アイミの想い
希ちゃんを追いかけ陸は姿を消す。
こうして失意の海とアイミの二人が約束の場所に取り残される。
「なあアイミ。どうしてお前がいるんだ? 」
なぜか優しく包み込もうとする。苦しいほどの愛を感じる。
でも俺にはやっぱりミライしかいなくて…… 受け入れるのは困難。
「あなたを助けに戻って来たんでしょう。ほら落ち着いて」
怖い。怖いくらいのアイミの優しさ。いつものように我がままであったら。
まるで希ちゃんのよう。でもアイミなんだよな? お前本当にアイミか?
自称ソフトストーカーと行くとこ行くとこ追いかけ回した頃の彼女が懐かしい。
今ではもう立派な相談役。俺を励ましてくれるし元気づけてもくれる。
でもそれでも俺はミライが忘れられない。だからアイミの愛に応えてやれない。
ようやく落ち着いてきたがそれも気休め。すぐに後悔の念に駆れる。
すべてはミライの為にと切り捨てた。大切な仲間を切り捨てた。
本人には言ってないがそれだって裏切った事実は変わらない。
「済まないアイミ。正直に言うと俺はお前たちを捨てた。
ミライに会うためにすべてを捨てたんだ!
もはやお前に合わせる顔なんてない! 見捨ててくれアイミ!
俺にはミライしか見えないんだ」
せっかく迎えに来てくれたのに俺は大人になれずにアイミを傷つけてしまう。
それがどれほど罪深いかもう俺には分からない。
大体顔など見れはやしない。恥ずかしくて情けなくて。
でも本当はミライと別れたショックから。
「ミライ! ミライ! ミライ! 」
隠し通せる訳もなくただミライの名を叫ぶ。
叫び続ける。決して見えないミライを叫び続ける。
その愚かしさに気づいていながらそれでもなおミライに縋る。
ようやくミモリの気持ちが理解できた。
リンネとミモリも俺とまったく同じ状況。
リンネもまたミライのように伝説のように散るのを拒んだ。
そうだな。俺ができることはずっと待ち続けること。
毎日通おう。そしていつかミライが姿を見せるまで通い続けよう。
それが永遠の愛を誓い合ったケジメって奴だろう。
ああ苦しいよミライ。どこまで待ち続けるのか?
「へへへ…… ミライ! ミライ!
もう己を保ってる状況にない。ただ生きた屍のように。
それでもアイミはずっと静かに見守ってくれる。
どうしてここまでしても見放そうとしない。もう愛想が尽きていい頃だろう?
なあアイミ! 俺は辛いんだよ! どうしようもないんだよ! 言えたら……
そんなこと言えない。言ってはアイミを傷つけることになる。
「なあアイミ。もういいんだ。俺はもういい。放っておいてくれないか」
それでも無言で寄り添うアイミ。俺に好きなように話させる。
それで気分が晴れるなら俺もありがたくすべてをさらけ出そうと思う。
「聞いてるのかアイミ? アイミってば? 」
何も語ろうとしない。それどころか頷きもしないんだからどこかおかしい。
ご主人様に忠義を示しているかのように静かだし寄り添ってくれている。
アイミはそんな優しい人間じゃないだろう?
もっと騒がしくて陸と一緒にトラブルを引き起こす困った子だったはず。
それが今は大人しい。人が変わったかのように優しく慈悲深い。
もし初めて会ってこれだったらコロッと騙されだろうな。
肩を抱いて起き上がらせようとするアイミ。
しかし我がままを通してその場に倒れ込んでしまう。
何て奴なんだろう? どうしようもないな俺。でもそれが人間と言うもの。
あああ…… さすがにこれはいくらなんでも酷い。罪悪感に苛まれる。
「ごめん。俺が間違っていたよ。だから反応してくれないか」
こうしてアイミの力を借りて復活する。
でもまだ精神的には不安定でいつどうなるか分からない。
失ったものがあまりにも大き過ぎる。
立ち直れて三日。遅ければ一週間はかかるだろう。完全復活にはもっと要する。
いやミライを失った今完全復活などあり得るのか?
それでも仲間の助けを借りて立ち上がろうとするも足元がおぼつかない。
情けなくて申し訳なくて仕方がない。
それでもアイミは優しく包み込んでくれる。
「ねえキスしようか」
ついに言葉を発したと思ったらおかしなことを。
そんな訳に行かないのは百も承知だと言うのにそれでも求める。
求められて悪い気はしない。
「どうしたんだよアイミ? 俺よりもお前の方が心配になるレベルだぜ」
「だから気まぐれ」
そんな言葉を使うだなんて成長したな。俺よりもバカだったはず。
「いいのか? そんなこと言って? 」
「うん。海と幸せになりたいの! 」
アイミは従順だ。あまりにも大人しく優しい理想像を描くものだから調子が狂う。
まずは手をと肩を借りて起こされると手を繋ぐ。
恥ずかしそうに俯くアイミ。どれだけ神々しいか?
本当に百八十度変わっている感がある。
まるで希ちゃんのようにすべてを包み込んでくれる。
そんな力強さも兼ね備えている。
キスはできないが抱きしめてやることならできる。
感謝の気持ちを込めて強く抱きしめる。
「ありがとうアイミ。だけど本当にどうしたんだよ? 」
「海…… 」
「ははは…… アイミはまったくもう」
「海もでしょう。ふふふ…… 」
一緒になって笑ってくれた。彼女の変わりようと言ったらない。
「私たちは互いに愛し合ってる。だから海もいい加減素直になろうよ」
とんでもないことを言いだしたぞ。早いところ何とかしないと。
相変わらず勝手な妄想に囚われている。勘違いも甚だしいがこれがアイミだ。
ミライがいなければ実際そうなっていたかもしれないな。
そして今ミライを永遠に失った。だとすれば……
「落ち着けってアイミ! 俺はどっちでもいい」
「もう素直じゃないんだから海は。ほら何も感じない?
一緒に手を繋いでるんだよ? キスだって」
ううう…… アイミに悪気がないのはよく分かる。
でもそれはミライとの決定的な違い。それは今心の傷となっている。
アイミの言おうとしてることは分かるがどれだけ辛いかも分かって欲しい。
ミライとでは一生手を繋げないしキスだって無理。
そもそも話すこともできない。
そんな当たり前のことができない。それは初めから。
そもそも棲む世界が違うのだから。
強烈な体験をして今がある。
「凄く嬉しい。お前の優しさを実感したよ。でもお前も元気ないよな」
「海と一緒なら何でもできる! してあげられる! だから私を選んで! 」
真剣な表情を浮かべる。まさか俺たちは結ばれるのか?
それはそれでいいのかもしれないな。
吹っ切れはしないだろうが気分が紛れるのでちょうどいい。
アイミは真剣そのもの。
俺だって…… 気持ちが揺れ動いている。
最終回前編に続く




