第86話 獰猛な光明②(アルチェSide)
「え、ベント君!?」
音と声はアルチェが首に着けている金のネックレスから聞こえている。
「助けに来たんですが、エルフの里ってエルフ以外は入ってはいけない掟があるんですよね?」
里外にいるベントが間に合うのかわからないが、いまは彼こそが唯一の希望だった。
アルチェは泣いた。
涙で涙を上書きして、嗚咽混じりに叫んだ。
「掟なんてどうでもいい! 里はどうでもいいけど、家族と友達は大切なの。だからベント君、エルフの里を守って!」
「いいんですね?」
「いい! たとえ反逆者になったとしても、あたしが許す!」
残された力を全部込めた叫びに、凶獣たちはいっせいにアルチェの方を向いた。
凶獣たちがついに走りだした。
そのとき、それは轟いた。
「ガオオオオオオオオオオオンッ!」
凶獣たちがいっせいに動きを止めた
苛烈な咆哮を放った者を警戒しているのか、バラバラに進行方向を変えて歩きだした。
そして、それはやってきた。
木と木の間から飛び出してエルフの里に入ってきたのは、四足歩行の巨大な獣。
黄色い体に黒い縦縞が入っており、太く鋭い牙、太くたくましい足、細く長い尻尾を持っている。
凶獣ティゲルと似ているが、サイズはふた回りほど大きい。
「ベント君、なの……?」
巨大な獣は一直線に凶獣ティゲルに向かい、素早い動きで噛みついた。
いや、噛み潰した。
即死した凶獣ティゲルを横に放り、さらに前進する。
鼻先に1本、ひたいに2本の超硬大角を備えた凶獣リノセロが全速力で突進する。
対する巨大な獣は前足を上げ、そして真っ向から振り下ろした。
凶獣リノセロは頭から全身を叩き潰された。
角の有無など関係ない。
体重も皮膚の硬さも関係ない。
地面が抉れ、ペシャンコになった。
「ガァアアアアッ!」
2頭目の凶獣ティゲルが巨大な獣の尻尾に噛みついた。
すると尻尾がオレンジ色に光り、スパンと邪魔者の頭を切断した。
そのまま走って、近くにいた凶獣リノセロの胴体もバッサリと斬って二枚におろしてしまう。
「グゴガッ――」
立ち上がって威嚇する凶獣ベアルに突っ込んでいき、そのまま轢いた。
巨大な獣は見た目以上にとてつもない体重を有しているのか、大型の凶獣がことごとくペシャンコになっていく。
尻尾のレーザーブレードで斬れないものはないし、アゴの力も噛んだものをゼリーのように潰してしまう。
今度は凶獣コンダが飛びついて体に巻きついた。
巨大な獣はそれを意に返さず走り続ける。
凶獣コンダは巨大な獣の関節部で前足と胴体に挟まれて千切れ飛んだ。
さすがに凶獣たちも敵わないと悟ったか、バラバラに逃げはじめた。
「ガオオオオンッ!」
巨大な獣が咆哮をあげた。
凶獣たちは怯んだ。
それも一瞬ではない。硬直している。
足がすくんで動けなくなっている。
巨大な獣は里内を俊敏に走り回った。
オレンジ色の眼光が残光となって2本の軌跡を描いていく。
そして、凶獣ドギーも凶獣コンダも凶獣ベアルも凶獣リノセロも、残っている凶獣をすべて轢き潰してしまった。
巨大な獣は最後にアルチェの前で止まった。
アルチェはひたいに汗をにじませた。
巨大な獣の顔の部分にベントが入っているのだろうと思って観察するが、どう見ても人が入れる大きさではない。
――ウィーン。
その駆動音はうしろの方から聞こえてきた。
そちらに視線をやると、巨大な獣の腹から階段状のタラップが降りてきて、そこからベントが出てきた。
「お待たせしました、アルチェさん。無事のようでよかったです」
「ベント君のバカ! 遅いよ!」
アルチェは安堵の涙をまき散らしながら、眼前にいる白衣の男に思いっきり抱きついた。




