彼らの1ページ目
春麗ら。桜の咲き乱れる木を見上げる少女がいた。
少女は木を見上げて微笑んだ。
「きれい……。ほんとうにきれいだね……」
少女は涙ぐんでいた。
どうしてだか生来少女は涙もろく、感激屋さんだったのだ。今も、桜がうつくしいというただそれだけの事で涙が溢れていたのだ。
「この世界は、とってもきれい………」
眼に写る何もかもが彼女を感動させた。生きていること、愛すること、愛されることがどれほど美しいか、思うたびに少女は泣かずにはいられなかった。
風が吹き、どこからかプリントが飛んで来た。
バラバラになったそれを追いかける、同じ学校の制服を着た少年が目に入る。
「すみません!それ……」
少女は足元に落ちた紙を拾い、砂を払ってから手渡すが反応がない。表情を伺えば少年は少女の顔を凝視していた。
唇が震える掠れた言葉を紡ぐ。
「なまえ…は………?」
「?私は、香織。柏木香織、です……」
「…………か…、お…り?」
首をかしげる少女は見た。
少年の頬に伝う涙を。
だが、それについて考える前に、また風が吹き少女は叫び声を上げた。
「ああっ!」
少年が折角集めたプリントが風に飛ばされてしまったのだ。
慌てて集め終えたときには少年は涙をぬぐっていたし、少女はすっかり涙の存在を忘れていた。
「はい、どうぞ」
手渡されたプリントをおざなりに受けとりながら、少年は少女の顔をじっと見ていた。
「……なに?」
少女の疑問に曖昧にほほえんだ少年はごまかす。
「…桜が、きれいだと思ったんだ」
「ああ、そうだね。桜はとってもきれいだし、世界って、ほんとうにうつくしいんだよね」
風が吹き、桜の花びらが舞う。
少女は暴れる髪を押さえる。ばたばたと少年が手にしたプリントの束が音を立てた。
桜の花びらを追いかけるように、風の向く方を振り返って少女は見た。
そこにはきっと、希望にみちた世界が広がっていることだろう。
有難うございました
ちなみに香織はきちんと転生しています。元の時間軸に戻っては居ません




