4月~新入部員を確保せよ!~
部活に所属する生徒にとって、4月は地獄だ。
三月に卒業したたった一人の先輩が、引退前に言った最後から2番目の言葉だ。
先輩曰く、どの部も新入部員を確保すべく、ポスターをトイレに貼るなど、あらゆる手を使ってくる。その様子は、部活に所属してない者から見ると滑稽だとか。
「君も大変だろうと思うけど、頑張って」
大岐拓巳は、その言葉を胸に刻み、4月を迎えた。
昼休み。大岐拓巳に眠気が襲っていたが、窓の外から聞こえてくるアカペラで、目が覚めた。
「裕也、この曲知ってる?」
同じクラスであり友人の真中裕也に聞いた。
「亜麻色の髪の乙女」
「亜麻色って?」
「…俺も知らないから、自分で調べて」
今の拓巳に調べる気がなかった。
「アカペラ部かな?」
「他にないと思うけど」
「ずいぶん、懐かしい曲だね」
「俺らが小学校1・2年の頃じゃないか」
「あの頃は良かった…」
「戻りたいの」
「そういうわけじゃないけど」
戻れるとしたら、去年の今頃に戻りたい。拓巳は一年前の選択を後悔していた。
「…拓巳、分かっていると思うが、今日が入部締め切り日だ。図書部に見学しに来た1年はいるか」
拓巳は首を横に振った。
「部活紹介はどうだった?」
入学式翌日に行われる部活紹介。卒業した先輩が言うには、部員を獲得する大きなチャンスと言っていた。ここで、新入生のインパクトを与える紹介をすれば、見学に来たり、入部したりするだろうと。拓巳は、どうすれば印象に残るか考えながら練習もしたものの、本番では所々噛んでしまい、それで動揺したのか、紹介している内容もめちゃくちゃだった。
「聞かないでくれよ…
「新入生歓迎のポスターも貼ったんだろ?」
「どこもいっぱいで、1枚も貼れなかった…」
「…来年まで一人きりで活動かもね…」
「それは勘弁!」
図書部の活動内容は、文化祭で出すフリーペーパーを作るのみ。それ以外は特にやることがない。
ただ、年に2回部活動の集会があり、各部の部長は強制的に参加させられる。周囲が、高等部の生徒なのに対し、中等部の生徒は拓巳一人だけ。他の部から注目され、早く帰りたい、とずっと思っていた。
「…先輩から部員確保の秘訣を聞けばよかったかなぁ…」
「秘訣があったら、拓巳以外にも入部してるよ」
「…だよね」
拓巳は、卒業するまで部員が自分一人だけなのかと想像したら憂鬱になった。
「高等部に進学したら、帰宅部員になれば?」
中等部は部活に入ることが義務付けされているが、高等部は入部するかしないかは個人の自由となっている。
「出来ればそうしたいんだけど、先輩が引退するときに、図書部を絶対廃部されないように、と言われたからね。廃部になったら、先輩の先輩から何を言われるか分からないし…」
「そうか…」
「裕也は?」
裕也はテニス部に入っている。
「高等部では部活に入らないつもり。バイトもしたいしさ」
「部活に入っていると、バイトもなかなか出来なそうだよね」
「文化部ならともかくなぁ…」
「図書部なら、週1しか活動しないから、バイトも両立出来るよ」
「…拓巳、図書部には入らないよ」
「…だよね」
チャイムが鳴った。校庭にいた生徒たちが校舎の中に入ってくる。拓巳は、来年はどうやって新入生を確保しようか、そのことばかり考えていた。