第56話 何が彼の琴線に触れたのか ※イメージ有り
「おーい、エールのお代わりを頼む!」
「はい、ただいま!」
ルナが可愛らしい衣装に包み、注文を受けて直ぐ様客を捌いている。
まるでベテランの店員のように動き回り、その美しい容姿は周囲の客を魅力している。
そして俺はと言うと……酒場のカウンターの隅っこでで大人しく座っていた。
時は遡って数時間前。
俺達は狩人の魔物討伐依頼を紹介出来ない代わりに王都の酒場の一つ、【ほろ酔いの精霊亭】と言う店の店員を募集している事を聞いた。
そして早速面接を受けたのだが……
「悪いね、12歳未満は酒場じゃ雇えないんだよ」
「そ、そんなぁ……俺、料理も出来るし力仕事もバリバリ出来るよ?」
「そうは言われても王都の決まりだからなぁ……悪いけど今日はカウンターにでも座ってお姉さんの仕事が終わるまで待っててな。君は明日ギルドに別のお仕事でも紹介して貰うと良い」
「大丈夫だよイズちゃん。私が養ってあげるから!」
「うぅ……めんぼくない……」
俺、絶賛足手まとい中です。
「俺、情けない……」
「こちら、アイスミルクです」
カウンターに座っていると、ロマンスグレーの渋いバーテンダーのおじさまが唐突にアイスミルクを差し出してくれた。
「俺、お金無いから頼んでないよ……?」
「私の奢りです。……大人になればもっと出来る事が増えます。だから今は誰かの庇護下に入ることを恥じないでください」
「……ありがとう」
なるほど、俺の話は面接した人から聞いているのか。
そうは言われても、狩人として働けないだけでこれだからなぁ……
おじさまダンディーでカッコいいわぁ……男として憧れるな……
「それに私は別の大陸出身ですが、成人の年齢も18と、もっと高齢です。貴女はまだ子供なのですから、そんなに落ち込まないで下さい」
「……そっか」
子供か……やっぱり回りから見たらそうなんだよなぁ……前世の記憶がなまじ有るから回りの人より自分が大人のつもりでいても、俺はまだまだ子供なのかなぁ……? 身長も全く成長しないしなぁ……
アイスミルクを飲み終えたグラスを無意識にストローで啜っていると、背後から先程とは違う喧騒が聞こえてくる。
「や、止めてください!」
「ちっとお酌してくれよ姉ちゃんよぉ。それとも俺達みたいなのにはサービスしたくないってかぁ?」
どうやらルナが男四人組の客に絡まれているようだ。
腕を掴み、引き寄せようとしている。
あ、今ルナのお尻を触りやがったな!
俺はカウンターから離れ、男達の方へと早足で歩いていくと、先程のバーテンダーから制止の声が掛かるが、それを無視してルナと男達の間へと割り込む。
男は急な俺の登場に驚いてルナの手を離す。
「ルナ、大丈夫か?」
「い、イズちゃん。ありがとう」
「なんだガキ? 遊んで欲しければもっと胸やケツを大きくしてから来るんだな、これじゃあ小さくて抱きがいが無いぜ。ギャハハ!」
「ア?」
つんっ、と指で胸をつつかれた俺はカチンと来て、思わずその男の腕を取り、捻りあげる。
身体強化はまだ使っていないが、それでも魔力さえあれば俺の腕力は大人並だ。
「いででで!」
「おいおい、飲み過ぎじゃないか? ガキンチョ相手に力負けするなんてよぉ! あぁ!?」
「それともおめぇ本当はそう言うガキが趣味か? ひゃひゃっ!」
「ち、ちげぇ、このガキ、力がぁ! いてぇ!」
まだ仲間の男達は状況を掴めていないようだ。
俺は酒場の壁に貼ってある注意書きを見つけ、それを読み上げる。
「あー、お客様、当店の女の子はお触り禁止となっておりますので、えーと、そうだなぁ。とっとと帰りやがれ……! クソ野郎!」
「なんだとこのガキぃ! やっちまえ!」
「へへ、運動不足にゃあ丁度良いぜ! 全員まとめて掛かってきやがれ!」
男の掴んでいた腕を離し、少し距離を取る。
男達は一斉に俺へと向かって来るが、何かおかしい。
(あれ、いくらなんでも遅くないか?)
スローモーション、とまでは言わないが、スピードが遅く、まるで脅威を感じない。
俺に掴み掛かろうとしていた顔に傷がある一人目の男をラリアットで迎撃すると、その場で首を基点とし、一回転しながら床へと叩きつけられる。
男はピクピクと痙攣していて、どうやら気絶したようだ。
(い!? 俺身体強化まだ掛けてないぞ!?)
普段の力では不可能な芸当をやって見せたので、俺はかなり驚愕する。
『イズナ、お前、力が強くなっていないか?』
魔人ヴィーボラ戦以降、一切戦っていなかったから知らなかったが、俺はどうやら強くなっているようだ。
て、手加減しないと大怪我させかねない。
「こ、この位かな? えいっ」
「ぐわっ!?」
太っちょの二人目の男がこちらに向かってきていたので先程より抑え気味に張り手を繰り出すと面白い位に吹っ飛び、男達が座っていたテーブルを巻き込んで転がる。
今度は力を抑えていたので男は吹っ飛ばされた先で気絶すること無く、目を白黒させていた。
「こ、こんちくしょうが!」
髭がモジャモジャな三人目の男は……ルナのお尻を触った奴だな……こいつには手加減要らないな!
おっかなびっくりの様子でタックルを仕掛けようとしていた所、俺はジャンプする。
しかし、これは男のタックルを回避するためではない。
俺は太ももで男の頭を挟み込み、背中へと抱きつきながら、身体強化を掛けて目一杯前方へと体を回転させ、一回転した所で太ももで挟んだ男の頭を床に叩きつける。
題して変則式カナディアンデストロイヤーって所だ。
……流石に床に突き刺さるのはやり過ぎた。
「……どうした? お会計か?」
「くっそ、覚えてやがれーっ!」
「けっ、おととい来やがれ!」
残りの一人、立ち向かって来なかった男と張り手を食らった男は残りの二人を回収し、お金を置いてそそくさと店から出ていく。
その瞬間、わっ、と周囲が沸く。
「良いぞ嬢ちゃん! カッコいいぞ!」
「すっきりしたぞ!」
「あいつら尻尾を巻いて逃げやがって清々したぜ!」
「どーも!」
回りの客は口々に俺を囃し立てる。
いやースッキリ! 久し振りに暴れられたからね!
相手としては物足りないけど久し振りに実戦を出来たのは良かった。
「イズちゃんごめんね……」
「しょうがないよ、ルナって綺麗だから」
「そ、そうかな……」
ルナはカァっと顔が赤くなり、顔を俯ける。
いくら綺麗だからって手を出すのはいけないと思う。
アルもウィルも居ないんだから、俺がルナを悪漢から守らないと!
「クビ」
「え?」
「君の妹さん、店を壊しすぎ。クビだ。まぁ今日の給料は払うし店の修理代は構わん。あの厄介な営業妨害をしてくるチンピラ紛いの常連グループを追い出してくれたしな。これで奴らはこの店には近付かないだろう」
「すみませんでした……」
俺のせいで、俺のせいでルナが【ほろ酔いの精霊亭】をクビになった……
「る、る、ルナぁ……ご、ごめんなさぁい……お、俺のせいで……」
「いいよイズちゃん。私を守ってくれたんだから。今日はもうどこか宿に泊まろうね。あんまりお金が無いから安い宿で、ひ、一つのベッドになると思うけど。ふ、ふふ! せ、狭いからいつもよりぎゅっーとしないと駄目だよね……? ふふ」
ルナは俺を叱らない。
全部俺のせいなのに……本当に優しいなぁ……
でも甘えちゃ駄目だ、男の俺がルナを守らないと!
「俺、明日から頑張るから!」
「よしよし、イズちゃんには良いところが有るのを私はいーっぱい知ってるからね。もっと私を頼って良いんだからね」
「る、ルナぁ……!」
あ、ヤバい、何か溶かされそう。
このまま全て投げ出したくなるような包容力がルナには有る。
多分男のプライドとか無かったらルナにはぐずぐずに甘えてしまうんだろうなと思いが過る。
しかもそれに、甘えてしまいそうになったり、狩人無くなったら何も出来ない俺って……
「俺ってまさかシャカイフテキゴーシャって奴なんじゃ……」
『…………スマン』
タマモ、何の事に対してかは分からないけど謝らないで……マジ泣きそう。
お金が無いと何も出来ない。
この事実が何よりも重くのし掛かってきている。
アルに大見得きった初日からこれだから、後一月半生きていけるのだろうか? 不安に思う気持ちが湧いてくる。
「さっきのプロレス技だろ? まさかこっちの世界で見れるとは思わなかったよ」
プ・ロレッスを知ってる……?
俺がアルストに居た時、とある人物から教えて貰った技の数々はとても珍しいものだと教わった。
何でもとある部族の戦闘術らしく、全く知られていないらしい。
因みに派手な技が数多く有るので俺は大のお気に入りである。
「アンタ、あの男達が俺に殴り掛かってきた時少し動こうとしていた奴だな。さっきの奴らの仲間か?」
バーカウンターで一人で座っていた、全体的に黒い服の初めて見た不思議な格好をした黒髪黒目の男で、男達が殴り掛かってきた時にピクリと動いていた。
その挙動が気になり注意していたが、ラリアットしたら直ぐに何事もなく酒を飲んでいたが。
「助けようと思ったが必要なかったみたいでな。お嬢さん達、お困りならこの王都探偵マサト=オオシマに頼ってみないか?」
※ルナリア酒場衣装




