も不安げな表情になっていった。
「拓巳、ここは名乗り出るべきじゃないのか」
小声で裕也が言ってきた。
「分かってるよ」
拓巳は意を決して大声を出した。
「はいはいは~い。僕、図書部です」
教室の視線が拓巳に集まる。転校生の表情がホッとしたようになる。
「ちゃんと、存在していたんですね。良かった」
「僕、大岐拓巳って言うんだ。図書部について、詳しいことは、放課後になったら話すよ」
周囲が拓巳のことを白い目で見てるが、そんなのお構いなし。部員を一人でも増やすためには、ある程度出しゃばらないと。
「よろしくお願いいたします」
よしっ、部員が一人入ったぞぉ。
拓巳は嬉しさのあまり授業中、ずっとにやけていた。




