第五十七話 今度は逃がさない
「買ってきました。お好きなのをどうぞ」
近くのコンビニでサイダーと麦茶を買ってきて、葉月さんに差し出すと、葉月さんは無言で麦茶の方を取り、飲み始めた。
「はは、今日も暑いですね。どっか、近くの店で休みますか?」
「こんなクソ暑い日にクソムシどもの世話をしなきゃいけないなんてね。全く、どいつもこいつもロクでもないクソムシばかり、何で私の周りを飛んでいるのかしら」
既に俺だけじゃなく、英樹もクソムシの仲間入りをしているみたいだが、これは葉月さんなりの愛嬌なんだろうな。
問題は英樹にそれが伝わっているかだが……多分、無理か。
「店が嫌ならホテルでも良いですよ。ほら、近くにラブホありますから、一緒に入りません? もうね、そろそろ葉月さんとやって既成事実を作っておきたいんですよね。近いうちに葉月さんは俺の嫁になるんですから、早い方が良くないですか?」
「クソムシってさ、本当に私の事、馬鹿にしているわよね。そういう事を言えば、私が本気で喜ぶとでも思っている訳?」
「あはは、当然じゃないですか。葉月さんも本当はしたいんでしょう。ほら、行きましょうよ。クソムシと既成事実を作っちゃいましょうよ、って、痛いですって」
と腕を引くと、葉月さんは思いっきり腕を振りほどいて、俺の足を踏み、
「てめえが私をそうやって馬鹿にするなら、こっちもそれなりの態度で臨んでやるわ。ったく、このクソムシを退治できる殺虫剤がないかしらね。今すぐ買ってきてよ、クソムシ。家に居るのとまとめて退治してやるから」
「そ、そんなのある訳ないじゃないですか」
「ないなら、あんたが作れよ。そうすれば、私も超喜んでやるからさ。あーあ、全く、気分が悪いわね。楽しくも何ともないわ。帰る」
「まだ帰るのは早いですよ。折角、渋谷にまで来たのに。ほら、ホテルにでも行きましょうぜ。引き締まったケツしているんだし」
と言いながら、葉月さんのお尻をなでなでする。
ふふ、まるで痴漢みたいだが、葉月さんも怒ったかな?
それとも感じちゃったとか? お尻をなでなでしても、何の反応もないのが気になるが、
「クソムシって、私を怒らせることだけは得意よね。私の感情を逆撫ですることばっかしやがって?」
「え? 感じちゃいました? うおおっ!」
と言うと、葉月さんはペットボトルの麦茶を口に含んで、俺の顔に思いっきり吹きかける。
「ゲホ、何するんですか?」
「全く、調子に乗るんじゃねえよ、クソムシが。私とやる事ばっか考えてるのか、てめえ」
「わ、悪いですか? 大体、葉月さんの方から……」
「今、そんな気分じゃねえの。いいから、クソムシ退治の殺虫剤を買って来いよ。嫌なら、もう帰るわ」
そんなー……無理にでも、拝み倒せばやらせてくれるのかと思ったが、そういう訳じゃないの?
「どうしてもやりたいんですけどねー。ホテル行きましょうよ。行けないと、俺、泣いちゃいますよ」
「いや、死ねよ。マジでキモイんだって、そういう所が。こんなクソ暑い中、セクハラを堂々としやがってさ。私に対する尊敬の念なんて、微塵も抱いてないだろ、てめえ」
「まさか! 葉月さんみたいな良い女をリスペクトしてないなんて、有り得ないですって」
そんなふうに思われていたのは心外だが、馬鹿になんてする訳ないじゃないか。
葉月さんみたいなS級の彼女を逃がすなんてさ、有り得ないって。
「ふーん。とにかく、今日はもう帰る。クソムシの相手なんかするくらいなら、スマホでショート動画でも見ていた方が遥かに有意義だし」
「なるほど、そういう見方もありますね。でも、もう少しだけ俺に時間を割いてくださいよ。事故の時、何でもするって言ったのは葉月さんですよ。今日だけ。ホテルに行きましょうや、ね?」
と言って、葉月さんの手を掴んで、あくまでもホテルに行こうと誘う。
きっとこれはあれだな。葉月さんも嫌がっているんじゃなくて、俺の覚悟を試しているんだろう。
前は逃げ出しちゃったから、葉月さんの方も俺が本気で葉月さんを抱きたいと思っているのか不安に思っているから、敢えて強引に連れ込ませようとしているんだ。
葉月さんならそう考えているに違いない!
「わかったわよ。行けば良いんでしょ」
「お、おお……わかっているじゃないですか。じゃあ、行きましょう」
とうとう俺の熱意が通じたのか、葉月さんは俺の誘いに応じてくれた。
ヤッターー! これで葉月さんとヤレるぞ。
これはもうあれですね。俺の熱意が通じだってことで良いんですよね?
「その代わり、ホテルは私が選ばせて。クソムシだと、変なのを選びそうだから」
「わかりました。良いでしょう、葉月さんのお気に召す場所で良いですよ」
ふふ、高校生だと入れないところもあるみたいだから、葉月さんも考えているんだな。
こういう面倒見の良い所も、彼女の魅力なんだよね、きっと。
「ここよ」
「ん? ここは……ホテルですか?」
葉月さんと一緒に着いたホテルは、人気のない裏路地にあったが、そんな事より、このホテルって、
「カプセルホテルって書いてあるんですけど」
「そうよ。ここに泊まりましょう」
「はは、冗談きついですって。俺が泊りたいのは……」
「誰がクソムシなんぞとラブホなんか行くって言ったのよ。てめえと寝床を一緒にしたくないから、どうしても私と泊まりたいなら、ここにして。あんたと一緒に寝るくらいなら、ホテルのスウィートルームより、こっちの方がマシよ」
「そ、そんな~~……駄目ですって。葉月さんと出来ないじゃないですか、ここじゃ」
「そうよ。だから、言ってるじゃない。クソムシなんぞに抱かれたくないの。まだわかんねーのかよ、あんた。クソムシなんぞ、もうとっくに愛想が尽きているの」
「愛想が尽きているのに、どうしてデートしているんですか? 嘘ですよね、それ? わかりました、こっちに付いてきてください。もう無理にでもホテルに押し込んじゃいますよ」
「あ、こら!」
葉月さんのツンデレっぷりも、流石にツン要素が強すぎて、イラっとしてきたので、もう強引に連れて行くしかないと覚悟する。
今日は逃がさないと決めたのだ。
「ここに入りますよ。さ、行きましょう」
「ふーん、ラブホの場所まで調べてあったんだ。クソムシの分際で、よく調べているじゃない」
「そうなんです。無人なんですよね、ここ。あはは、じゃあ行きましょう。葉月さんも逃げられやしないですよ」
葉月さんの背中を押して、ホテルの中に強引に押し込んで、入り口にあるタッチパネルで部屋を選ぶ。
本当にフロントに誰も居ないんだな。
こういうの犯罪の温床にならんのかなと、自分で入っておいて、不安になってしまったが、何処かに従業員がいるんだろう、多分。
「ささ、入ってください。おお、クーラー効いてて涼しいですねえ」
部屋に入ると、クーラーも効いており、ちょっと狭いが二人で寝れるベッドがあって部屋も綺麗なので、やるには十分だろう。
「座ってください。もう、早速、おっぱいでも揉んじまいましょうか」
葉月さんの背後から、いきなり胸を揉んでやる。
うーん、大きいおっぱいですなあ。彼氏だから、問題はないですよねえ。
「誰が触って良いって言ったのよ、クソムシ。人の体にさっきから、ベタベタと気持ち悪い」
「その気持ち悪いクソムシとやるんですって。結婚したら、毎日、やるんですよ、わかっています」
「いいから、その薄汚い手を離しな。人を呼ぶわよ」
「ちっ……まあ、シャワーでも浴びますか」
流石に怒らせそうだったので、一旦、手を離す。
でも逃げられやしないんだ。葉月さんとは既成事実を作って、早い所大人にならないとね。




