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6/6

補完という名のダイジェスト

 ***

 



 日下兄弟は鍋パーティの翌日、召喚者を名乗る王国の第四王子とその従者に出会う。

 彼らから召喚の意図を示された二人は、まず「コーヒー」に近い飲み物がこの世界に存在するかどうかを問うことに。

 その際の予想を超えた冷静さに驚き、二人のペースにあれよあれよと巻き込まれた王子とその従者。王都に「エネラル」と呼ばれる覚醒効果大の飲料が存在することを話し、その流れのまま四人は王都へ向かう。

 途中でギダンことゲビタ、村娘の皮を被った凶乙女こと姐さん、三人の役に立つのかいまいち分からない男たちと合流して帰路を急ぐこととなる。

 合間に巨大カタツムリ(輪ゴムで両方の触角を縛って退治)、誰も正式名を覚えていない怪鳥(風呂敷に包んで蒸し焼きに)、話のやたら長い長老(ついでに箸を置き土産にしてきた)などの数々の試練を潜り抜けてようやくたどり着いた王都。


 そこで発覚した貴族たちによる「エネラル」の占有に怒り、兄――始が放った究極魔法によって巻き沿いをくらった第二王子とその一派はそのまま物理的に失脚を迎えた。

「そもそも究極魔法って何」「何がどうしてこうなった」と王子とその従者が呆然としている間に、王都に再び平穏が訪れる。

 その後しばらくして、第四王子ことイズミルが王座を継ぎ、国は平定された。

 それぞれの一派が召喚した異世界人たちは其々の世界に望んだタイミングで戻れることとなり、日下兄弟は半年間で残りの全ての『変換方式』を明らかにすることに尽力する。

 しかしその実践の最中、偶然通りかかったギダンの指摘によって『英単語』が全ての鍵であることが判明。

 終少年の持って来た単語帳は、国の魔導書の一つとして永久保管されることとなり物語の幕は閉じる。


 そして迎えた、帰還の朝。


「……そもそもさ、何でテレビが媒体だったの?」

「ああ、それは此方で言う魔力とそちらで言う『電力』が少し似通った性質を持つことに由来しているのだろう」

「……意外と真面目な答えだった」

「だね」


 美貌の王に別れを告げ、従者の少年に世話になった礼を言い、今や「何がどうして男女の不思議」と巷では囁かれる話題の夫婦――カレンとギダンと「さよなら」を言い交わして、日下兄弟はかつて『入口』となった60インチを潜り抜けて帰還した。


「……帰ってきたねぇ」

「とりあえずコーヒーが飲みたい」


 テレビに飲み込まれたのと、ちょうど同じ時間帯。

 兄弟は顔を見合わせて苦笑を交わすと、それぞれのマグカップを用意して久しぶりのコーヒーを楽しんだ。

 その芳醇な香りと、優雅な一時。


 そこで、ふと終が呟いた言葉。


「……普通にReturnの一言で帰れたよね、自分」


 それが物語の終わりにして、タイトルの補完となる。

 日下兄弟は元の世界に戻り、脱力感と共にダイニングテーブルに沈んだ。


「兄さん」

「……何だい、終」

「今夜は鍋にしようか」


 そんな兄弟の会話を余所に――

 窓の外では、爽やかな小鳥のさえずりが響いていた。



 Fin


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