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第5話 踏み潰されても、生き残った。(前半)

第5話 




 ――轟音。

 まだマモノとの距離はあるが、それでもなお鼓膜と大地が震える。

 

 巨大なマモノの前脚が、地面に“置かれる”だけ。

 それだけで、東端のビルの一角が小さく波打つように揺れ、ネオンが一斉に明滅する。

「ここからだと、届かないか?」

 波動銃を構えるガンナーに問いかける。


「届くは届くだろうが⋯。

これだけの距離だとダメージを与えられるとは思えない。」

 

「もう少し⋯近づくか。」


「だ、だが⋯!動きが遅いとは言え、あの巨体だ!一歩の幅はとんでもない!万が一逃げ遅れたら⋯!」


「俺が⋯止める。」


「⋯っ!」

 俺の言葉に、ガンナーは何か言いたげだったが、出かけた言葉を一旦呑み込む。


「と、止められるのか?」

 シーカーが問いかける。

「俺の能力は、どんな攻撃を受けても"死なずに耐える"能力だ。」

 

 詳しい説明は省いた。とりあえず今は、不死とだけ伝えられれば良いと思ったからだ。


 キーパーの言葉に一拍置いて、ガンナーが話す。

「それなら私も⋯」

「いや、ガンナーはここに居てくれ。」

 そう言ってくると思った俺は、間髪入れずにガンナーの言葉を遮る。

「ガンナーは攻撃の要だし、遠距離型だ。わざわざ近づく必要は無い。」


「だが⋯!」

「僕が⋯行こう。」

 シーカーが追って話す。

「僕はシーカー。"探求者"だ。もう少し近くで見れば、奴の弱点や特徴が分かるかもしれない。」


「探求⋯。」

「それならアタイも行くよ。私も攻撃力には自信がある。アンタが本当に一瞬でも止めてくれるなら、奴の足指1つ潰すくらいなら出来るかも。」

 ハンマーが小柄な体に見合わない巨大な槌を構える。


「⋯分かった。私はもう少しだけ近くのビルに移動して、奴の脳天を狙う。

⋯無茶はしないでくれ。」


 俺は黙って頷く。

 デンジャーは、巨大なマモノを見つめながら、震えていた。


「デンジャー、お前はここで待っててくれ。もし、マモノがここまできたら、そのときは逃げろ。」

 シーカーはデンジャーの肩を優しく叩きながら話す。


 ここからは、別行動。即席のチームとして、俺とシーカー、ハンマーはビルの屋上ドアに駆ける。


 

 俺達は急ぎビルを駆け下り、大通りを駆け抜けた。


 マモノのあまりの巨大さ故に遠近感がバグっていたが、思った以上に奴が居る地点は遠いようだ。


 そうこうしているうちに、マモノの地鳴り以外に、轟音が響き始めた。

 爆発音や、金属音のような

 明らかな戦闘による音。


「他の生存者たちがマモノへの攻撃を始めたんだろう。」

「⋯そうだな。俺達も急ごう。」

 走るペースを一段階上げようとしたが、ハンマーが遅れていることに気づいた。

「はぁっ⋯はぁ。」

 無理もない。

 ビルの階段を駆け下り、地鳴りが響く中大通りを全速力で走り続けているのだ。


 俺は、少しペースを落としてハンマーに近づく。

「⋯貸せ。」

 ハンマーが重そうに持つ槌に手の平を差し出す。


「⋯はぁ⋯ハアっ。」

 少し間をおいて、ハンマーは槌を渡してくれた。

 本来なら、渡すわけが無い。殺し合う敵に、自らの武器を渡すなど。

 それでもハンマーは、俺を信じてくれたのだろう。

「急ごう。」


 俺達三人は、更にペースを上げ奔った。



 近づくにつれ、マモノの全体像が見えてくる。

 赤みがかかった鱗肌。爬虫類のような体。足の付け根まででそこらへんのビル程の高さがある。


 誰が指示するでもなく、生存者達の攻撃は右前脚に集中しているようだった。

 恐らく、一点集中で攻撃し、まずは体勢を崩そうということだろう。


 火花が散り、砲撃が弾け、爆発が興る。

 だが、マモノの鱗は鋼のように硬いらしく、傷はほとんど入っていない。


「ナイトタウンから出た森の奥に、少し高い丘があった。まずそこに行こう。」

 屋上で地形も見ていたのだろう。シーカーは視野が広い。

「分かった。」


 丘に着くと、そこには六人の生存者が、既にマモノに向けて攻撃をしていた。

「ミサぁ〜イル⋯ランチャーーー!!」

「くらえっ!くらえっ!」


 彼らの放つ砲撃や投擲は確かに命中している。だが、それでも身体に生える突起の一つを砕いた程度。

 マモノは、まるで気にした様子もない。


「効いてねえぞ!」

「チクショウ!これって攻撃したって判定に入んのかな!?」

「馬鹿野郎!逃げる気か!」


「落ち着いて!関節を狙いましょう!」

 シーカーの指示が飛ぶ。

 突然の声に一瞬驚いた数人の生存者が、すぐに理解したように一斉に攻撃を開始する。


 爆発。 投擲。

 だが――

 マモノは、止まらない。

 前脚を振り上げ⋯そして振り下ろす。


 轟音と共に、木々が呆気なく砕け散る。

 破片が雨のように降り注ぎ、数人が吹き飛ばされた。


「くそ……!」

 誰かの声が、震えている。

「遠くからちまちま攻撃してるようじゃキリがないよ⋯!」

 巨大なバスターソードを携えた男が嘆く。

 恐らく彼は本来近距離攻撃が得意なのだろう。だが近づけないから、仕方なく腕力だけで石を投げている。

「バッカお前!そんなん効くわけねーじゃーん!!アイツの足元行って斬ってこいよ!」

「そ、そんなこと言ったってぇ」


 このままじゃ――

 俺は、歯を食いしばった。

「……俺が、止める。」


 誰に言うでもなく、走って前に出る。 振り下ろし地面を沈ませるマモノの足下に行き、車ほどの大きさの指一本を全身で掴む。

「このまま⋯!止めるッッッ!」


「キーパー!?」

 シーカーが驚き叫ぶ。

「む、無謀だ!」


 ズォオオォン


 向こうの方で地鳴りと轟音が響く。恐らく反対側。左前脚を下ろした衝撃。

 そして次、マモノは右前脚を上げようとする。

「止めるッッ!止める止める耐えろ耐えッッッ⋯ゥ゙ッッッ!!!!」


 浮遊感が俺を襲う。

 軽々と右前脚を持ち上げるマモノ。


 俺は必死にマモノの指にしがみつくが、高く、高く持ち上げられる。それまで俺が居た森は小さく遠く遥か下。


 遠目から見れば、鈍重な動きだった。だが実際に脚からの視点に立つと⋯滝のような猛スピードで振り下ろされた。



「き、キーパー!!!!!!」

 僕は全力で叫んだ。


「お、オイ!脚に引っ付いてた奴!潰されたぞ!!」

「ありゃ完全に死んだな⋯!」

 周囲の奴らは口々に諦めの言葉を話す。 


「嘘だろ⋯!キーパー⋯!キーパー⋯!!」


 僕は地面を何度も拳で叩きつける。

(彼でも⋯ダメか。彼が走り出したときに⋯。僕が引き止めるべきだったッ!)


 無音。そして、周囲が少しずつ騒がしくなる。


 次の地鳴りが聞こえない。それより、周囲のどよめきが聞こえてくる。


「お⋯オイ。」

「嘘だろ⋯?」

「まじかよ⋯ちょっと浮いてるぞ⋯。」


 僕は頭を上げる。マモノの脚を見る。よく見ると、マモノの右前脚が、"地面に接していない"。


「ま⋯まさか⋯!」


 僕は丘から駆け降りる。マモノの足の裏まで、一直線に。

 そこには、キーパーが右手を広げマモノの足の平を持ち、両肩と首で足の裏を支え、潰されまいと"耐える"姿があった。


「ヌォオオオオオオオオオォォォォォォ!!!!!」

 

「こ、これは⋯!!」

 驚きと、胸の奥から込み上がる感動。マモノは脚が降ろせないため、動けない。


 僕はふと我に返り周囲へ叫ぶ。

「い、今だ!!急げ!!今こそ攻撃するんだ!!」

 呼応するように、多くの生存者達が右前脚に群がる。


「オリャァァ!」

「今だ今だ!!!!」

「斬れ斬れ斬れ!!!」


 何も出来ていなかった近距離型の攻撃能力者達が、車程の大きさのマモノの脚指を切り、大木より大きい腱を裂き、鯨よりも巨大な筋肉を潰す。


「ちょっとそこどいてな!!」

 ハンマーが全速力で丘を駆け下りる。助走をつけて、槌を振り上げ⋯


「喰らえええええエエェェ!!!」

 マモノの足首。ぽっこりと出っ張っている部分に強烈な破壊槌を振り下ろす。

 

 バキィッ!!!


 鈍い、骨の砕ける音。


 それまでどんな攻撃も無駄と言わんばかりだったマモノが、始めて口を大きく開ける。


「グボォォォオボボホォォォォ!!!!!!!!」


 マモノの、あまりにも低く、あまりにも大きい強烈な悲鳴。

 それでも生存者たちは怯むことなく、脚首の砕けた鱗と、飛び出た骨を集中的に攻撃する。

 

「キーパー!もう少しだ!もう少し⋯耐えてくれ!」

 彼は顔を真っ赤にしながら、全身の力で耐えている。

 膝がガクガクと震えている。それでも膝が地面につくことなく、しっかりとマモノの足を支えている。


「凄い⋯凄いよ⋯!キーパー!」

 そのとき。僕は周囲の時間がゆっくりと過ぎる感覚に入った。


(⋯!)


 無意識下で"探求者"としての能力が発動したのだ。

 疑問や興味が引き金となり、過去の様々な体験、記憶、情報が整理される。

 

(キーパー⋯耐える⋯不死。無くした左手。

既に体中が壊れていてもおかしくない負荷。)


 大量の情報や推察が生まれては整理され、結合される。

 本来であれば、マモノの討伐に向けたかった能力だが、キーパーの姿を見て、そんなことはどうでもよくなってしまった。


 その思考は、世界よりも先に進む。

 そして"シーカー"としての能力により、僕は1つの"答え"を見つけた。


「そうか⋯これは、能力の"シン化"だ⋯!」


 大勢の生存者たちが、マモノに一斉攻撃をする中

 僕は独り、涙を流し"1つの探求"を終わらせた。



「全員!今だ!!」

「キーパーが止めてるうちに、撃て!!」

 銃声と怒号、金属音が夜の森を裂く。

 何十人という能力者たちによる、集中砲火。

 

 マモノが体勢を崩し倒れこむまで、それほど時間はかからなかった。

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