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祭りの後

十一月三日。


ジャック・オ・ランタンの悪夢の夜から三日後。

午前十時。


昨日シャオの埋葬を終えた。シャオはスノードーム・シティの郊外の見晴らしのいい丘に埋められた。この街から出る、そう言ったシャオは死んだ後でしか出ることが出来なかった。それが悲しくてユウは一晩泣いた。

今日は、少しだけ気持ちの整理がついた。家の中はシンといていたが、もうここに帰ってくることはないと思ったら未練もなかった。


「あ、そうだ・・・」


ユウは少し悪い気もしたが、シャオの化粧箱を漁って、シャオが一回も貸してくれなかった口紅を取り出した。


「・・・いいよね、シャオ」


ユウはいたずらっぽく笑う。バラのように紅い口紅だ。ユウの好みではないが、シャオがこれをつけているといつも楽しそうにしていた。ユウはその口紅に元気になる魔法でもあるのかと小さい頃はずっと思っていた。だからずっと憧れだったのだ。

ユウはその他にもリップをいくつか取り出した。全部ユウが知ってるシャオの唇の色だった。


「全部取ったら怒られちゃうわ・・・」


ユウはいくつか貰って後は元の化粧箱に戻した。


「さてこれで全部ね・・・案外私の荷物って少ないのね・・・」


ユウは静かになった家をもう一度見渡し、外に出て行った。

スノードーム・シティは相変わらず静かだったが、きらきらとした雪がとても綺麗だった。

ユウは立てかけておいた銀の箒を取って、跨った。

わずかな間もなく箒はふわっと浮かび上がった。ユウはそのまま上昇し、もう一度街の外のシャオの墓まで飛んでいった。

昨夜降った雪が墓の上に積もっていたので、手で優しく払う。

一通り綺麗にすると、ユウはそのまま墓標の横に座った。

その後少しだけ泣いた。昨日みたいには泣かなかった。これ以上泣くとシャオに怒られそうだったからだ。

ユウは涙を拭って「シャオ、見て。じゃあん」と言って、ポケットからシャオの口紅を取り出した。


「使っちゃうからね」


ユウは口紅を塗り、シャオの墓に向かってまた「じゃあん」と言った。

するとなんだかまた涙が出そうになった。けれど、ユウは笑って何とか堪えた。


「やっぱり寂しいよ・・・でも私頑張るからね」


そう言って、シャオの墓にキスをした。墓石にはユウの赤い唇の跡がついた。


「また、お話に来るからね。いろんな世界のお話をしにくるよ・・・」


ユウは足を引きづって、銀の箒を拾った。そして墓に向かって手を振った。


「またね・・・シャオ」


銀の箒はゆっくりと飛翔する。ユウは空に吸い込まれてかのように、どんどん飛んでいく。






「犬食べたのよ。慰めてカボ」


「昨日からチャムはその話ばっかりだ。食べなければよかったじゃないか」


「うるさい、気分は最悪なの。『不味いご飯は毒と同じだ』って昔ジャックが言ってた。毒を盛られたのよ。慰めて」


チャムはしつこくカボの懐に潜りこもうとする。カボはそれをなんとなく躱し、新雪の道をボスボスと歩いて行く。


「おーい、二人とも!」


突如声が聞こえてくる。

カボとチャムが振り向いてみると、ユウが箒に乗って飛んできていた。


「私も一緒に連れてって!」


カボとチャムは顔を見合わせた。


「「嫌だ」」


二人は声を揃えて言った。


「ちょ、何でよー!私、行く先も帰るところも無くなっちゃったの。二人と一緒にしばらく迷わせてよー」


「「嫌だ」」


二人は声を揃えて言った。


「・・・この二百年間、十人くらいが俺たちに付いてきたことがある。早い奴だと一日、長い奴で三か月でいなくなった」


「・・・別れたの?」


「迷子になった奴もいるし、怒ってどっかにいった奴もいるし、チャムが殺したやつもいる」


カボがそう言うと、ユウは目をぱちくりさせた。

そして、ふうん、と言って「じゃあ、私が一番長くなるように頑張るね」と笑った。

カボはその顔を見てひとりごちる。


「ずっと笑っていて、と伝えろとアイツに言われた。けど言うのは何だか滑稽だな」


ユウにその言葉は聞こえない。きっとその必要もないのだろう。


「ああそう言えば、多分マジョレトレカスって街よ。私聞いたの」


カボはすこしだけ何か考えるようにユウを見つめ、ふいとそっぽを向いて歩き始めた。

チャムはカボについていきながらユウの方を向いて「非常食」と言った。


「よろしくね、ジャック・オ・ランタン」


ユウは屈託なく笑い、箒に乗って二人の後をついていく。


目指す場所は安住の地。カボチャと少女は迷い続ける。



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