第9話 ケヴィンとユリィとガスト ※イメージ有り
俺は街を囲う外壁の門までハワードさんごと猪を担ぐ。
剛力を全力で掛けることによって、何とか門の前まで辿り着く事が出来た。
「お、おい、そこのお前! ヒュージボアを担いでるお前だ! 一旦止まれ!」
若い門番の一人が俺を止める。
まぁ、どう見ても怪しいもんな、巨大な猪の魔物を担ぐ狐面の子供は。
「わりぃケヴィン。こいつは命の恩人なんだ。俺の顔に免じて通してくれよ」
ヒュージボアの上からハワードさんが顔を出す。
そうするとケヴィンと呼ばれた門番の一人は、一気に態度が軟化する。
「ハワードさん! こんな時間になっても帰って来なかったんでギルドの皆が心配してましたよ!」
「灰色狩狼の群れと戦闘中にギックリ腰になってしまってな。そこでこのイズナが助けてくれたんだ。イズナは対魔ギルド入会希望だから街に入れてやりたいんだが良いだろう?」
「そういう事なら……分かりました。イズナと言ったな。ハワードさんを助けてくれてありがとうな」
そう言ってケヴィンは俺に頭を下げる。子供の俺に頭を下げるなんて……ハワードさんは随分この人に慕われているな。
「まぁ、偶々だよ。ハワードさんの運が良かっただけだ」
「それでも助けてくれたことには変わらないからな。さぁ街に入ってくれ。ようこそアルストへ」
俺は街の中へ入る。人、人、人と何処を見回しても人がいる。
「人が沢山いる……凄い、これが街なのか……」
「ガッハハ、初めての街は凄いだろう? さて、対魔ギルドの建物だが、場所は街の中央の方だ。このまま街道を進んでくれ」
「うん、分かったよ」
俺はハワードに言われた通り歩いているとやけに周囲からの視線を感じる。
子供が自分の10倍以上の質量を持つヒュージボアを抱えて更に上にハワードさんが乗っかっているからな。さぞかしシュールだろう。
「ハワードさん。あれはなんだ?」
「あれは屋台だ。食い物を売っていて、食べ歩きをするんだ。この街にはうめぇ物がいっぱいあるぞぉ」
「おぉ良いなぁ。あれは?」
「あれは鍛冶屋だな。包丁から大剣まで。武器や防具、金属製品なら大概あそこで買える場所だな」
「へ~」
俺はハワードさんに気になった所を教えて貰いながら歩く。
聞きたい事が一段落した時、ふと思ったことがある。
「なぁタマモ? 何でお前ハワードさんに出会ってから一言も喋らないの?」
小声で気になっていたことをタマモに聞く。
『私を身に付けていて、魂の波長が合うお前以外には声が聞こえん。そこにお前が返事をしたら一人で喋っているように見えるぞ』
「え、マジ?」
『本当だ。後一つ、私の事は他人に喋るな。珍しい魔道具と勘違いされて狙われては叶わんからな』
「わ、分かった」
ハワードさんの前でタマモに話し掛けなくて良かった。
一人で話してるなんて滅茶苦茶痛い奴じゃないか。
「イズナ、ここが対魔ギルドだ。悪いけどヒュージボアと俺を一旦入り口の前で降ろして中にいる若い受付嬢の姉ちゃんを呼んでくれ」
どうやらこの石造りの立派な建物が対魔ギルドのようだ。
入り口の横にヒュージボアとハワードさんを置き、中に入る。
中を覗いてみると、人がガラガラの建物の中に二人だけカウンターに立ってる人がいた。
一人は神経質そうで眼鏡を掛けているエリート風の男。
もう一人は少し気だるげにこちらを向く、母さんより若い女の人だ。
栗毛色の髪を一本の三つ編みにしていて肩から流している。
顔立ちはザ・お姉さんと呼びたくなるような柔和で優しそうである。
この人がハワードさんが言っていた人か。
「あの……」
「はい! 何かしら! ギルド入会希望かしら! 歓迎! 歓迎するわ! ようこそ対魔ギルドアルスト支部へ! 私はユリィ=サディストリよ! 貴方は!?」
「え! イ、イズナです……」
うおっ、なんだこの凄まじくハイテンションのお姉さんは。
俺は勢いに負けてとりあえず名乗る事しか出来なかった。
「イズナちゃんね。良い名前じゃない!」
「おいユリィ。若い女の子が来て嬉しいのは分かったが、まずはこの少女の話を聞け。すまないな、うちの受付嬢が……私の名前はガスト=ティーユだ。このギルドの長をやらせて貰っている。で、君は何の用で対魔ギルドに来たのかね?」
このガストさんと言う人は話が通じそうだな。俺はとりあえずハワードさんの事、入会希望の事、ヒュージボアの事を話す。
三人でギルドの表に出てハワードさんの元へ行った。
「ユリィ、ハワードを治療してやってくれ」
「はーい、了解ですマスター」
「わりぃなユリィちゃん」
「おじさま、もう、年なんですから無理は禁物ですよ」
「ハハ……ちげぇねぇな……」
ガストさんはヒュージボアを見て俺に話し掛けてくる。
「これは本当に君が倒したのかね?」
「あぁ、そう……です」
「運搬も?」
「担いで来た……ました」
ガストさんは少し目を見開くが直ぐに納得してくれたようだ。
「こいつはギルドで買い取るかい?一人で処理は出来なかろう?」
『そうして貰え。お前は金が無いからな』
タマモの意見は至極真っ当だ。
俺は財布に入ってる少しの金しか無いし、物価が分からない俺はこれで何が買えるかも分からないしな。
「頼む……ます」
「あぁ承った」
「で、もう一つ君のギルド入会の件だが……」
「あぁ、そっちもお願いします」
「残念だが認められない」
「え?」
聞き間違いかな? ヒュージボアを倒せる実力があるのに? もしかして信じられていないのか。
「君、12歳未満だろう?1 2歳以上じゃないとギルドは入れないのだよ。私の目は誤魔化せないよ」
ユリィ