98話 ブレイン
彼を見たキルは驚愕した。それだけの部位で生存していることは常識では考えにくい。仮に実現したとしても実行に移す狂った人間はまずいない。
キル「失礼かもしれないが、人間か? それともコンピューターか?」
ブレイン『人によって考えは違うだろうが、その両方だ。付属の小型カメラ、スピーカーなどで外部からの情報を入出力している。これらがなければ私は何もできない。』
彼という人間がここにいたのなら地下とはいえ、研究所で起きたことは理解しているはず。敵である可能性をキルは考えた。機械がなければ何もできないということは、逆にそれさえあれば可能性が広がる。破壊はしたが監視カメラを見ていた場合もある。
キル(本体は人間の脳か? もし、コンピューターの方なら通報されている可能性もある。)
キルはブレインに拳銃を突き付ける。敵だったとしても情報が不足しすぎている。もっとも脅しが通用するかは半信半疑だった。
キル「死にたくなければ次の質問に答えろ!」
ブレイン『確かに、私ならそれで機能は停止する。だが、機械に脅しが通用すると本気で思っているのか?』
キル「自殺志願者以外は死ぬのは嫌だろう? それにただの機械ならすぐに壊すだけさ。まず一つ目の質問だ。どこまで知っている?」
主語をあえていれず抽象的な質問を選択する。こちらからの情報は与えないつもりだった。何を話し出すかそれによって行動が左右される。
ブレイン『全てだ。ここで起きたこと、外の世界のこと。勿論X、お前の正体も知っている。』
向けていた拳銃の照準がぶれる。コンピューターとつながっているのだからインターネットからも情報を得ることが可能。少し思考すれば誰でも分かるはずだった。
キル「お前は敵か、味方か!?」
ブレイン『その二択では答えることができない。私は通報はしていないが、いつでもここを爆破できる。情報提供ぐらいならできなくもないが、助けになるようなこともできない。こうしてお前と話すぐらいだ。』
キル「それで構わない。情報をくれるだけで助かる。」
キルはブレインとの会話を続け、情報を聞き出した。研究所から外の世界へ出るには特殊で研究員とその関係者しか知らないその方法を知らない。能力によるサーチでここを見つけることも不可能等の情報が得られた。キルからは研究そのものの情報はあまり聞こうとはしなかった。
一通り話を聞いたキルは彼に感謝を伝え一度その場を離れようとする。
ブレイン『ちょっと待て。まだ研究所に居座るつもりか?』
キル「食料などの物資を調達次第ここを出るつもりだ。よかったら一緒にここを出るか?」
ブレイン『取り外し可能だからできなくはない。それよりも研究員たちが通報している可能性もゼロじゃない。できる限り早くした方がいい。』
分かった、とブレインには返事したものが、彼はいまいち納得がいかなかった。
キル(通報は電話などを用いて行うはず。他の電子機器を作動させた様子もなかった。普通に考えればありえないことのはず。しかし、カメラで見ていたブレインがそういうなら俺の知らない何かがあってもおかしくはない。たとえありえないことでも……)
その考えはすぐさま的中してしまう。
S16「X! 大変、誰かが近づいてきているみたい。」
地下にいたにも関わらず地上の焦る彼女の声がはっきりと聞こえた。ブレインの警告通りのことが起きている。あの壊れた携帯電話でも能力を使用すれば通信は不可能ではなくなる。一度は落ち着いたはずの状況が緊迫したものになる。キルはさっきの思考をかなぐり捨て上を目指し階段を駆ける。
キル「何がどうなっている?」
S16「分からない。S45からさっき外に誰か来ているって言われた。」
彼はブレインの話から研究員、その関係者であることは間違いないと確信していた。シフト交代で来ただけの研究員ならさっきと同じように始末できる。だが、通報で呼ばれた脱走者を消すための者なら全く対処が異なる。不意打ちは不可能なうえ、こちら側の能力の全てを知っていると考えられる。最悪の状況がキルの頭に浮かんでくる。そして、それは想像であるため、その最悪を現実は上回る場合もある。
他の彼らは接近者に対抗するため入り口に集まっていた。D109が第一目撃者で状況を説明していた。
D109「だいぶ距離は離れていてこちらが見ていることに気が付いた素振りはなかった。でも、相手は……」
彼は相手の正体は知っていたが、恐怖で言葉がすぐに出てこない。見間違いであればいいという願いさえも出てくる。
S45「はっきり言って! 私たちの命がかかっているの!」
D109「落ち着いて聞いて……。相手は四天王のレスター・マテリアル。」
その言葉で場が凍り付く。四天王とは、次期皇帝候補の四人で独自の軍隊を保有し世界最強の能力を持つ存在。並みの貴族が束になっても勝つことが不可能とされている。考えるまでもなく倒すことはできない。
S45「嘘でしょ!? いくらなんでも冗談じゃない! なんでここに四天王が来るのよ? 無関係じゃない。」
S22「いいや、マテリアルがここにきているのを見たことがある。S45も話を聞いたことがあるはずだ。全くの無関係なら外のことを知らない僕たちが四天王なんて分かるわけがない。」
焦りと恐怖が彼らの顔ににじみ出てくる。そのせいもあり会話が続かなくなる。その沈黙は彼ら以外で破られる。
レスター「聞こえるか、実験体たちよ。直ちにXの身柄を渡して投降しろ。この先の周りに結界を張ってある。俺を倒さない限り外にはいけない。」
近くまで歩いてきたレスターが彼らに呼びかける。二十代後半の顔立ちなのに威厳を感じる。異なる色の両目が逃がすまいと睨み付ける。
レスター(この感じなら研究員は一人も残っていないか……。間に合わなかった。だとしたら投降はありえない。せめてデータを取れるだけとるか。)
彼は研究所の少し前で立ち止まり、懐に隠し持っていた拳銃を握る。それほど遠くないところに仲間の仇がいる、そう考えるだけで殺せてしまう自分が彼にあった。これが自分を含めた者たちの報いだと理屈では分かっていても感情が否定してしまう。大勢の命を踏みにじった外道にそんな資格あるわけがないというのに。
レスター(仕掛けてくるか。)
レスターの反応より先にD109が前に出て能力を使う。自分たちの存在を認知しなくなる幻を相手の眼に植え付ける。
S45(これであの男は私たちに攻撃はできない。S16とXは動かないで。たとえ四天王でも所詮は一人の人間。私たち六人で始末する。)
戦うことを選んだ彼らはもう戻れない。そんな様子をS16とキルは窓からのぞくことしかできなかった。
キル(相手は四天王の一人。奴隷解放軍として動く以上、戦う可能性はあったがこんなに早く出てくるとは! 今までの人間とはわけが違う。ここも彼らに任すしかない。)
レスターは眼がまともに使えないため動かずに拳銃を正面に構える。その動きから察してS45が指示を出し攻撃を行う。
D34が手始めにレスターの周りの酸素を能力で奪っていく。続いてS25が銃から弾をいくつか取り出し念動力で目標に飛ばす。それと並行してD67が電撃も飛ばす。弾丸と電撃が交わりながらレスターの体に直撃した。その衝撃が彼らにも伝わるほどだった。
レスター「これが実験で得たお前たちの能力か。」
傷一つ付かずに本来見えないはずの彼らに目線を変える。同時攻撃が通用しかなったために彼ら激しく動揺する。
S45(一体どういうこと!? なぜこちらの姿が見えている? それに攻撃が一切効いていない。でも、最初の幻覚は効いていたように見えた。まさか、向こうも幻覚の能力者!?)
時間稼ぎも含めて散開するように仲間に促す。S45はレスターだけにテレパシーを送り感覚で正確な居場所を探ろうとする。
S45(聞こえているかしら、四天王さん。)
レスター(テレパシーか。)
その一言の返しの感覚で居場所を探したが目に映るものと相違がない。幻覚でないなら攻撃を防ぐ類の能力と考える彼女だったが、その間に黒い壁のような何かに閉じ込められる。
S45「出られない! 何よ、これ!?」
レスター「これで司令塔は潰した。あとはお前たちの番だ! 」
D109はそれでも必死に幻覚を見せようとするが効いているようには見えない。D34も酸素を操り、奪うが相手は何も気にせずに呼吸をする。
S22「S25、これを飛ばして!」
S22は雑草を引き抜き、その草を金属レベルに硬化させる。S25はそれらを操り四方から仕掛ける。だが、全て跳ね返され無駄に終わる。S45が捕まり、他の能力が一切通用しない。諦めそうな彼らにさらに追い打ちをかけるようにレスターが喋る。
レスター「いくらやっても無駄だ。俺の能力はこの世の全てを操り作り出す能力。電撃も銃弾も効きはしない。消すことも生み出すことも可能だ。酸素を作ったように。」
能力を聞かされた彼らは絶望するしかなった。すぐれていたと思っていた能力が無意味だと思い知らされ所詮、井の中の蛙と痛感する。
レスター「これが俺と実験体のお前たちとの違い、そしてこれが本物の能力だ!」
一瞬で周囲の光を消滅させて、鎖を作り出し彼らの身動きを封殺する。
D34「それでも諦めない!」
まだ抵抗を続けるD34は酸素を減らし続ける。そんな彼らに対してレスターは無言で麻酔銃を作り打ち込む。この場にいた六人の能力者をいとも簡単に無力化した。
レスター(これで実験体の能力のデータはある程度とれた。あとS16とXのみか。)
危険を悟り奥の方に逃げた二人だったが倒されるのも時間の問題だった。
S16「X! どうしたらいいの? このままじゃ全滅する。」
キル「……分からない。」
他の実験体の彼らとは違い、キルは指名手配犯。運よく生かされたとしてもいずれは死刑台で殺される。ここで負ければあとはない。だからといって能力も使えないキルに勝機なんてない。それでも絶望から望みを探すため必死に知恵を絞る。
キル(ありとあらゆる攻撃は通じない、全て操る能力とあいつは言った。確かに俺たちはそれを見た。)
頭の中で整理するうちに常識ではおかしい点を発見する。それからレスターが彼らに行った無力化の手段も不自然だと気づく。
キル(確証はない。でも、勝つにはこれしかない。)
わずかな勝機を見つけた彼は着ていた血の付いた白衣をS16に渡す。これを着て逃げるように頼んだ。
S16「待って、私だけ逃げろっていうの!? それに外には結界があるのに。」
キル「結界はハッタリの可能性もある。仮に逃げ切れなくても時間を稼いでくれればいい。お前は殺されることはない。捕まったら多分俺の居場所を聞いてくる。その時は素直に答えろ。」
S16「そんなことであんな化け物に一人で勝てるの?」
キル「大丈夫だ。一人じゃないさ。」
S16はキルを信じて能力で加速しながら必死で逃げる。それを見届けたキルは近くにあったナイフで自傷行為を行い、衣類を血に染めた。
そのままで地下室に行きブレインに協力を頼んだ。
キル「お前の力を貸してほしい、ブレイン。」
ブレイン『状況は理解している。しかし、私が協力した程度で四天王を倒せるのか?』
キル「いいや、他の者にも強制だが手伝ってもらう。俺はこの方法ぐらいしかできない。」
S16は指示された通り逃げ続ける。だいぶ距離は離れているものの、確実にレスターは追いかけてくる。走っている間に草や木の枝が体に当たっても気にしている時間はない。そして、進んだ先で見えない壁に当たってしまう。
S16「やっぱり結界はあったんだ。それでも!」
諦めず別方向へ逃げる。何度かつまずき転んだけど痛みすら無視して全力を出す。
能力を限界の三度使用し一時間稼いでみせた。やがて力が尽きて完全に追いつかれてしまう。
レスター「ここまで逃げたのはお前が初めてだ。回数制限のある能力でよく頑張った。だが、もうお前はおしまいだ。質問に答えろ。Xはどの方角に逃げた? 反対側か?」
S16「いいえ、逃げてはいないわ。X、彼はお前を倒すために研究所で待っている!」
レスターは全く予期せぬ答えに腹ただしく感じた。すぐさま麻酔銃で彼女を眠らした後、研究所に向かった。
レスター「キル・コープス、お前が戦うつもりなら受けて立ってやる!」
キルはS16が時間を稼いでくれている間に研究員の死体を集める。それを地下室に続く階段の横に積み重ねた。決して誰が見ても気分がいいものではない。
次に地下室に行き、かつて人であった実験体の脳や肉の容器を壊して床に乱雑にたたきつける。血液の入ったボトルに血が固まらないように見つけた特殊な粉を入れる。全てのボトルに施し終えると中身を床、壁、天井にまき散らした。足りない分は死体から取集、自分の血を使う。これで地下室は血まみれの赤い部屋、脳や肉の破片も大量にありこの世のものではない地獄の空間と化した。ここまで仕上げるのにかなりの時間を有した。
キル「139……人……」
彼は無意識にカウントしていた。その行為には意味ない。
キル(あの男の能力には決定的な弱点がある。それを隠すために能力をあえて明かし、麻酔銃という回りくどいやり方で無力化した。弱点があるならやれないわけではない。)
キルはブレインを取り出して持ち運べるようにする。ブレインの大きさは機械部分も含めてサッカーボールより一回り大きいもの。キルにはこれでいいのかと少し不安に感じる。
ブレイン『大丈夫だ。これでも喋れるし視ることもできる。通信も制限はあるが作戦には支障はない。』
二人はレスターが来るまであるところで隠れることにした。見つかれば敗北は確実だが絶対に見つからない場所。キルの心臓の鼓動が時間と生きていることを実感させた。
レスターは研究所に入ると隠れられそうなところをすぐさま破壊する。
レスター「どこだ! キル・コープス、出てこい!」
目につく物を即座に排除しつつ進んでいく。実験体に脱走された以上、ここは廃棄するしかないため加減の必要がなかった。
一部屋ずつ慎重に行い、残るは地下室のみ。
レスター(地下室だけ能力による感知ができない。S16が着ていた服にも血がついていたことも踏まえると弱点に気づいたようだな。)
彼は地下室に罠があると分かっていた。しかし、このまま待つだけでは透明な結界を維持し続けているレスターが少し不利である。地下室に通ずる階段に近づき例の死体の山を見てしまう。いくら非人道的な実験を繰り返してきた彼でも何も感じないわけではない。
レスター「俺のせいで……すまない。キル・コープス、彼らの遺体をこんなにして挑発のつもりか!」
覚悟を決め階段を下っていく。進むたびにひどい異臭が強くなる。吐き気をこらえ地下室にたどり着いた。辺りは予想以上に酷く血まみれ。血液が凝固していないため、天井についたものが滴になって落ちてくる。
レスター(ここまでしているとは! 通常、俺の能力では血液と人間を操れないし認知もできない。こうも血まみれだと能力は使えない。まさかあの戦闘だけで弱点を見抜き、ここまで準備しているとは思っていなかった。しかし、ここのどこかに隠れているのは確実。)
拳銃を取り出し警戒心を最大にする。周りを見渡しブレインがいないこと、それともう一つ言葉にできない違和感があった。
レスター(何かおかしい。能力が不完全な状態なら不意打ちで仕掛けてくるはずだ。ブレインも連れているなら爆破が狙いか? それだとあいつ自身も巻き込まれる。巻き込まれない場所は少なくとも地下室以外の場所になる。それはさっき調べたはず。)
考えを巡らせても何かが足りない。研究所の外の可能性も考えるが外での戦闘はレスターが有利となる。地下室に入ったことを確認する術がない。そんなことをここまでしたキル・コープスが今更するとも考えられなかった。しかし、キル・コープスという単語で答えが出てしまう。
レスター「まさか、あいつは遺体の下に隠れているのか!」
絶対に隠れられない場所という先入観が答えを遠ざけていた。慌てて地下室から逃げようとするものの、上から投げられた死体の山が階段を塞ぐ。
レスター「く……」
いくら血まみれで能力が不完全でも手の平ぐらいの硫酸や爆弾をこの場で作れば目の前の死体を消し去ることができる。しかし、部下の死体を消すことに戸惑いがあった。捨て去ったと思い込んでいた、まともな人間としての心が邪魔をする。ここから逃げなければ操れない血まみれの瓦礫に潰される。感情と理性がグチャグチャになっていく。残された手段は……。
レスター「やって……くれたなあああ!! キル・コープス!!」
死体を投げてすぐにキルはブレインとともに研究所の窓にめがけて疾走する。
キル「起爆を頼む。」
まだ出られてはいないが一刻も早くしなければレスターに逃げられる。地下室から出られたら能力で防御が可能となる。
爆破が始まり、炎がキルたちに迫ってくる。確実な死が追いかけてくる。
キル「間に合え!!」
あらかじめ用意していた踏み台を使って窓ガラスに体ごと突っ込む。そのままの勢いで外に飛び出す。地面を転がり十メートルくらいで止まる。ガラスの破片が体に食い込み激痛が襲う。ボロボロの状態で目を開き研究所を見る。
キル「やった……これで」
燃え盛る研究所を見て彼は勝利を確信する。ブレインからの声も聞こえないまま彼は気絶した。
捕まっていた者たちはレスターがいなくなったため、鎖が消失して自由になった。目を覚ました彼らはキルたちを担いで遠くの方へ向かった。ある程度進みそこで休憩をとる。そこでようやくキルが目を覚ました。
S16「やっと起きた。傷の手当てはやってみたけど大丈夫?」
キル「少し痛むが問題ない。それで俺たちは勝ったのか?」
ブレイン『ああ、私たちは勝って生き残った。お前のおかげだ。S16、すまないが離れてくれるか。』
S16「もう時間なのね。……ありがとう、忘れないよ。」
S16がいなくなったことを視るとブレインがキルに話しかける。
ブレイン『キル・コープス、お願いがある。私を殺してくれ。』
突然の言葉に耳を疑う。
キル「何の冗談だ? 生き残れたのはブレインのおかげじゃないか。感謝はあっても恨む理由も殺す意味もない。」
ブレイン『理由も意味もある。私は研究所で得たデータを管理し他の施設に送っていた。そのせいで次の実験が計画されお前たちに実行された。一度は止めようとして警察に密告したが何者かに握りつぶされた。私を殺せばここにあるデータは消える。それに研究所から離れたためもうバッテリーが残っていない。充電も不可能だ。』
キル「だったらどうして俺に協力した!? 協力しなければ通報していればもっと生きられたはずだ!」
ブレイン『データを管理するだけのコンピューターが生きていると言えるか?』
キルはその言葉を否定できなかった。家畜として死体を殺し続けたあの頃とブレインの人生に違いなんてない。同じ立場なら同じことを言っただろう。
ブレイン『私は元々S1と呼ばれていた人間だった。体を切り刻まれ脳だけになった。よくわからない液体に漬けられて今の状態になった。この状態なら能力による情報漏洩はほとんど不可能らしい。それだけのためにこうなった。奴隷と大して変わらない。でも、キルお前は私を人間かと聞いてくれた。どうみても人間ではないこの私を。』
キル「俺はそんなつもりで聞いたわけじゃない。」
ブレイン『それでも嬉しかった。人間として扱われることはないと思っていたから。』
涙など出るはずのないブレインから涙が出ているように見える。
ブレイン『もう十分だ。機械として終わりたくない。人間として殺してくれ。キル・コープスならやってクれル……ダロウ?』
ブレインの音声が乱れ始めてきた。もう時間がないことを告げていた。血まみれの銃をキルは取り出し、銃口を向けるしかなかった。
キルにとっては別に今までの殺人と何かが変わるわけではない。シンプルの時と変わらないはず。それなのに覚悟を決めるのに二、三秒かかった。
キル「分かった。俺は……ブレイン、お前を殺す。」
震えなどない手で引き金を引いた。銃声すら今の彼の耳には入らない。後悔や悲しみなんてあるはずがない、たった数時間しか関わりのなかった人間なのだから。ならキルが抱いたこの思いは何なのか?
キル「何も感じない……。」
彼はブレインを埋葬して墓を作った。




