第120話 情報屋の秘密②
「失踪……ですか? リゼさんみたいに突然消えたということですか?」
ベントが難しい顔をしながら問うと、ホーリスは首を横に振った。
「いや。リベールはギルドホームを寝食の拠点にしていたけれど、リベールの荷物もなくなっていたから、おそらく自分から出ていったのだろうと言われていたよ。それに、失踪したのもボクがプログレスに移籍してすぐらしいから、時期的にも同じトラブルではないと思う」
「もしかして、そのリベールがリゼちゃんをさらった犯人なんじゃ……?」
アルチェが両手をテーブルに打ちつけて立ち上がった。
だが、フォルマンが彼女の肩に手をかけて座らせた。
入れ替わりに彼自身が立ち上がる。
「それはおそらく関係ない」
ついにフォルマンの番が回ってきた。情報屋として期待がかかる。
ベントとしては彼の報告を最初に聞きたかったが、本人の希望で最後になった。
「そうなのか。それじゃあ、何かつかんだということか?」
グイルをはじめ、全員の視線がフォルマンに集まる。
その表情は固い。
集まる視線も自然と不安に満ちたものになる。
「リゼはシクレシーの勇士に誘拐された可能性が高い」
「ええっ!?」
アルチェがガバッと立ち上がった。
ほかは誰も動いていないが、顔だけは彼女と同じで瞠目している。
「どうしてシクレシーの仕業だとわかるんですか?」
そのクレムの疑問はベントもいだいていた。おそらくみんな同じだろう。
視線が刺さるなか、フォルマンは目を閉じ、わずかに口元を震わせてからその言葉を発した。
「それは……俺がシクレシーの勇士でもあるからだ」
フォルマンは目を開かない。
みんな固まっている。みんな弛緩したように口を開いている。
ベントだけが口を引き結んでいた。
少しの沈黙が流れてから、ベントはその口を開いた。
「フォルマンさんは『可能性が高い』とおっしゃいましたが、それはつまり、リゼさんの誘拐に加担していないし、知らされてもいないということですよね? なぜわかったのですか?」
フォルマンは固く閉ざしていた目をゆっくり開き、黄色い瞳で自分に集まる視線を順にたどった。
そして、最後に斜め向かいに座るベントと目を合わせた。
「それを説明するにはシクレシーの秘密をしゃべらなければならん。だが、シクレシーの勇士には守秘義務があって、俺からは自発的にしゃべれない。だから……」
フォルマンは両手をテーブルにつき、ベントに向かって頭を下げた。
「俺にバカ正直ショックを使ってくれ。それで無理やり情報を吐かさせてくれ!」
「わかりました」
「即答!?」
アルチェが展開の早さに驚いている。
ベントが半ば被せるように答えたので無理もない。
ベントは立ち上がり、白衣の左ポケットから黒い箱状の道具を取り出した。
「あ、持ってたんだ……」
クレムがボソッとつぶやくが、ベントは気に留めなかった。
端から伸びた2本の銀棒を、フォルマンの胸の辺りに押し当てた。革のベスト越しに。
「はい、使いました。知っていることを話してください」
しかしベントは明らかにスイッチを押していなかった。
「ベント殿、俺に気を遣っているのか? 構わないからやってくれ。ベストが邪魔なら脱ぐ」
「でも『あががが』ってなりますよ。私はフォルマンさんの無様な姿は見たくありません」
ベントはそう言ったが、それは建前だった。
フォルマンは重大な隠し事をしていたが、仲間のためにそれを告白してくれた。
いまの時点では、ベントにとって彼が真に信頼できる仲間たりえるかは五分五分だった。
ここでバカショックなしですべてを話すか話さないかの選択は、すなわちプログレスを選ぶかシクレシーを選ぶかの選択にほかならない。
「いや、しかし……シクレシーの守秘義務は重いものだ。単なる一ギルドの掟には収まらない。これに関しても、これ以上は……」
ベントは感傷的になっているわけではない。
ここでプログレスを選んでもらわなければ、シエンス共和国との戦争における作戦を一部見直さなければならなくなるのだ。
完璧に信頼できる仲間にしか、アレは託せない。
「フォルマンさん、バカショックを使っても使わなくても、あなたが秘密をしゃべって我々がそれを知るという結果は変わりませんよ。それに、あなたは自分がシクレシーの勇士だと教えてくれたじゃないですか。その時点で守秘義務は破っていますよね?」
もしこれでダメならあきらめてスイッチを押そうと決め、ベントはフォルマンの答えを待った。
フォルマンはたっぷりと迷った末に、テーブルの上から身を引いて椅子に腰を下ろした。
「わかった。すべて話そう」




