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第十一話 五日目 ボス戦開始

 西部


「魔物の強さが、奥に行けば行く程強くなってきたなぁ」


「あぁ。確かにな」


 俺とカズは、二人で一体ずつ魔物を相手にしている。魔族軍の残り勢力が半分を切ったあたりから魔物の強さが跳ね上がってきたからだ。


(当然と言えば当然か……)


 俺は、敵を横方向に斬りながら心の中で静かに呟く。俺は馴れつつあった。魔物を倒すことに。

 次の瞬間俺は、土がいつもよりも数センチ深く沈むことに気がついた。


(耕されている?)


 そう思った時だった。カズが魔族軍の方向を指差しながら叫んだのは。


「おい! 向こうから蔓みたいなうようよしたものが、こっちに来るぞ!」


 俺は、カズが指差す方向を見る。本当に蔓みたいなものがこちらに向かってきていた。ご丁寧に味方は避けながら。気持ち悪い。

 西部を担当するブライフさんが炎魔法で対象してくれているが、それでも数は減らない。魔物も同時に対処しているから、正直彼女は手一杯だ。俺達もだがな。


「くっそぉ、なんだこの蔓は! 単体だけでも厄介そうなのにプラスで魔物がいやがる!」


 俺は吐き捨てるように言った。きつい。他のところの様子も気になるが、見ることすら叶わない。


「他のところはどうなってんだぁ?」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 東部


「くそ、なんなんだこの蔓は! 鬱陶しい」


 松末は、斬っても斬っても現れる蔓と魔物どもに嫌気がさしてきていた。


「こら松末! 文句を言わないの!」


 谷原が、彼を背後から叱る。


「う、すまん……」


 松末は、僅かな隙間をぬって謝る。その時、白河が補助魔法を展開してきた。


「喧嘩は後! 今は戦う!」


「「わ、わかった」」


 白河は、東部で戦う四人のリーダー的存在だ。はっきり言ってしまうと、東部を担当しているフレキシルよりも頼りになる。こんなこと絶対に本人の前では言えない。

 その時、松末の左にいる千川原が、俺達に渇を入れるように大声を出しながら攻撃していた。


「食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ!!!」


 縦横無尽に敵を斬るその様は、まさに自由人。子供がこんな光景を見たら、きっと泣いて喚くだろう。


「いいぞぉ千川原! その調子……痛!」


 松末が千川原に声をかけた時だった。一瞬、(すね)を中心に激痛が走ったのだ。しかし、本当に一瞬であった。一呼吸した後は、何事もなかったかのように痛みが治まっていたのだ。周りを見てみると、三人とも押さえる部位は違うが、同じ反応をしている。


「なになに?」


「今一瞬激痛が……」


「誰だ!」


 彼は妙に思った。そうやって痛いと感じた者が、彼ら四人しかいなかったからだ。他の騎士達は変わらず魔物と戦っている。


「なんだったんだ……ん?」


 松末が顔を上に上げた時だ。なんと、あのヌメヌメした蔓が、東部と西部にそれぞれ数本残すと、残りは全て中央部に集結していく。これには全員が驚いた。それと同時に危険を感じた。


 あの蔓は一体……


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 中央部


「な、なにあれ……」


 その場にいるもの全てが固まった。


 突然、戦場に一輪の薔薇が咲いたのだ。それはどんどん成長していき、大岩程の大きさとなる。かと思ったら、今度は周囲から蔓のようなものが集まって人形(ひとがた)を形成した。


「フフフ……さぁ、血池に花を咲かせましょう」


 そのものは、女性の形をしているが、足がない。その代わりに蔓のようなものが木の根っこのように地面に張り巡らされる。これによって体を支えているようだ。


「貴様、何者だ!」


 硬直状態を打ち破るように、マイ王女が女性を威嚇する。


「初めまして。私の名前はダークフラワー。四強の一人ですわ」


 ダークフラワーは、計算し尽くされた笑顔を作り、着ているドレスを持ち上げながら答える。


「あら、お行儀がいいこと。4強というのはなんですの?」


 マイ王女は、剣に手を置いたまま問う。


「四強は、私を含めた四人からなるこの魔族軍のトップですわ。まあ、気に入らないのが一人いますが……」


 ダークフラワーは、溜め息をつきながら答える。


「なるほど。大体のことはわかりましたわ。では、なぜそんな地位についている方が、戦場(ここ)にいますの?」


 マイ王女は、腰を深く落としてから聞く。


「あら。そんなこと、決まりきっているでしょう。あなた方をこの世からお掃除するためですわ」


 彼女は、とてつもなくどす黒い笑顔でそう言う。その表情に、自然と皆の体が強ばる。西部方面から爆発音がした。


「はぁぁぁぁ!!!」


「フフフ」


 マイ王女が一気に距離を詰める。ダークフラワーは不適に嗤う。


「縦軸炭蛇砲!!!」


 マイ王女が、一極集中の炭蛇砲を放つ。


茎集壁(けいしゅうへき)


 それをダークフラワーは、数十本の蔓のようなものを複雑に絡めて防ぐ。マイ王女は、勢いの反動を使って、元の位置に戻ってきた。


「マイ王女、大丈夫ですか?」


 茜音が、マイ王女の傍に駆け寄る。中央部担当のスタバール、ラバイズ、レプュラは、周囲に魔物が入ってこないように食い止めている。


「えぇ大丈夫よ。それよりも、今の攻撃で二つ程わかったことがある」


 マイ王女は、息一つ切らさずに立ち上がると、そう言った。


「わかったこと……とは?」


 茜音の近くにいた佳純が、低い声で聞く。


「一つ目は、あの触手の正体。あれは、蔓ではなく茎よ。等間隔に棘があったからおそらく薔薇の一種でしょうね。

 二つ目は、あいつの防御手段。あいつは私の攻撃を茎で受け止めたのでなく、地面に受け流したのよ。避雷針のようにね」


 佳純は二つ目を聞いた瞬間、顔が青ざめた。その後に佳純が発した言葉に、茜音の心が折れかける。


「え……そ、それが本当なら倒すのは不可能なんじゃ……受け流すということはつまり、受け流し先の茎を全て斬らないと本体に攻撃が届かないということだから……」


「残念ながらそうなるわね……」


 マイ王女は、ゆっくりと答える。茜音は、なにも言うことができなかった。


「諦めるのはまだ早いわ。なにか打開策が必ずあるはずよ」


 そんな二人を見たマイ王女は、勇気づけるように語りかける。


「は、はい……」


「まだ……始まったばかり」


 二人は、なんとか折れかけた心を元に戻す。


「楽しい談笑は終わったかしら?」


 ダークフラワーは、余裕たっぷりの顔で話しかけてくる。


「ええ。楽しく明日の晩御飯のことを話していたわ」


 そんな彼女に対して、マイ王女も嗤いながら返答する。


「これは奇遇ですねぇ。私もちょうど明日の晩御飯のことについて考えていましたわ」


 空気が張り詰める。今にも切れそうだ。茜音と佳純は、立ち上がって武器を構える。


 その瞬間、黒い液体がピチャッと落ちる音がした。


「死になさい! 我らに仇なす英雄の血族よ!!」


「あなたが死になさい! 王国に仇なすものよ!!」

最後まで読んでくださりありがとうございます。ブックマークと評価をしていただけると幸いです。作者のモチベーションに繋がります。


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