第4話 二人でも、生き残った。
第4話
ナイトタウンに戻ってから、数日が経った。
クラッシャーは、まだ戻ってこない。
それが"普通じゃない"と分かるほどには、時間が流れていた。
『小型マモノ討伐:成功』
『スコア加算』
視界に浮かぶ表示を、俺はぼんやりと眺める。
「……また、少し上がったな」
独り言のように呟くと、背後でガンナーが弾倉を入れ替えた。
「あぁ!私たちの連携も形になってきたな!」
数日経って知ったが、ガンナーは意外とよく笑う。それも屈託なく、弾けるような笑い方。
クールな印象があったから、笑い顔はより一層幼く見える。
「そうだな。俺が前衛で、ガンナーが後衛。良い連携だ。」
ドクターの治療のおかげで、幾分動きやすくなった。正面から耐えるだけじゃなく、攻撃を受け流しながら耐えられるようになった。
「キーパーが前にいて敵を止めてくれるから、凄く戦いやすいんだ。」
ガンナーはそう言ってくれるが、感謝したいのは圧倒的に俺の方だ。
討伐系のミッションだと、トドメを刺した者にスコアが入る。
だからこそガンナーはあえて殺さず、的確に四肢を打ち抜き、弱らせる。
そして最後に俺が、トドメをさす。
小型マモノ。
数は多いが、脅威度は低い。もらえるスコアも微々たるものだが、それでも着実に増えている。
「本当ならもう少し中心部のミッションで大きく稼ぎたいところだが⋯ナイトタウンの中心だと派閥が煩わしいからな。」
ガンナーが淡々と言う。
数日経って分かったことは2つ。
1つは、ミッションについて。ミッションは、発生する時間はほとんど決まっているが、内容は全員共通等ではなく、滞在している場所毎に違うということ。
そしてエリアの中心部だと発生するマモノの種類やミッション内容が難しく、その分稼げるスコアも多めに設定されていたりする。
2つ目は、ナイトタウンにもやはり派閥があるということ。最も大きい派閥としては"摩天"と呼ばれるチーム。
中心部でミッションを行おうとすれば、ソイツらとかち合う可能性も高い。
「今は、コツコツ貯めるしかないさ!いくらでも協力するからな!」
ガンナーはまた明るく笑う。
「⋯助かるよ。」
ガンナーはBランクで、俺はDランク。今は、甘えるしか出来ない。
◆
夜――という概念がまだこの世界にあるなら、その頃。
立体駐車場の最上階で、俺は壁にもたれて座っていた。
「……クラッシャーなら、もっと派手に稼いでただろうな」
ふと、口をついて出た言葉。
ガンナーは少し間を置いて答える。
「いない奴のことを気にしても仕方ないさ。それに、派手に動いて目立ちすぎても良くない。」
「……あぁ、まあそうだな。」
いない。だから――
「背中は預けたぞ。」
「うん!どんなヤツでも、撃ち抜くよ!」
視界の端で、スコアが更新される。
──Cランク
やっとC。まだまだクラッシャーとガンナーにはほど遠い。だが、確実にスコアは増えている。
◆
更に数日後。
今日のミッションも無事に終わらせ、立体駐車場に戻ってガンナーと他愛もない話をしていたとき。
――それは、前触れもなく現れた。
視界の端が歪み、
無機質なアナウンスが、空間に重なる。
それはいつものアナウンスと少し違う、赤文字。
『――緊急ミッション』
その文字を見た瞬間、嫌な予感が背中を撫でた。
『ナイトタウンにおいて、大型マモノの侵入を確認』
『対象エリア:ナイトタウン滞在中及び周辺エリアの全参加者』
ガンナーが顔を上げる。 「……緊急ミッションだと?」
続けて、文字が重なる。
『本ミッションは【防衛戦】です。』
『出現する大型マモノを撃退、もしくは排除してください』
『防衛成功:ボーナススコア付与』
『大型マモノ討伐成功:更にボーナススコア追加付与』
淡々とした文字列。
そして――次の一文で、空気が変わった。
『本ミッションは対象の生存者は【全員参加】』
『ミッション不参加の場合』
『スコアを減算』
『参加定義は以下の通りです。』
『・ミッション終了まで、対象エリア内に滞在していること』 『・大型マモノへの攻撃行為、または大型マモノからの被弾』
『ミッション失敗の場合も、不参加と同じくスコアが減算されます。』
ガンナーが、低く息を吐く。 「……こんなことは、始めてだ。」
『まもなく、大型マモノが出現します。準備をお急ぎください。』
少しして、視界から表示が消える。
「無かったのか?」
「スペシャルミッションというものは見たことあるが⋯緊急は無い。それに、実質強制参加とは⋯。」
ここでスコアが減るのはマズイ。どれぐらい減るのか分からないというのが余計に問題だ。
「だが、防衛戦ってのはラッキーかもな。⋯守るのは、俺の本領だ。」
「無茶は⋯するなよ?キーパー。」
ガンナーは眉を八の字に曲げて、心配そうに俺を見つめた。
◆
遠くから響く、
地面を叩くような、重い振動音。
ナイトタウンで最も高いビル。
その屋上から、夜の奥を見つめる二つの人影。
「……アヒャヒャ!見えるか!?でっけぇ〜の来てんなァ!」
1人は、顔に仮面を着け、道化のような奇怪な姿をした男。
「緊急ミッションは随分と久しぶりだなァ!?」
「⋯。」
もう一人の男は、腕を組みじっと地面を揺らす"ソレ"を見つめている。
「緊急ミッションってこたぁ、相当なスコア貰えるぜ!!」
「ヤるか!ヤッちまうか!?」
仮面の男は、手を広げて踊る。
「⋯俺達は、出ない。」
「これ以上スコアを上げてしまえば、Sランクに"なってしまう"」
男は低く、話す。
「他の奴らが上がりきるまで、むしろスコアが下がるのは好都合だ。」
「アヒャヒャ!!お優しいこった!」
「最近入ったBランクの奴が二人いただろう。」
「居たなぁ!せいぜい稼いで追いついてもらわねぇと!でもアレだけのマモノ、勝てねえカモよ!?」
「⋯その程度の奴であれば」
男は振り向き、屋上のドアを開ける。
「我ら"摩天"に不要な者だったというだけだ。」
仮面の男は、声高に笑う。
「アヒャヒャ!優しいのか優しくねえのか、"エンペラー"様は分からねえな!」
ナイトタウンで最も高いビル。その屋上で響く笑い声は、誰にも聞こえない。
◆
低く、長い地鳴り。
それは一度きりではなく、一定の間隔で街全体を揺らしていた。
コンクリートの床が、まるで生き物のように震える。
「……来てるな。恐らく東から。」
ガンナーが銃を担ぎ直す。
「音が……遠いのに、重い。」
空気そのものが圧迫される感覚。 最初に戦った飛行型マモノも大きかったが、あれとは、明らかに違う圧迫感。
俺たちは立体駐車場を出て、ナイトタウンの東端へ向かう。
途中、大通りに差し掛かった瞬間だった。
路地の影から、三人の生存者が飛び出してくる。即席の武器。緊張した顔。スコア差も分からない。
一瞬で、空気が張り詰めた。
――殺気。
ガンナーが反射的に銃口を上げ、俺も前に出る。
この世界では、それが“普通”だ。
「ま、待て!!」
先に叫んだのは相手側だった。
「今は……今はよそう!」
3人の中でもリーダー格らしい男が、必死に叫ぶ。
「やりあってる場合じゃない!ミッション見ただろ!?」
別の女が、歯噛みする。
「そ、そうよ!今は停戦のはずよ!」
一瞬の沈黙。
俺は、ゆっくりと両手を下げた。
「……同感だ。今は、ミッションのことを考えよう。」
ガンナーも、舌打ちして銃を下ろす。
「……キーパーがそう言うなら。」
相手の三人も、警戒を解かないまま一歩引いた。
「……悪いな」
「いや……仕方ないさ。」
こうして“戦いが止まる”こと自体が、異常だと思えるほどには、俺もこの世界に適応していた。
◆
「音は、東だ」
なりゆきで一緒に向かうことになった三人のリーダー格の男が言う。
自然と、全員が同じ方向を見た。
「俺はシーカー。そんでこの二人は⋯」
「ハンマーよ。」
「⋯デンジャー。」
「俺はキーパーで、この子はガンナーだ。」
「遠距離攻撃が出来るのはありがたい。とりあえず今は、協力しよう。」
シーカー、"探究者"。落ち着いた風体で、自然とまとめてくれた。
「あぁ。よろしく頼む。」
今は、シーカーが頼もしいばかりだった。
「あそこに向かおう!」
シーカーが指さしたのは、ナイトタウンの東端に密集するビル群。
「上から見た方が早い」
「屋上へ向かうぞ!」
俺たちはビルへと駆け出していく。
視界の端々には、俺達と同じように複数人で向かう生存者たちがいる。
一組、二組ではない。総勢にすると、何十人いるのか分からない。
(この街に⋯こんなに生存者がいたのか。)
普段はほとんど人を見かけないナイトタウンだが、闇に潜み日々生き抜いていた者たちは大勢いたのだ。
「これが⋯強制参加の恐ろしさだな。」
シーカーが誰に言うでも無く独り言を吐いた。
◆
ビルの非常階段を駆け上がる。 息が荒くなる。
それでも、地鳴りは刻々と近づいてくる。
最上階。 屋上に出た瞬間――
「……あれか。」
ガンナーが呟く。
ナイトタウンを怪しく照らす、紫色の巨星を背に、巨大な影が近づいてくる。
遠目からでも一目で分かった。その体躯はビルより高く、ナイトタウンの外側にある木々を踏み潰しながら、ゆっくりと寄る異形。
四足。そして背中には無数の突起。 足が地面に落ちるたび、衝撃波のような振動が走る。
――大型マモノ。
「……冗談だろ。」
誰かが、乾いた笑いを漏らす。
「アレを……?」
「あ、あんなの討伐どころか、止めるのすら無理だろ!?」
そんな声を無視して、ガンナーが、無言でスコープを覗く。
少しの間除いたあと、スコープから目を離し俺を見る。
「……さすがに大きすぎる。キーパーでも、アレは止められないわ。」
無意識に一歩前へ出ていた俺の腕を、ガンナーが握り止める。
そうしている間にも巨大な影は、止まることなく真っ直ぐこちらへ向かってくる。
「……誰かが、止めるしかない。」
低く、確かな声で言う。小さく体が震えているのが、自分でも分かった。
「今は俺たちだけじゃない。全員で協力して、奴を撃退しよう。」
自然とガンナー以外の者にも語りかけてしまったが、皆が俺を見て頷いてくれた。
◆
防衛戦が――
ここから、始まる。




