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【プロへ至る高速道路】




〝グッキル!〟〝ラブ&ピース、ヨー!〟とチームメイトの歓声と笑い声が響く。

 聴き慣れない声もある。包囲側の敵プレイヤーも笑っているようだ。これまでに聴いた中で最も秀逸なレノンのカバーだ、と誰かが皮肉る。上物のハッパをやってるに違いないぜ、と別の声。〈バンザイアタック〉の窮地にライブビューを合わせている視聴者のあいだでも似たようなコメントが飛び交っているが、もちろん、アキラは知る由もない。

 そこに罵詈雑言が加わる。ほぼ間違いなく、たった今キルされた敵機関銃手だろう。ケツの穴だの、ろくでもねえ近親相姦野郎だのと、キレまくっている。

 アキラがボイスチャットをチーム回線に戻したとき、ウェスが古いスラングで謝意を表す。

「Wye-Ess-Emmmmma. I owe you one, dude.」

 YSM――You Sweet Motherf#$%er。

 ウェヴスターの辞書には載っていない〝サンキュー〟の最上級。

「Uh-oh!」とソルボンヌに留学中の中国人青年ウォン。「We've got another unit from north. I see Wun Ze-ro plus...correction Too Ze-ro plus enemy combatants and Wun armored vehicle.」

「Can you ID 'em?」とウェス。

「Hold on a sec...it seems amaterurs and...ooh la la, here comes the Duke of Nuke, baby.」

「You've gotta be s***ing me.」

「There's like, no s***, a huge V sign on their vehicle.」

「Oh, f#$% me!」

 ウェスが罵るのも致し方なし。勝利サインをトレードマークにしているチーム〈核攻撃公爵〉はここ数年でFPS関連のタイトルを三つも獲得し、前年の世界ランキングを二位で終えた凄腕プロ集団。

「It'll happen soon, Wes.」とアキラ。「They're gonna carve your ass LEAL bad.」

「Keep a cvil tongue in your head, young sirs.」とシン。「Kids are watching.」

「Things have really hit the fan.」ルイスがシンの小言を容れてPG13モードで言う。「At least our diversionary role is working well though.」

「And we're toast.」とマドリードの高校生リカルド。「That's it, guys. Howsabout performing a kamikaze act? Like World War Ⅱ wacky Nips. Oops, no offence, Akira.」

「None taken, Senor Falangist.」

「VERY FUNNY.」

「What's Falangist?」とルイス。

 撃ちまくりながらリカルドが言葉を選んで答える。「Well, sort of the old guard.」

 撃ちまくりながらアキラは言葉を選ばずに答える。「Well, Spanish Nazi f#$%s led by the“Rast surviving fascist dictator.”」

「¡por Dios!」リカルドが笑い混じりに毒づく。「According to My grandpa, El Caudillo and his party weren't THAT bad.」

 それはどうだろう? とアキラは思う。けれども、政治談議に熱を入れすぎると友情がぶっ壊れてしまう危険があるので「オーライ」とだけ返す。リカルドとしても憚られるらしく、するりと話題を変える。

「By the way, that Japanease war cry, what d'you call it, err...」

「You mean,」日本語に切り替えて、「天皇陛下あぁ、ばんざあああああい!!!」

〝アキラって呼ばれてるクソ上手い砂、ガチの日本人?〟〝悪ノリしすぎ〟〝マジ不敬罪〟〝陛下のために戦う姿勢は評価できる〟と日本語圏の視聴者がざわついたものの、やはりアキラは知る由もない。

「sí, that banzai thing.」とリカルド。「What does it mean?」

「Ritelarry tlansrate as‘may you rive ten thousand years, Your Majesty.’」

「Nice. Sounds a bit fanatical, though, it's nice.」

 包囲の輪が狭まり、銃撃と迫撃が苛烈さを増す。

「Akira, have any six-five mag or pistol mag?」使用弾薬が同じウォンが切羽詰まった声で尋ねる。

「None left! I'm shooting a captured Ef-Ay-El. Go get you a usable weapon. There are tons of dead enemy alound, you know.」

「It'd be so nice to run directly into this bullet storm.」嘆息。「Wish me luck.」

「I'll get you covered.」アキラは敵が固まっている方向へ弾幕を張る。「OK, go! Run, Forrest! Run!」

 数十秒もしないうちに無駄口を叩く暇がなくなるほど敵側の圧力が強まりだす。

「Almost black on ammo!」

「Ran out of 40 Mike Mike.」

「Jeez, patch me up. I'm gonna bleed out.」

 といった声が増え始めて、六人がデスペナルティ――本大会ルールではリスポーンまで六〇〇秒の手痛い待機時間発生――を覚悟したとき、朗報が入る。

 友軍の地上攻撃機と攻撃ヘリの編隊が陽動作戦を支援すべく、東西から別々に急行中だという。パイロットの要請に応えてルイスとウォンが発煙手榴弾を投げる。

「I can see red smoke rising.」と先着した攻撃機のパイロット。「Bloody hell, too many activities on the ground. Where exactly are ya?」

「In crater near smoke!」とウェス。「Gun run, gun run, gun run!」

 上空を通過して旋回飛行に入った編隊にまくしたてる。

「Sons of b****es are encircling us not farther away than hand grenade range and the perimeter is just about to collapse. Danger close is nowhere near enough to sort out our problem. DUMP ALL YOU'VE GOT RIGHT ON TOP OF US. SHOOT EVERYWHERE.」

「Wilco. Stay close to the ground, boys.」

 フレンドリーファイア設定の本大会では自殺行為も同然のウェスの要望どおり、〈バンザイアタック〉が抵抗している砲弾穴の外も中もおかまいなしに三〇ミリ機関砲弾とクラスター爆弾が雨あられと降りそそぎ始める。低空から飛来した攻撃ヘリのチェーンガンとロケットがそれに続く。

 まるまる一分間の狂騒。

 包囲していた敵プレイヤーは装甲車もろとも全滅。

〈バンザイアタック〉の六名は……無傷。

「Let's goooo!」ルイスが快哉を上げる。

 着陸した回収ヘリに乗り込みながら、ウェスが歌うように言う。「It was a miracle. Haaaaallelujah.」

 奇跡は続く。

 出だしこそ躓いたものの、〈バンザイアタック〉は友軍の勝利に最も貢献したチームの一つに選ばれ、そのトータルスコアはプロチームを押し退けて(僅差で)一位に輝く。翌日のイベント第二部、総合キル数上位二〇組によるトーナメント戦でもプロチームを押し退けて(僅差で)優勝を飾る。しかも一〇名全員が個人キル数でトップ40に入るというおまけ付き。

 オンラインのお遊びイベントでの出来事とはいえ、快挙は快挙。

 快挙がもたらす帰結――熱烈なスカウト。

 相手は主に、各メンバーの母国や留学先のeスポーツ事務所だ。個人キル数で七位になったアキラには、日本勢はもとより、海外勢からもお声がかかる。まだ未成年? 親元を離れて居住費ゼロの寮で暮らしてるローティーンのプロもいるよ。学校の勉強? eラーニングで大学に進学できるよ。でだ、チートコード監視AIを欺くのは事実上不可能といっても、一応、簡単な試験を受けてもらいたいんだが? 地理的・金銭的・時間的に当方を訪問いただくのが難しいようなら、我々が、機材を持ってそちらへ伺う方法も……

 ナントカいう世界的建築家に師事する野望を抱くウォン以外、みんな乗り気になる。

 しかしプロ転向は即断即決できるような話ではない。

 なんやかんやで大学が忙しい年長組は〝学業との兼ね合い次第〟と返事を保留。保護者の同意なしには何ひとつ決定権がない中高生の年少組も〝家族会議の結果次第〟と返事を保留。

 で、雨宮家の家族会議。

 アキラの両親(精神科医と哲学科正教授)はリベラルな知識階級としての自負心から進取の気性に富むが、長男が〝プロゲーマー〟などという博打そのものの世界に足を踏み入れんとすることに難色を示す。アキラは確約する。潰しが利くようにちゃんと高校に行くし大学も出る、と。

 明らかに言葉だけでは足りなかったので、高校受験シーズンから中学卒業シーズンにかけて、アキラは三教科を重点的に独習したのち、都内有数の進学塾の門戸を叩いて春期講習を申し込み、その初日に大学入試レベルの模試を受けたいと申し出る。

 そして適当に有名私大で埋めた希望進路のすべてでA+判定を叩き出す。

 その結果を見せられた両親は大いなる葛藤の末、しぶしぶ了承する。〝適度な放任〟子育て術をかなぐり捨てて条件も付ける。社会性を養うために高校をドロップアウトしないこと。学力を落とさないこと。大学進学後は食いっぱぐれない資格(医師免許、弁護士資格、公認会計士資格、国家公務員Ⅰ種)または学位(MBA、MArch、MSc、MFA、MEd、MAT、MALS、MLitt)を取得すること。成人まで金銭面は親が管理し、色を付けたお小遣いの中でやり繰りすること。〝ゲーム留学〟はさすがに許可できないので、なんだかよくわからない日本のゲーム関係にすること。

 アキラをスカウトした都内の中堅eスポーツ事務所は、広範な知識と高い技術を要求されるリアル系FPSが世界の主流になりつつある風潮と、リアル系不人気のお国柄とが相まって、FPS部門の過去数年の戦績がぱっとせず、喉から手が出るほど、いや、涎ダラダラのレベルで、時流にマッチした才能を欲している。

 課された試験で当該事務所の一軍チームをコテンパンにのしたアキラは、まさに時流にマッチした才能。国内どころか、世界を相手に連戦連勝の夢を見させてくれる一〇〇カラットの原石。

 雨宮親子は担当者と何度もビデオ通話で話し合い、プロになることで得られる利益と潜在的不利益について細大漏らさず説明を受けたあと、招かれたレストランで契約書にサインする。

 ダイアの原石とはいえ、提示された年俸はそこらの社会人一年生と同程度。MLBやNFLのドラフト一位指名選手には遠く及ばない。しかし所属チームが好成績を収めれば契約更新時に年俸はアップするし、賞金がざくざく入るし、チームまたは個人にスポンサーが付くことで余禄もある。

 大多数のスポーツ選手と同じく、この余禄が一番大きい。

 ゲームの世界でもトッププロは余禄だけで軽く九桁を稼ぐ。

 お金は問題じゃない、とアキラは思う。ぼくはただ脳汁が出るようなプレイをしたいだけだ。

 今後は脳汁プレイの機会がいくらでも訪れることに鼻血が出そうなほどワクワクする。世界の天辺にいるような気分になる。

 雨宮アキラは自分が幸運の星に愛されていると信じて疑わない。

 理解のある両親に恵まれ、可愛いくもないこともない妹がいて、本人は本人でおつむの出来が良く、やる気にさえなればスポーツも難なくこなし、さらには一〇代半ばにして(それも好きなことで)職業人のスタートラインにいざ立たん、ときたら、誰だって幸運の星が自分に微笑みかけていると信じて疑わないだろう。

 プロのFPSプレイヤー――夢みたいだ。

 近況を報告し合ったとき、〈バンザイアタック〉のメンバーも口々に言う――夢みたいだ。

 これから夢の時間が始まろうとしている。

 ぼくたちは夢を生きるのだ。


 と、ここまでが高校一年時のゴールデンウィークの話。

 悲しいかな、本人のあずかり知らぬところで幸運の星が雲に隠れ、その雲間から凶星が顔を出す。







1話と2話の英会話部分の和訳です。

  対訳: 我が家の愛犬クージョ

  犬種: セントバーナード(♂)

  年齢: 4歳

  ステータス異常: 狂犬病


Emplace claymores and set up a three-sixty.

We are f***ing surrounded, goddamnit.

高地スコットランド人の両刃の大剣を設置して三、六十を樹立するのだ

ポクらはめちゃクソ囲まれているのである、こんちくしょうである


No, no. we've got'em right where we want'em:

surrounded from the inside.

いいえ、違います。私達はちょうどそうしたい場所に

エムを置きました。内側から包囲しました。


Realistically, there's no way of pulling it off.

Outgunned, outnumbered, and outwitted.

It’s only a matter of time before we are overrun.

現実的には、それを道路脇に寄せる方法がありません。

火力で負け、数で負け、知恵で負けました。

走り越されるのは時間の問題です。


Fifty Cal, right front. Fower Ze-ro Ze-ro meters.

Top floor, parking garage. I'm pinned!

Anybody relieve the pressure?!

50個のカレンダー、右前方。フォワーゼロゼロメートル。

最上階、立体駐車場。ポクは刺されたのである。

圧力を軽くできる人おるか?


No sweat. I spot the prinker.

Keep your head down, Wes.

汗なし。プリンカーをスポットしました。

ウェス、頭を下げてろワン。


Imagine, Mr. rousy gunner,

The closs hairs on your

heeeeaaaad…huuUUUuuuuu

想像してごらん、ヘタクソ射手さん

十字線があなたの

頭ぁぁぁぁぁぁ……ふうぅぅうううぅぅぅぅ


Rove and peace!

漂流と平和!


Wye-Ess-Emmmmma. I owe you one, dude.

ワイ、エス、エン~~マ。借りができたのだ、デュデ。


Uh-oh! We've got another unit from north.

I see Wun Ze-ro plus...correction Too Ze-ro plus

enemy combatants and Wun armored vehicle.

アイヤー!北から別の部隊アルよ。

数は十以上の……修正、二十以上の戦闘員と装甲車両ネ


Can you ID 'em?

エムを身元確認する、可能であるか?


Hold on a sec...it seems amaterurs and...ooh la la,

here comes the Duke of Nuke, baby.

少し待つよろし……アマチュアくさいのと……アイヤー、原子力発電所の侯爵がお出ましアルよ、赤ちゃん。


You've gotta be s***ing me.

きみはポクにウンチしているに違いないのである。


There's like, no s***, a huge V sign on their vehicle.

ウンチしてないヨ、ほんとヨ、彼らの車両にでっかい勝利サインあるよろし。


Oh, f#$% me!

ああ、ポクを強姦してくれなのだ!


It'll happen soon, Wes.

They're gonna carve your ass LEAL bad.

ウェス、すぐそうなるワン。

彼らはあなたのおケツをめちゃくちゃに彫刻するでしょう。


Keep a cvil tongue in your head, young sirs.

Kids are watching.

礼儀正し言葉遣いを頭の中に入れ続けなさい、お若い紳士たち。子供たちが見ていますよ。


Things have really hit the fan.

At least our diversionary role is working well though.

物体が本当に扇風機に当たりました。

少なくとも私達の陽動の役割は上手く経営していますが。


And we're toast.

That's it, guys.

Howsabout performing a kamikaze act?

Like World War Ⅱ wacky Nips.

Oops, no offence, Akira.

そしてわたしたちは焼いた食パンです。

おしまいです、みんな。

カミカゼ行動をやらかすハウザバウト?

第二次大戦のイカレ日本兵どもみたく。

おっと、口撃なしです、アキラさん。


None taken, Senor Falangist.

何も取っていません、ファランへ党員さん。


VERY FUNNY.

とても愉快です。


What's Falangist?

ファランへ党員とは何ですか?


Well, sort of the old guard.

えーと、一種の極端な保守派です。


Well, Spanish Nazi f#$%s led by the“Rast surviving

fascist dictator.”

えーと、ラスイチ生存の独裁扇動者が率いるスペインのくそナチどもです。


¡por Dios! According to My grandpa,

El Caudillo and his party weren't THAT bad.

なんてことを!じっちゃんに一致して、

隊長とパーティーはそこまで悪くなかったそうですよ。


By the way, that Japanease war cry,

what d'you call it, err...

ところで、あの日本の鬨の声、

なんと呼ぶか、あー……


You mean, 天皇陛下あぁ、ばんざあああああい!!!

あなたが言いたいのは、天皇陛下万歳!


sí, that banzai thing.

What does it mean?

ええ、その万歳のやつ。

どういう、グルルル…ヴゥゥー、意味ですか?


Ritelarry tlansrate as‘may you rive ten thousand years, Your Majesty.’

逐語敵に訳すと“陛下が一万年生きられますように”


Nice. Sounds a bit fanatical, though, it's nice.

素敵ですね。少しイカれた感じですが、良いです。


Akira, have any six-five mag or pistol mag?

アキラ、六、五雑誌かピストル雑誌はないアルか?


None left!

I'm shooting a captured Ef-Ay-El.

Go get you a usable weapon.

There are tons of dead enemy alound, you know.

去ってません!

わたしはキャプチャーしたFALで撮影しています。

行って使える武器をゲッチュー

死んだ敵はワン! ワン! 山程いますワン。


It'd be so nice to run directly into this bullet storm.

Wish me luck.

銃弾の嵐に突っ込むのは楽しそうアルよ。

幸運を祈ててネ。


I'll get you covered.

OK, go! Run, Forrest! Run!

援護します。

よし、行くワン! 走って、フォレスト! 走るのよ!


Almost black on ammo!

ほとんど弾薬に黒が付きました!


Ran out of 40 Mike Mike.

四十人のマイクとマイクがなくなりました。


Jeez, patch me up. I'm gonna bleed out.

お馬しゃんたち、でっち上げてください。放血が出てしまいます。


I can see red smoke rising.

Bloody hell, too many activities on the ground. 

Where exactly are ya?

わたしは昇る赤い煙を見ることができます。

血塗れの地獄、多すぎる地上の活動。

ヤはどこにいますか?


In crater near smoke!

Gun run, gun run, gun run!

煙の近くのクレーター内!

銃走る、銃走る、銃走る!


Sons of b****es are encircling us not farther away than hand grenade range and the perimeter is just about to collapse. Danger close is nowhere near enough to sort out our problem. DUMP ALL YOU'VE GOT RIGHT ON TOP OF US. SHOOT EVERYWHERE.

淫売の御子息たちは手榴弾の距離より近くからポクらを取り囲んでおり、周辺の長さは今にも崩壊しそうなのである。危険終止形はポクらの問題を解決しないのだ。きみが持っているものをポクらの真上にドサッと捨ててくださいなのだ!あたり一面撮影しまくるのである!


Wilco. Stay close to the ground, boys.

承諾。地面の近くにいるんですよ、男の子たち。


Let's goooo!

アゥゥゥゥ……ワン! ワン!


It was a miracle. Haaaaallelujah.

奇跡だったのである。ヤハウェの神を讃えぇぇぇよ。



※誤訳などございましたら、対訳責任犬のクージョ(犬種: セントバーナード(♂)年齢: 4歳ステータス異常: 狂犬病)のほうへご連絡ください。

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