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【チーム〈バンザイアタック〉】




 雨宮アキラはプロスポーツ選手になりたいとも、なれるとも思ったことはない。

 けれども、弱冠一六歳でプロになる。

 きっかけは、リアル系FPSの新たなマイルストーンとの呼び名高い『SNAFU』(『WWⅢ:Situation Normal―All F#$%ed Up』)を手掛けたスローバーン社が、月一でオンライン対戦のお祭りを催しては、その模様を公式ホームページと動画サイトで生放送しだしたこと。

 出ようぜ、と言いだしたのはウェスだ。ウェスは日系アメリカ人六世だか七世だかの八年生で、チーム〈バンザイアタック〉の発起人。チーム名に関して、本人におふざけの意図は微塵もない。遺伝子上の故郷である日本国への敬意の念を込めた、とのことだが、一部の日本人プレーヤーからは〝祖国防衛に散った英霊を貶めるくそガイジンどもの首班〟と評判が悪く、ことあるごとに叩かれている。

 ともあれ、〈バンザイアタック〉の大会初出場は不本意な結果に終わる。メンバーの大半がばらばらのタイムゾーンに住んでいるものだから、大会の日時を勘違いする者が続出し、ひとチーム一〇名の枠に四名で出場する羽目になって初戦敗退。

 フルメンバーで挑んだ二度めの出場では予選二位と健闘して、三度めでは本戦に出場する。

 もともと高ランク帯のプレイヤーが名を連ねているチームだけに、注目度が一気に上がる。プレイ中にやたらと無駄口が多い点も視聴者に受けている。別に狙ってやっているわけではなく、〝気負わず普段どおりにプレイしよう、実力を出し切ろう〟と決めただけの話。

 普段から〈バンザイアタック〉の面々はのべつ幕なしに喋る。

 とある試合では各メンバーが故郷の伝統的なお菓子をアピールしていき、どれが美味そうでマズそうか決を取った。別の試合では数学で赤点を取りそうなウェスのために、皆が口頭で二次関数の対策と傾向を教授した。直近の試合では一人が突然なんの脈絡もなく〈ブリスター・イン・ザ・サン〉を熱唱しだしたのをきっかけに、古いポップソングのアカペラカラオケ大会になった。アキラは受験生時代の父親が心の支えにしていたという曲、〈セマイチャームド・ライフ〉を歌った。うろ覚えだったせいで〝リリックがぜんぜん違え〟〝にゃーにゃー言って誤魔化すな〟と突っ込まれまくったが。

 そうこうするうちに栄誉が訪れる。

『SNAFU』がFPS欧州チャンピオンシップ指定タイトルに選ばれたことを祝う、スローバーン社主催プロアマ共闘イベントへの招待だ。

 くだんのイベントは最大四万ヘクタールに及ぶ五〇〇名対五〇〇名のチーム戦マップにて開催され、招聘されたプロチーム二〇組とアマチーム八〇組が均等に振り分けられる。

 上位入賞を狙うには、綿密な作戦行動計画と打ち合わせでもって、玉石混交の味方陣営の勝利に貢献しつつキル数を稼がなければならない。勝敗を決すまでに六時間はかかる長丁場だ。

 そして開始からたったの一〇分で――

「Emplace claymores and set up a three-sixty. We are f#$%ing surrounded, goddamnit.」チームリーダーのウェスが口汚くぼやく。普段は滅多に四文字言葉を使わないが、興奮すると語気が荒くなる。そしてプレイ中のウェスはたいてい興奮している。

「‘No, no. we've got 'em right where we want 'em:surrounded from the inside.’」ウェスの幼馴染のルイスがすかさず伝説的なせりふをもじって茶化す。

「Realistically,」とボンベイ在住ののらくら大学生シン。「there's no way of pulling it off. Outgunned, outnumbered, and outwited. It's only a matter of time before we are overrun.」

 実際問題、〈バンザイアタック〉は壊滅の危機にある。ヘリボーンで陽動作戦区域に乗り込む途中で二名が負傷してとんぼ返りし、到着後に二名がキルされ、生き残りの六名はモスクワ近郊の砲弾穴になんとか逃げ込み、数と火力で勝る敵陣営(おそらく数十人)の猛攻にさらされている。

 四方八方から小銃と機関銃の銃弾が飛んでくる上、40ミリ榴弾とRPGもバカスカ撃ち込まれている。

 辛うじての拮抗状態は、砲弾穴が防御に適しているのと、各個にスタンドプレーに走っている包囲側の連携がなっていないおかげ。

「Fifty Cal, right front.」とウェス。「About Fower Ze-ro Ze-ro meters. Top floor, parking garage. I'm pinned! Anybody relieve the pressure?!」

「No sweat. I spot the pringker.」とアキラ。ややカタカナ英語の上、LとRの発音がごっちゃだが、いくら指摘されてもなかなか直らない。「Keep your head down, Wes.」

 ここしばらく、アキラのプライマリウエポンは65クリード仕様のリーパーMKⅡ。光学照準器は1‐10可変倍率のレイザーHD。レチクルは〝クリスマスツリー〟スタイル。近・中距離の複数標的を手早く狙撃するためのセットアップだ。

 キーボードを叩いて気象計の表示を出す。現在地の標高・気温・湿度・気圧のいずれも、マップに入る前にリーパーの零点規正を行った〝射撃場〟の環境設定とそう変わらない。測距計の赤外線レーザーを機関銃のすぐ下の外壁に照射――四二三メートル。十字線を機関銃手に据えて射角余弦表示器を確認――九八。この射距離におけるこの射角なら、弾道/着弾落差への影響は微々たるもの。ほんの心持ち低めを狙うだけでいい。そしてツイていることに、たまさかの無風。

 丸暗記しているお手製DOPEブックを基にアキラは十字線を二・四ミル上にホールドし、ボイスチャットをオープン回線にする。近場の敵プレイヤーにも聞こえるように。

 そして、おもむろに歌いだす。

〈イマジン〉のブリッジ部分の替え歌を調子っぱずれに。


  Imagine, Mr. rousy gunner,

  The closs hairs on your

  heeeeaaaad...huuUUUUuuuuuu


 実際に照準を合わせているのは機関銃手の胸だ。

 マウスを左クリック。

 〇・五秒後に着弾の埃が舞い、重機関銃の背後で射手がすとんと崩れ落ちる。

 急所に命中したらしく、ほとんど間を置かずに画面隅の戦闘ログにキル表示。

「Rove and peace!」


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第50話よりガンアクションが始まります。それまでは異世界サバイバルと、どん底からの這い上がりを描く前日譚です。

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