カボチャのランタン
『同胞よりご報告します。全員各指定場所に『キャンディ』を撒き終わりました』
「ウェストサイド、ノースサイドも完了したのか?」
『全地域完了してます。次の指示は?』
「全員その場に待機だ」
『・・・は?なんと?』
「そこにいろと言っているんだ」
『・・・了解しました。待機します』
ホワイトアイスは無線機を外へ投げ捨てた。ここからでは落下音も聞こえなかった。
「・・・もう少しで聞こえ始める」
カボは興味無さそうに俯く。
「特別にお前に聞かせてやろう。この街が完全なる静寂を迎える前の、最後のエンディングソングだ」
カボは何も言わない。ただ黙って俯いたままだ。
ホワイトアイスはまたカボを殴った。カボは血を流さないし、骨も折れないし、顔も腫れない。それがとても不快に思えて、ホワイトアイスは何度も何度も殴る。
「興奮しているな」カボは感情もなく言う。
「・・・・・・」
「それに震えているな。なぜだ?」
ホワイトアイスはため息をついて言った。
「全くいい加減、嫌気がさす。お前たちに感情を探られることほど虫唾が走ることはない」
「だったら殺せばいい。この街の終わりを見せられるなんて俺は別に望んでない。お前がどうしても見せたいわけがわからない・・・」
「・・・・・・」
「だから迷っているんじゃないのかって思ったんだ。興奮している反面、震えているのがその証拠だ。何に迷っているかは知らないが」
ホワイトアイスはカボの首を掴み、鎖を引き契り床に叩きつけた。
「『人に酷いことをするのは怒っている証拠だ』それがジャックの口癖だった」
顔を引きずられながらカボが言う。
ホワイトアイスはカボの首を掴んだまま、腕を伸ばしてビルの外でカボを宙づりの状態にする。首を掴まれているせいで目視できないが、足の下に空間が広がっていることが分かった。
「それは侮辱だ。この俺は今ようやく自分の使命を達成しようとしている。そこに一切の迷いなど無い!この街が終わることに恐れも何もない!」
「・・・恐れ、俺はそんなことは一言も言ってない」
「・・・ッ」
ホワイトアイスの眉間に今日一番深いしわが寄る。
「何を恐れているんだ?お前は化け物だが、少し残った人間の部分が震えている気がするぞ」
「黙れッ!」
「街を終わらせようとしているのが恐いのか?何を迷っている?」
「化け物が!減らず口を叩くな!」
「・・・なあ、お前面白くなってきたな」
ホワイトアイスがカボの首をものすごい力で絞める。カボの首がみしみし音を立て始め、カボもこれは死ぬかもしれないと思った。
力は出ない。もうカボの中の炎はほとんどなく、手の打ちようはない。
カボは首を絞められている間、ひどく退屈だった。ただひたすら、これで終わってしまうのは面白くないな、と心の中でぼやくことしかできなかった。
「・・・・・・ッ」
このまま終わってしまっては面白くない。もうジャックにも会えなくなることが何より面白くないことだった。きっとチャムもこれで終わってしまっては面白くないだろうと思うに違いない。
この男に付き合うのはもういい。キャンディは不味いし、こいつのやってることは意味が解らない。だからもう十分だ。こっちの準備は整った。そろそろ始めるべきだ。
「カボォオッ!」
声が響いた。ホワイトアイスは驚き、周囲を見渡す。その瞬間、ぎゅんと何かが下から飛んできた。勢い余って上空まで行って、ようやく静止する。
「ユウ・・・ッ!」
ホワイトアイスは憎々し気に睨む。
「チャム連れてきたよ!」
ユウが発すると同時、チャムは箒から飛び降りた。落下していくチャム。ホワイトアイスはもう片方の腕を槍のように伸ばし、チャムに向ける。
カボは笑う。
「灯せ、チャム」
カボが言ったと同時に、キャンディの槍がチャムを突き抜けるが、ホワイトアイスは手ごたえを感じなかった。貫かれたチャムの体は少しずつ消失していき、咲いた花火のように炎の残滓を空中に残しながら、最後にはレインコートを残して無くなってしまった。
ホワイトアイスがわずかに当惑すると、自分の腕に違和感を覚えた。
「・・・・・・貴様ッ!」
その言葉は掴んでいるカボに向けられた。急速に熱を帯び始めたカボに向けて、だ。
カボは空中につるされたままホワイトアイスの腕を引っ張る。その力は有無も言わさずホワイトアイスをテラスの外に放り出し、カボとホワイトアイスは何十階もあるビルの上から落下していく。
ホワイトアイスは止む無くカボを離し、ビルの側面に飴をくっつけながらゆっくりと落ちていく。
ドンっとカボが一足先に着地し、雪埃を上げる。
その後ホワイトアイスはゆっくりと着地し、雪埃の中にカボチャを探す。雪埃に加えて、暗闇のせいでその姿は容易にはわからなかった。あの固さだ。容易には壊れはしていないだろう。その時、ホワイトアイスは気づいた。未だ視界が悪い中で確かにそれを見た。
「・・・・・・ッ」
ゆらゆらと浮かぶ橙色の光。その光が次第に近づいてきて思わず身構えた。
笑っている。光が笑っているのだ。あれは、大きな眼と、鼻と、三日月のような口だ。
「ジャック・オ・ランタンッ・・・!」
ホワイトアイスはぎりと歯を軋ませる。
現れた怪物は、雨合羽を被り、顔を隠している。その発光する表情は明確にジャック・オ・ランタンの感情を浮き彫りにしている。
「ハ、ハ、ハ、ハ・・・ァァ・・・そのとおり俺様はジャック・オ・ランタンだ」
区切りながらけらけらと滑稽にカボチャは嗤う。
チャムの炎が、カボに灯った。純然たるジャック・オ・ランタンの登場だった。




