第3話 夕暮れの街で生き残った(後半)
第3話(後半)
通された建物の最奥。
円形の広間の奥に、一人の男が立っていた。
背は高く、真っ直ぐな姿勢で窓から外を眺めている。
武器も持たず、殺気も感じない。一見隙だらけのような後ろ姿。
だが――
明らかな“強者”のオーラ。
第一ラウンドを生き残ったキーパーは、その恐ろしさを感じ取った。
「素晴らしい街だろう?クラッシャーくん。」
クラッシャーへの突然の問いかけ。まるで俺とガンナーのことなど、眼中に無いようだ。
「ここまで来るのに、随分と時間がかかったよ。」
振り向きながら、リーダーは話す。その視線は、相変わらずクラッシャーにしか向いていない。
「もちろん君の噂は聞いている。単独行動でAランカー。派閥に属さず、ここまで生き残っている」
「そりゃ、どーもありがとさんです。」
「この街では、誰もが安心して過ごせている。この世界の不条理に、怯える必要も無い。」
「サンセットタウンも、私が来た頃は荒れた街でなーー「あのさぁ。」
クラッシャーが、リーダーの話を遮る。
「俺達の目的は知ってんだろ?ドクターに会いてぇんだわ。つまり治療をしてもらいてえのよ。」
俺を親指で指して、用件を淡々と話す。
「だから長話してる暇はねーわけ。」
リーダーが一歩、前に出る。
「ふっふっふ。せっかちだな。君は」
一拍の間を置いて、両手を広げるリーダー。
「それなら単刀直入に言おう。」
「ドクターの治療を受けさせてやる代わりに、我々の仲間になれ。クラッシャー。」
突然の勧誘。いや、突然でもないのかもしれない。
クラッシャーは予想していたかのように、表情を変えず黙っている。
「近々、DOWNの奴らが、この街を襲いにくるという情報が入った。」
DOWN。知らない名だが、文脈的に派閥の1つなのだろう。
「どうやら奴らはSランクまでもう少しのようでな。我々を皆殺しにでもして、チームでSランクに到達する腹づもりなのだろう。」
「つまり、そのDOWNという奴らは皆がAランカーなのか⋯?」
俺の問いかけには、リーダーは答えず、相変わらずクラッシャーしか見ていない。
「どちらにせよ、無視することも出来ないだろう?」
「奴らを放置すれば、全員死ぬか⋯もしくは七日のうちに奴らを潰すしか無くなる。」
余計な言葉はない。
「この街は、戦わない場所だ。
だが、戦えない場所ではない」
視線が、クラッシャーを射抜く。
「理想を守るには、力が要る。
秩序を維持するには、暴力もまた必要だ」
「お前は、まさしく"単純な暴力"としてふさわしい。」
俺は思わず口を挟んだ。
「待ってくれ!それなら――」
リーダーは、こちらを一瞥だけして、切り返した。
「お前には用はない」
声は低く、冷たい。
「むしろ、クラッシャーくんだけで良いのだ。願ってもない話じゃないか?」
そして、再びクラッシャーへ。
「条件はたった一つだ」
「DOWNの奴らを壊滅させるまでの期間限定でも良い。」
「我々の仲間となれ。」
言葉を区切る。
「代わりに、ドクターに治療をさせる。そいつの体は、可能な限り完全に直す」
そんなの、仲間じゃなく駒でしかない。俺は耐えきれず叫んだ。
「やめろ!!俺のために、お前がそんな取引――!」
「黙れ」
一言。
声量は大きくない。
だが、逆らうという選択肢を消す声だった。
そしてクラッシャーが、軽く肩をすくめて口を開く。
「……随分、分かりやすいな」
「嫌いじゃねえ」
そして、俺を見る。
「キーパー。心配すんな」
「俺がDOWNを破壊すりゃ良いんだろ?」
「クラッシャー!」
「アンタも願ってる通り、仲間になるってわけじゃねえ」
視線を、リーダーに戻す。
「“使われてやる”だけだ」
リーダーは、初めて口角をわずかに上げた。
「それでいい」
「結果が同じなら、過程は問わないさ。」
◆
ドクターの部屋は、街の奥まった場所にあった。
石造りの建物の中。
簡素な寝台と、薬品の匂い。
壁際には見慣れない器具が並び、どれも使い込まれている。
部屋に居るのは、俺とガンナー、そしてドクターと呼ばれる白髪初老の男。
クラッシャーはリーダーに連れられて、どこかへ行ってしまった。
『DOWNを潰したら、また戻ってくるからよ』
そう言って笑ったクラッシャー。彼の後ろに立つリーダーもまた、不敵に笑っていた。
「……酷い体だ」
ドクターは、俺の体を一目見てそう言った。
感情の無い声。だが、手つきは迷いがない。
「生きているのが不思議なくらいだな」
「…まぁ、不思議だよな。」
「能力による強制的な生存か⋯興味深くはあるが。」
そう呟くと、ドクターは淡々と作業を始めた。
骨が戻される感覚。
裂けた筋が繋がる痛み。
神経が焼かれるような苦痛が、何度も走る。
叫びそうになるのを、必死で歯を食いしばって堪える。
「耐えられるか?」
「…。俺には耐えることしか出来ないからな⋯ッ」
「なら問題ないな。」
それだけ言って、ドクターは手を止めなかった。
◆
どれほどの時間が経ったのかは分からない。相変わらず外は夕暮れの空模様のまま。
だが、ドクターが手を止め、持っていた器具を片付け始めた。
「終わったのか?」
ずっと心配そうに見守ってくれていたガンナーが問いかける。
「ま、できる限りのことはしたよ。」
言われて俺は起き上がる。
「!」
体の重さが、確かに違っていた。
随所に痛みは残っている。
だが、折れていたはずの骨は繋がり、今まで以上に力が入る。
「治療は終わった」
ドクターが短く告げる。
「完全とは言えない。だが、戦える体には戻した」
「……ありがとう」
「礼を言う相手は、私ではない」
ドクターは視線を逸らした。
「外で、自警団の者が待っておる。治療が終わったら、来るようにと。」
外に出ると、門にいた二人が居た。
「門番は良いのか?」
「あぁ。お前達の治療が終わったら、送り出すことになっている。」
「⋯送り出す?」
「街に、仲間じゃない者がいると不安を覚える者もいてな。
街から出ていってもらう。」
長髪の男は、冷徹な口調で言い放つ。
「そんな⋯!クラッシャーを待たないといけないんだ!」
「知ったことか。お前の治療をする。代わりにクラッシャーはDOWN壊滅に協力する。それだけだ。
リーダーは"約束"を守った。」
「次は、クラッシャーが約束を守る番だぜ。」
「そんな⋯!」
俺が近づくと、長髪の男は槍を構える。
「おっと、やるのか?」
その瞬間、奥の茂みや診療所の裏から、数人の男たちが現れる。
「キーパー。ここは従おう。クラッシャーは戻ると言った。私たちは待つしかない。」
「⋯くっ。」
唇を噛み締めた。拳を握りしめた。
(俺は⋯何もしてやれないのか。)
そこからは、すぐに門の外へ放り出される。俺達が出た途端、門が閉まる。
「くそ⋯!アイツら⋯。」
「仕方ないさ。とりあえず、どこか待てる拠点でも探すか、キーパー?」
「拠点⋯」
そうか。クラッシャーは"戻る"と言っていた。何の手がかりも無い中、無闇に歩き回っても仕方ない。
「クラッシャーの拠点に戻って、待つか⋯。」
俺とガンナーは、つい先日通った道を、引き返すしか無かった。
◆
〜自警団 団長室〜
「さて、クラッシャー。キーパーくんの治療は終わったそうだ。次は、君に手伝ってもらう番だ。」
「おいおい、なに寝言言ってんだ。」
「治療が終わったなら一度会わせろよ?お前が嘘ついてる可能性だってあるだろ?」
「嘘など、吐くものか。これからすぐにDOWNとの戦闘に向けて作戦会議が行われる。お前にはすぐ働いてもらう。」
「だからよ、嘘じゃねえって証拠がねえだろ?」
「約束を交わしただろう?それが何よりの証明さ。
⋯私の能力。そのうちの1つは"約束は絶対に守る"というものだ。」
「約束を⋯守るだぁ?」
リーダーは不敵に笑う。
「口約束だろうが、契約書だろうが、一度交わした約束は守る。
⋯守らせる。」
「⋯ふーん。⋯ッ!?」
クラッシャーの体が、硬直する。そして、意思とは別に動き出す。
「さぁ。会議室へ行こう。君もこれからは我々サンセットタウンの仲間だ。」
二人は薄暗い廊下を歩いていく。
第3話(後半)了




