第59話 その胸に宿る秘密とはなにか
「それで、アルはどのようにして金を稼ぐつもりなのだ?」
「商売、またはコンサルタントを考えてますが、どちらも資金支援をしていただける方……所謂パトロンが要ると格段に効率が違うのですが……」
イズナさんとの勝負を取り決めた後に別れた僕とウィルさんは適当な食堂で食事を済ませ、宿を探そうと、暗くなり、人通りが少なくなってきた道を歩いていた。
「商売に心得があるのか?」
「えぇ、少し有ります。村やちょっとした街では、そこの元締めの商人がいるのでまともに稼ぐのは難しいですが、王都では加工や転売等の様々な手を使えますからね。特に魔道具ならウィルさんの出番ですよ」
「俺が?」
「世の中には危険な魔道具や偽物が出回っていますからね。魔道具には常に魔力を帯びているので、まずそれを基準に判断して貰いたいと僕は考えています」
「分かった、任せておけ。所でアル、お前が勝ったらイズナに何を――――」
「ちょっと!」
ウィルさんが何かを言いかけた時、近くの路地裏から少女の声がする。
僕達はお互いに視線を合わせると、何かを言うまでもなく声がした方向へと静かに歩みを進める。
状況を探るために僕は建物の角から顔を覗かせて様子を確認する
「アンタ達、この私に体が当たって突き飛ばした癖に謝罪の一つも言わないワケ? それでも本当に大人なの?」
男四人組の前に立ちはだかるイズナさんと同じ位な身長の小さな茶髪の少女。
後ろ姿で顔は確認出来ないが、大きな三角の帽子に全身真っ赤な服と、随分派手な格好をしている。
「あぁん? 嬢ちゃんは俺達に喧嘩を売ってるのか? 今ムシャクシャしてるからどうなっても知らないぜ?」
「あら、喧嘩だなんて野蛮ね。しかもアンタ達、狩人の格好をしてるけど私を知らないなんてモグリね。どうせ低ランクでしょ?」
少女は男達を煽ると、男達は青筋を立てて静まり返る。
「……今日はガキばっかに絡まれるじゃねぇーか。良いぜ、少しお灸を据えてやるよ。おい、オメーら、やるぞ」
「少女相手に多勢に無勢、俺は感心しない」
「な、何だコイツっ!」
何処で拾ったのか、かなり大きく長い角材を肩に掛け、ウィルさんがゆっくりと姿を表した。
筋肉ムキムキの高身長のウィルさんが、自分の身長より長い角材を持ったその姿は、まるで僕の故郷に生息する二足歩行の武器を使う魔物、バーバリアンのようだった。
そんなウィルさんの様子にビックリした男達は蜘蛛の子を散らすように逃げたす。
「に、逃げろ! 殺される!」
「うわぁ! なんで魔物がぁ!」
「二度もやられたら流石にツいてねぇ!」
「怪力はこりごりだ……!」
「威嚇は成功したが……俺に何を言っても傷つかないと思ったら大間違いだ。……む、そこの少女よ、無事か?」
表情は変わっていないが内心は傷付いているのだろう。
ウィルさんはその場で立ち尽くしていた。
僕も建物の角から姿を表し、ウィルさん達に近づいていく。
「バーバリアンかと思ったわ……。ま、別に助けは要らなかったけど、一応感謝するってワケ。あら? 後ろのアンタ、どっかで私と会ったことない?」
少女の顔を見た時、僕は咄嗟にローブのフードを深く被り、顔を見せないようにする。
僕はこの少女を知っている。
常に上から目線のような態度。
勝ち気なつり目にまるで星が瞬いているかのような輝きを秘める深紅の瞳を持ち、彼女の負けん気を表した眉毛は常につり上がっている。
以前会ったときから身長以外は殆ど変わっていない。
でも何故彼女がここに? それは普通あり得ない事だ。
「き、気のせいじゃないですか。初対面ですよ(裏声)」
なんとか誤魔化そうと裏声で話すも、彼女の顔は疑惑の色に染まって行く。
なんと言うか、胡散臭いモノでも見るような目をしている。
「あらそう。なら顔を見てお礼をしたいからフードを取って顔を見せてくれるかしら?」
「いや、僕は月光アレルギーでして……それに僕は何もしてませんから(裏声)」
「今普通に外してたでしょうが。一瞬で良いから取りなさい」
彼女はズンズンと僕の方へと歩いて来て、フードを掴み、引っ張ってくる。
僕もフードを掴み、前側に引っ張る事でフードを取れないように押さえ込む。
「ちょっ、やめっ、止めてください!(裏声)」
「良いから、フードっ、取・り・な・さ・い・よ~!」
ビリビリっ! と音を立てながら破れるフード。
僕の顔は彼女の元へと晒されてしまう。
流石にフードが破けるまでは予想していなかったのか、彼女は顔を真っ青にして慌てる。
そう言うやり過ぎた時に慌てる様は以前と変わり無い。
「あぁ、ご、ごめんなさいっ! って、嘘……アートス、なんでアンタがこんな所に居るのよ……!?」
「アートス? アル、どういう事だ」
僕は観念して彼女、カミア=イシュタールを前で格好を正す。
ウィルさんやイズナさん、ルナリアさん達には言えるはずも無い秘密を抱えた僕の正体を知る人である彼女は目を見開いて僕の事を見ている。
「……お久しぶりですねカミア。でもそのセリフはそっくりそのままお返ししますよ」
※カミア=イシュタール




