−1話
−(マイナス)1話
ネオンが滲む。
濡れた路面に、崩れた看板の光が揺れている。
血か雨かも分からない水溜まりを踏み抜いて、オレは走っている。
ナイトタウン。
この街は、いつも夜だ。だがその暗さが、雑多さがオレにとっては心地良い。
視界の端で、何かが動いた。
「見つけたぜえ〜」
オレの声に反応して、ビクリと肩を震わせる。看板に身を隠していたようだが、甲冑がギラギラと光っていてバレバレだった。
「出てこいよ!なぁに、痛くはしねえよ」
男は恐る恐る看板から出てくる。着ていた甲冑が消え、黒い服に変わる。
「お、俺を殺れば"堕天"が動き出すぞ!俺は堕天の幹部だ!」
「分かってるって。だから殺るんだろ?」
「なぁ!勘弁してくれよ!お、お前も堕天に来い!ボスには俺から話を通してやるから!」
濡れた地べたに額を擦り付けて懇願するコイツは"ドレッサー"。こんな情けないナリをしてるが一応Aランカー。
「無理だねえ。君は見せしめに殺しま〜す!」
オレが笑うと、ドレッサーは全力で逃げ出した。着ていた黒い服が消えて、鎧になる。
……便利そうだな。
まあ、意味はないけど。
オレは足元の鉄パイプを蹴り上げる。
「そんなもん着てちゃあ…動き辛くてしょうがないだろっと!」
浮いたそれをそのまま掴み、全力で振り抜く。
投げた鉄パイプは迷いなく"標的"に向かって飛んでいく。
「ひ、ひぃ!!」
男は直角に曲がり、路地に飛び込んだ。
鉄パイプは勢いを殺さず、空中で軌道を変え、そのままドレッサーの飛び込んだ路地へと消えていく。
「ぐぁっ!!」
不細工な悲鳴が路地にこだまする。
――雨の中でも、血の匂いが路地から漂ってきた。
「さて――この"餌"に食いつくかな。」
オレはスキップしながら路地に入る。
鉄パイプが鎧ごと貫き、壁に突き刺さっている。
「すとら〜いく」
オレは誰に言うでもなく親指を突き立て囁いた。
ビクッ……ビクッ
まだ微かに動いている。気持ちが悪い。
オレはドレッサーが被っていた兜を引き剥がす。体から離れた兜は、塵のように崩れ消えていく。
オレは死にかけのゴキブリみてえに震える男めがけて踏み込み、がら空きの顔面に拳を打ち込む。
骨が砕ける感触と同時に、ゴキブリもどきは完全に動かなくなった。
壁に広がる、真っ赤なグラフィティアート。オレは眼の前の残骸から湧き出す赤いインクを使って、壁にメッセージを書き込んだ。
『C'mon 堕天』
「傑作だな!」
そう言って最後に書き込む。
『by STRIKER』
「……弱かったなぁ」
吐き捨てて、ぬるりと振り向く。
「幹部つっても、こんなもんかー!?」
周囲にいくつもあった気配はオレの声を聞いて蜘蛛の子を散らすように消えていく。
頭上。
そびえ立つビルの屋上から、ひとつ気配が動く。
ついでにと地面に落ちていたレンガを拾い上げ、一瞬見えた"ソレ"の後頭部めがけて勢いよく投げた。
「ぎぇっ!!」
声は遠くに落ちる。死んだかどうかは分からねえ。確認するのもめんどいし、どうでもよかった。
……つまんねえ。
ポケットから端末を取り出す。これは"たまたま"拾った小型掲示板。
淡く光る表示に映っているのはオレのランクと順位。
『3位 ストライカー ランクA』
数値が更新される。
――あと少し。もうすぐだ。
Sランクに届けば、終わらせられる。
仮にその先があったとしても。オレは勝ち続ける。
それだけだ。
指で表示をなぞる。条件は見えている。
あと一歩。
あと、少し。
「……待ってろ」
誰に言ったのか、自分でも分からない。
端末をポケットにしまい、オレは歩き出す。
◆
ナイトタウンを支配する二つの派閥。
『堕天』と『メタル輪舞曲』
どっちも潰せば、さすがにSランクになれるだろう。そっからはとにかく「Sキープ」してれば、そのうち終わる。
ちまちまミッションをやるなんて性に合わない。
第一ラウンドの頃からオレは変わらない。
殺し尽くして、生き残る。




