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能力社会  作者: コイナス?
1章 憎しみの世界
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9話 わかれ

キル(罠の準備は完了した。このまま敵がこちらにくるのを待つのみ。しかし、何の対策もせずくるほど馬鹿ではない。だが、どんな対策だろうと無駄なことだ。)


 キルは自分の作戦に絶対の自信があった。対策を練ろうにも罠自体を完璧に見抜けなければ対策にはなりえない。



ジーク『爆弾を投げてくる危険性があるが、爆発までにわずかなタイムラグが存在する。それは、奴隷たちは管理室に指示を出してから起爆させているからだ。その間に能力で加速すれば退避は可能と思われる。灰で目くらましをしてきた場合は、一度後ろに下がり拳銃を発砲しろ。それだけで奴隷に近づくことは不可能だ。あと他にも仕掛けてくる可能性はないとは言えない、その時のために通信機は常にオンにしておけ。』


 ジークたちはキルたちを追っていった職員に対抗策を説明した。しかし、実際には何が起こるか分らない。そのために現場の情報を少しでも得るという意味合いを含めて通信機をオンの状態にするようにしていた。三人の職員たちは指示どおりキルたちを追い通路を歩く。しばらく通路を歩くと曲がり角がありその手前に物置の扉があった。アイルによると曲がり角の先に奴隷たちが待ち構えているという。職員たちはあえて足音やしゃべり声で接近を知らせた。必ず罠があることを知っているから、先に罠を発動させる。先に罠が分かれば対処も近距離の時より楽になる。

 職員が接近をあえて知らせたことはキルの思い通りだった。当然、そうこない可能性だってあったが、罠があるなら先にそれを使わせ、こちらの手が尽きた安全な状態でくると考えたからだ。


 職員がある程度近づいたこと時、キルが袋に入っていた灰をまき散らした。かなりの量の灰で周りの視界が遮られるほどだった。職員の周りにも灰が漂った。しかし、あらかじめ灰を目くらましに使うことは分かっていたため、冷静だった。ジークの指示通り職員たちが距離をとろうとした時、声が聞こえた。


キル「なあ、職員ども?死ぬのは怖いか?」


 突然だった。職員たちは誰の声なのかいまいち分からなかった。そもそもこの状況で何故こんな質問をするのか三人とも疑問に思った。声がまだ続いた。


キル「粉塵爆発。こういう感じの粒子が空気中にある時、発火源があると起きる爆発する現象だよ。お前たちが殺したシンプルに教わった知識の一つさ。残念だったな。逃げてももう間に合わない。」


 職員たちは言葉を、いや今の状況を理解するのにわずかだが時間を労した。つまり粉塵爆発で殺される、そう理解した。理解しても、もうキルの言う通り逃げる術がなかった。能力で職員三人を加速させ逃げるという考えが一瞬浮かんだが、灰は通路の奥の方まで飛散していた。通信機から何か聞こえてはいたが、三人の耳には恐怖で冷静さを失って届かない。


キル「さあ!死のカウントダウンだ!急げ、急げ。10、9、8」


 キルが楽しそうな声でカウントダウンを始めた。もう無理だ、職員がそう思った時だった。職員の一人が視界の悪い中、さっきまで見えていた扉を見つけた。


職員「まだだ!まだ助かる可能性がある!」


 職員の一人が他の二人を先導し、職員たちは扉をあけ大急ぎで中に入った。多少の灰は部屋に入ったが扉を閉めたため爆発は逃れることができた。三人は安堵した。


キル「3、2、1、これで終わりだ!」


 その数秒後、大きな爆発が起きた。その爆発音を聞いたキルは喜びのあまり高笑いした。


 爆発が起きたのは通路ではなく、物置の方だった。キルは始めから粉塵爆発なんて起こすつもりはなかった。そもそも可燃物ではない灰で粉塵爆発は起きないし、仮に可燃物であっても致命傷を負うような粉塵爆発を起こすことは簡単にはできない。

死の恐怖を感じさせ、唯一の逃げ道となる物置に爆弾を仕掛ける。人は恐怖によって冷静さを欠く。それを利用したため、職員たちはジークからの粉塵爆発は起きない、物置に入るなという指示を聞くことができなかった。仮に聞こえても混乱して、指示通りには動けなかっただろう。これは全てキルの仕組んだことだった。


少し時間が経ってから、キルは物置の扉を開けた。火が様々な物に飛び移っていた。職員の死体は見るも無残な姿だった。そのことを察してかシークレットはキルの後ろにいたまま中を見ようとはしなかった。全く気にせずキルは死体から拳銃を探して取り出す。


キル「これで武器は調達できた。」


 キルはシークレットに手に入れた拳銃を二丁渡す。キル自身も前のと合わせて二丁になった。



 ジークは呆然としていた。またしても仲間を失った事実に。もう犠牲者は出さないつもりだった。罠を見破れたつもりでいた。油断はしていなかった。いや、全て「つもり」だったでしかなかった。ジークは油断していないと思っていたが、心のどこかでは負けるはずがないという自信があった。だからこそ、こんな結果になった。大勢の仲間を死なせる結果に。

力があればこうならなかった、力が欲しい、そう思ったことは今まで何度もあった。そのたびに嘆き、悔やみ、そして思い知った。自分自身の無力さに。

 でも、今回は違った。彼には確かにそれを成し遂げられるほどの力が、能力が確かにあった。それをしなかったのは彼自身だった。油断という心の弱さがそうさせた。


ジーク(職員の死を無駄にしないためにも、私が全てを終わらせる!)


 ジークは覚悟を決めて動き出した。それは今まで彼とは違う行動だった。ジークを除くすべての職員に撤退を命じた。それは一人で戦うということを意味していた。もう犠牲を出さないための決断。


ジーク『アイル、今から生存者全員でここから退避しろ。今日非番の者にもしばらく休暇と伝えてくれ。』


 ジークの言葉の意味をアイルは察していた。全てを一人で背負うという意味を。でも、アイルはその行動に納得がいってなかった。


アイル『待ってください!!一緒に戦うんじゃなかったんですか!?なんでいつも貴方は全てを背負うとするんですか!?たしかに、私は足手まといかもしれない。それでも!私は貴方の力になりたいのです!一人の職員として、かつての貴方の部下として、貴方に救われた一人の人間として!』


 アイルはジークに思いを叫んだ。アイルがジークのことを大切に思っていたからこその叫びだった。ジークにもアイルの叫びは伝わっていた。だからこそ、ジークは自分を大切に思ってくれる者を危険にさらしたくはなかった。

 ジークは少し下を向いた。考えを変えるつもりはない。しかし、一瞬心が揺らいだ。アイルの彼の願いを聞こうとした自分がいた。アイルの能力は今までの戦いの要ともいえるもの。彼の能力なしではここまで追い詰めることはできなかったかもしれない。


ジーク(ここまでやれたのは私一人の力ではなかった……。仲間の存在があったからここまで戦えた。そんなこと、今になって気づかせられるとはな。トラウマで使えなくなっていたはずの私の能力を再び使えたのも、みんなに支えられたからだったんだな。だからこそ、もう死なせない!)


ジーク『すまない、アイル。私はもう決めたんだ。もう犠牲は出さないためにも一人で戦う!今まで本当にありがとう。……アイル、妻と娘を頼んだ。』


 ジークは通信を切った。これがアイルと言葉を交わすのが最後になるかも知れないことは薄々感じていた。生きて帰ることはできないだろうと。仮に生き残れたとしても勝手に奴隷倉庫を放棄し、大勢の職員を死なせた罪は償わなければならない。どちらにしろ、ジークに未来はない。


ジーク(これが私の最後の戦い。もう退路はない。いや、初めからそんなものはなかったのかもしれないな。)

ジーク「決着をつけてやる、今度こそ。待っていろ、キル・コープス!!」



 キルたちは捕まった奴隷を助けてもう一度仲間にしようとした。さっきはうまくいったが、今のままだといずれ捕まる。このまま戦うより手数を増やしたほうがいいと考えた。奴隷の部屋は鍵がかかっているが、鍵は幸いにもキルが持ったままなのでその点については問題はなかった。

問題は見張りをどう対処するかにあった。拳銃を手に入れたとはいえ、正面突破は無謀だった。当然、キルは正面突破など考えてはいないとシークレットは思っていた。今までの戦い方からしても状況からしても正面突破はありえなかった。しかし、キルはそれを口にした。


キル「奴隷達の救出についてだが、これは正面から二人同時に仕掛けようと思う。」


シークレットは驚きのあまり一瞬声を失った。


シークレット(一体どういうこと? 正面からはいくら何でもリスクが高すぎる。)

シークレット「その方法で勝てる見込みがあるというの?」

キル「あまりあるとは言えないが、効果的な方法だ。

俺たちの居場所は敵に既に知られている。さっきのこととも含めるとそれは間違いないだろう。追っ手を始末したから、二の舞いにならないようにするため迂闊にも奴らからは手を出せない。だが、奴らは俺たちの武器を知っている。今までの俺たちの行動から次の行動も予測される可能性が高い。さっきのハッタリも二度目は通用しない。こちらから攻撃を仕掛けるため、罠も仕掛けられない。おびき寄せることもおそらくできないだろう。

 だったら逆に、奴らが見張りで油断しているだろうこの時に一気に奇襲をかける!最初に爆弾を投げてから爆発させ、その後に二人で発砲しながら進む。奴隷達を再び部屋から出せるようになった頃には敵はほとんどいないはずだ。そうなったら勝ったも同然だ。」

シークレット「……大体作戦は分かったわ。私は貴方に賭ける!」

キル「ありがとう。それじゃ、奴隷たちの部屋に行くぞ!」


 作戦の特性上、クリーンには伝えられなかった。しかし、クリーンの役目は爆弾の起爆のみで連携は取れるはず。三人の内一人でもいないと成功率は格段と下がる。最初の爆弾の起爆のタイミングがこの作戦では最も重要ともいえた。



 職員たちはアイルの指示に従い退避を始めていた。アイルは今だに納得はしていなかったが、ジークの思いを尊重することにした。アイルは職員室で職員が退避できる時間に合わせて出入り口を開けるようにパソコンで操作をしていた。ジークとアイル以外の退避の完了が済むと十分後に出入り口を閉めるようにセットした。これで閉まった後はジークの持っている鍵を使わなければ開かなくなる。


アイル(これで私もここを出なければならないか。私は貴方をジーク・ボレットを信じています。必ず生きて帰ってくると!)


 アイルが奴隷倉庫を出た後、出入り口がしまった。その出入り口の前に涙を流しながら敬礼していたアイルの姿があった……。


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