第四十七話 彼女に釣り合う男とは?
葉月さんへのプレゼントを買いたいけど、何が良いかまだ決まらない。
まさかブランド物を買うわけには行かないし、そもそもそんなのは無理だ。
しかし、あんまり安いものを買うのもちょっと申し訳ないしな。
そのためにはバイトして、自分の金で稼がないと示しが付かないので、近くのコンビニでバイト募集をしているところがないか探す。
緊張するなあ……でも、彼女の為にアルバイトとか格好いいじゃん。
「よう、クソムシ」
「お、おはようございます。てか、相変わらずクソムシなんですね」
日曜日になり、約束通り葉月さんとデートするために昼過ぎに待ち合わせ場所の公園に行くと、既に葉月さんはスマホを弄りながら、公園のベンチで待っていた。
こういう姿も決まっているなー。流石モデルをやっているだけの事はある。
「そうよ。クソムシみたいに気持ち悪いから、そう呼んでいるの。あんたも満更でもなさそうだし、お似合いじゃない」
「あ、はは……良い気分はしないですよ。てか、そんなクソムシが彼氏で良いんですか?」
「いいわけねえだろ、ボケが。少しは私の立場も考えろっての。あーあ、全く、どうしてこんな気持ち悪い馬鹿が彼氏なのかしらね。可哀相でしょう、クソムシ」
勝手に被害者ぶられても困るんだが、それ以上に気になるのが、スマホを見ながら、俺の顔も見ないでそう喋っていた点だ。
(これはもしかして、本当に愛想を尽かされそうになっているのか?)
もしそうとなると、かなりヤバイ兆候だが、俺に対して渇を入れようとしているのかもしれない。
葉月さんは大事に思っている人にはキツく当たる傾向があるっぽいからな。俺の推測だと。
「実はですね、俺、バイト始めることになったんですよ。コンビニで」
「ふーん」
「そうなんです。葉月さんにも色々とプレゼント出来るかなって思いまして、はは」
「クソムシってやっぱり、頭悪いわよね。救いようがない馬鹿だわ」
「な、何でですか?」
近所のコンビニでバイトをすることを告げると、葉月さんは呆れたように溜息を付きながら、
「プラダのバッグを買えって言ったでしょうが。それで、始めたのがコンビニバイトだあ? てめえ、そんなんで月にいくら稼げると思ってんのよ?」
「えっと、時給千二百円で学校が終わった後に四時間入るシフトでして……」
「計算も出来ねえ、クソバカじゃない。コンビニバイトなんて、フルで働いても月に二十万でもかせげりゃ良い所じゃない。私も高校の時、ファミレスで少しバイトしていたけど、多い時で月に十万くらいだわ。それであのバッグ買うのに何か月かかると思ってんの、クソムシ?」
「痛いですってっ! 頭を叩かないでください~~」
俺の肩をがっしり組みながら、葉月さんは拳でトントンとノックするように頭を叩くが、最近、葉月さんこればっかりだな。
「クソムシの脳みそなんて、大して入ってないんだから、問題ないでしょうが」
「そんな~~……葉月さんって、結構辛辣ですね」
「はあ? どういう意味よ、それ。私ほど、謙虚で優しい女はいないでしょう。見た目も性格も五つ星の最高ランクの女じゃない」
「そ、そうですよね、はは」
見た目はともかく、性格も謙虚で優しいとか、自分で言ってしまう時点で、既に謙虚じゃなくねと思ってしまったが、俺を笑わせようとしているのか?
だとしたら、笑った方が良いのか、今のも愛嬌というか愛情表現なんだろうな。
「あの、俺がコンビニでバイトするのは別に良いんですよね?」
「ふん、別に反対はしてないでしょう。好きにすれば。でも、そんなバイトをしても、私を喜ばせるプレゼントを買えるとは思わないことね」
あくまでもブランド物のバッグをプレゼントをしろって事なんだろうが、とにかくそれは無理でも葉月さんに感謝の気持ちは伝えたいのだ。
「葉月さんに釣り合う男になれるようには頑張りますので。いたたっ! あ、足を踏まないでください」
「クソムシごときがなれるわけないでしょうが。どんだけ失礼な男なのよ」
「で、でも……じゃあ、葉月さんの釣り合いが取れる男になるのはどうすれば……」
「そうね。私より背が高くてイケメンで、ファッションセンスも抜群で性格もイケてて、SNSのフォロワーも最低十万人以上のインフルエンサーで、年収も一億以上ある男かしら。キャハハ、クソムシごときがなれるとでも?」
「は、ははは……それはなかなかハードルが高い」
てか、そんな男は滅多に居ないというか、超売れっ子の配信者でもないと無理なのでは……。
「だって、そうでしょう。私に釣り合う男って、そのくらいじゃないとマジで無理だと思わない? こんなに容姿も性格も最高に良い女、世界中探しても滅多にいやしないんだからさ」
「ですよね、その通り。ど、どうしようかな、そうなれるには」
本気で俺にそうなれと言うなら、俺もそれなりに覚悟が必要になってくるが、葉月さんも俺を嘲笑するような眼で見ながら、
「ま、そういう男は滅多にいないし、クソムシごときになれるとは思っていないわ。でも、私ってとっても謙虚でお淑やかな女だから、あんたにはそこまで要求しないで置いておいてあげる」
「おおっ! そうですか」
「くくく、そうよ。クソムシには三ツ星くらいのランクで我慢してやるわ。良い大学に行って、大企業か公務員にでもなって安定した収入を得られたら、それで許してあげる。ほら、ここまで妥協したんだからね。出来ないなんて言うんじゃないわよ」
「頑張りますとも! いや、やっぱり葉月さんは最高ですね」
「きゃっ! こ、こら……ああ、もう単純な男ね、あんた」
葉月さんがそう言ってくれたので、嬉しくて思わず抱きついてくる。
無茶なことを言うけど、根は良い人なんだよな、この彼女は。
キツイことを言うのは、俺に対する叱咤激励なんだと思えば、もはや「クソムシ」呼ばわりも苦ではなくなってきた。
数日後――
「いらっしゃいませー」
コンビニのアルバイトが始まり、店長の指示のもと、棚にある商品の補充や整理を行う。
緊張するなあ……とにかく、アルバイトを頑張って、金を出来る限り稼がないと。
あのバッグは無理でも、万単位のインスタ映えするプレゼントは買えると良いなー。
「えっと、次は……あ、いらっしゃいませ。ん?」
客が来たので、挨拶をすると、何と葉月さんが店にやってきた。
お、おお……俺の様子を見に来たのか? 感激だなあ。
声をかけたいけど、特定の客と仲良くして良いものかどうか悩んでしまい、彼女に近寄り小声で、
「あの、どうしました、今日は?」
「さあね。たまたま寄っただけど。ねえ、店員さん」
「はい?」
「これと同じのこの店にある?」
「え? これは……」
葉月さんがバッグから小瓶を取り出すが、これは何だろう? 香水?
「お気に入りの香水なのー。この店にあるかしら?」
「あ、えっと……少々、お待ちください」
そんなのあるかなと思って、一応、化粧品コーナーを見てみる。
しかし、同じのは見当たらなかったので、
「すみません、ここにはちょっと……」
「あーあ、使えない店員ね。ないじゃないわよ、取り寄せ出来ないか問い合わせろっての」
「え、ええ? わ、わかりました。ちょっと聞いてみますので、その……」
「もういいわ。帰る。じゃねー」
「あ、ちょっと」
商品名を確認させてくれと言うと、葉月さんは帰ってしまった。
「何だったんだ……」
邪魔をしに来たのか? よくわからない人だなと思ったが、何も買わないで言ってしまったので、単なる冷やかしだったんだろうか?




