第54話 誰がイズナの話を聞くのか
今まで見たなかで一番高く、広い面積を囲う外壁や城下町を行き交う人々、そして初めて見る城と言う建物。
俺達はとうとう王都ストックへとたどり着いた。
「デカイ! 広い! そして人が沢山だーっ!」
「はは、スゲェだろ王都は? 教会の施設まで直ぐ着くからもう少し外を眺めててくれよな」
「……王都とはこんなに人が集まるものなのだな。俺もかなり驚いている」
「わ、私もネーベルから出た事無いからドキドキしています……!」
「これから更に人が集まると思いますなぁ。お祭りやらなんやら有りますからねぇ」
「お祭り!? 楽しみだなぁ~!」
おのぼりさん丸出しで馬車から王都の様子を眺めていると、ふとアルだけ特に反応していない事に気がついた。
「ん? アルも王都に来たこと無いって言っていたのに驚かないんだな?」
「え? あ、あぁ僕も驚いていますよ? 人の数がアルストとは大違いですね」
「ははーん、さては驚き過ぎて声も出ないんだな?」
「はは……そんな所ですかね」
市場からはあちこちから美味しそうな食べ物の匂いがプンプンしてくる。
あ、あれは香辛料だろうか? 真っ赤な細いピーマンみたいなのがある。
お、あっちは串焼きか? 何の肉なんだろうな。
よし! 後で絶対立ち寄ろう。
「さ、教会の支部に着いたぜ。本部は今立て込んでるらしくて此方で話を聞かせて貰うって事だ」
馬車から降りた俺達は別々の個室に案内されて教会の関係者から話を聞かれるようで、俺も狭い部屋に机一つに椅子二つとシンプルな部屋に案内される。
少しだけ待っていると茶髪の修道服に身を包んだ大柄な男が部屋に入ってきた。
男はティーカップにお茶請けが乗ったトレイを持っており、俺と自分自身の前に置いてから座り、自己紹介を始める。
「おっす、お嬢さん待たせたな。俺の名前はハルジオン=レイナス。教会に所属している者だ。長旅の中お疲れの所で悪いが、それでは早速で悪いがネーベルでの話を聞かして貰おうかな?」
「……最初に言っておくけど俺は男だよ?」
「それでこう、バックドロップっていう技の要領で魔人を高い所から落としたんだ!」
「ははは! 格闘で倒すとは結構やるじゃないかアンタ! 俺はそう言う滅茶苦茶な戦いかたする奴が好きだぜ」
「へへへ、まぁね~」
ハルジオンは話が分かる大人だった。
何でも結構お偉いさんらしく体を動かしたり、戦いの方が好きなのに祭典や書類関係の仕事ばかりやらされると嘆いていた。
だからこそ血湧き肉踊る俺の戦いかたがお気に召したようだ。
意外と教会の人って真面目な人より狩人よりの性格の人が多いのかな?
「お、悪いがどうやら次の仕事の時間のようだ。俺の事情聴取は終わりにしよう。待合室で他の皆の事情聴取が終わるまで待っててくれ」
「ん、分かった。今度はハルジオンの話も聞かせてくれよな!」
「ははは、俺の武勇伝は凄いぞ~。まぁ、また今度だな」
「おう!」
そんな訳で俺の事情聴取はただ楽しくお話をしただけと言う結果になった。
部屋から出て待合室に着いた俺がどうやら一番早く終わったようで、他の皆は居なかった。
待合室からもプンプンと匂う市場の食べ物の匂いに俺はお腹をならせてしまう。
少しだけ何か食べ物を買い食いしようと俺は市場に出る為に、近くに居たシスターに少し出ると言伝てを頼んだ。
『勝手に出ていって良いのか?』
「ま、少し位散歩しても良いだろ?」
『迷子にだけはなるなよ』
「それは馬鹿にし過ぎだろタマモ? そこまで遠くに行かないよ」
『……どうだか』
お小言を言うタマモを宥め、良い匂いに誘われて俺は匂いの方向へと歩いていく。
この匂いは……オリーブオイルかな?
「お、そこのお面を被った嬢ちゃん、オイルフォンデュはどうだい? おやつ代わりに手軽なのもあるよ」
「嬢ちゃんじゃ無いけど……、ってオイルフォンデュ?」
屋台のおっちゃんに話しかけられ、近付いてみると、どうやら匂いの正体は鉄釜にたっぷり入っている高温のオリーブオイルの匂いのようだった。
釜の周囲には様々な食品が一口大に切られて並べられている。
「とびっきり美味いぞ! 一本特別にバラエティに富んだのを作ってあげるから買っててくれ!」
「んー、じゃ、おっちゃん一本宜しく」
「毎度!」
一本の長い木串にじゃがいも、ニンジンに鶏肉、マッシュルーム、小エビにニンニクと様々な食品を刺し、油の中へと沈めていく。
高温の油に沈められた食品はジューっといった小気味良い音をたてて揚げられ、辺りにはニンニクの香りが広がっていく。
「良い匂いだなぁ、しかも美味しそうだ……」
「そうだろう? 俺の故郷じゃ良く食べられているけど王都では食べられてないと聞いて商売に来たんだが、皆珍しい食べ物を敬遠して中々売れなくてなあ。最後にソースを掛けてっと……ほら出来た。揚げたてだから火傷しないようにな」
「はいお金。じゃあ早速だけど頂きます!」
旅の途中では植物油を大量に使った料理は非常に贅沢品だ。
油を持ち運べる量だって多く無いので、尚更大量に使うなんて旅人には出来ない。
なるべく節約するか、狩った魔物の脂を使うかのどちらかだ。
因みに魔物にも食用に不向きがあり、中には臓器の一部や肉だけが有毒の場合も有るので要注意だ。
「う、美味い!」
油で揚げるからギトギトしているんだろうなー、と思っていたが、オリーブオイルはサラサラで不快感が無く、更にはおっちゃんが最後に掛けていたソースに酸味があり、意外とあっさりしている。
「塩とレモンのソースだ。他にもソースの種類が有るけど人を見て判断してるんだ。今あんまり食べたく無いんだろ?」
プ、プロだ。
これが屋台のプロかっ……! 人の様子でソースさえ分けるとは恐れ入った。
「エビもプリプリ、じゃがいももホクホクで美味い。そしてニンニク! オリーブオイルで揚げるとこんなに美味しいんだな!」
「しかも油の香り付けにもなる有能な食材だよ。どうだい、気に入ってくれたか?」
「これは食わないと損だよ! 何でおっちゃんこんなに美味いのに売れないの?」
「う、俺の見た目のせいかなって……嬢ちゃんは怖くないのかい?」
見た目……? スキンヘッドで2m位の身長に加え筋骨隆々でサングラス掛けてる見た目が?
「別に……?」
「くぅ、嬢ちゃんにはもう一本オマケしてあげよう!」
「お、良くわからないけど貰えるなら有りがたく貰っておくよ。ありがとうおっちゃん!」
「お友達が居たら宣伝してくれよ~」
「まかへへ!」
俺はおっちゃんに貰ったオイルフォンデュ串を食べながら歩いて教会へと戻る。
皆にも教えてあげないとな。
しかしなんだか周囲から視線を感じるけど認識障害働いてるよね?
「あのカタギに見えない店主の屋台の食い物を随分幸せそうに食ってるぜ。お面の上からでも丸分かりだ」
「お、俺も食おうかなぁ」
「じゃあ今から一緒に行くか。丁度腹へってきた所だし」
「ママ、あれ美味しそう! わたしあれ食べたいなぁ……」
「見た目で判断しちゃ駄目って事かしら……。良いわ、お母さんと一緒に買いに行きましょ」
「やったー!」
後日、王都で流行っているお店とクチコミで広がり、王都の一角に店を構える男の話はそれはまた別の話。
「邪魔だ!」
「おっと」
教会へと帰る途中急に背後から誰かに押される。
少しよろけるが転けることもなく体勢を持ち直す。
どうやら俺と同じくらいの背丈の少年が走る際に押したようだ。
いやだね~余裕が無いのは……何事もクールにこなすのが男ってもんだぜ。
「そこの君、少年が走って来なかったかね!」
衛兵の格好をした男が話し掛けてきたので素直に答える。
「向こう行ったけどどうしたの?」
「あいつはスリの達人だ! 君は何もスられていないかい!?」
少し押された位で接触はそれ以外無いはずだ。
しかも今身に付けていて、取られるものといったらフルールドリスメンバーの共有資金が入っている財布位しか……位しか?
俺は買い食いと食材位しかお金を使わないので皆と違い個人の財布を持ってなく、共有の財布にお金を入れさせて貰っている。
まさかと思いポケットを探ってみるとそこには何も入っている感触は無かった。
「お、俺の財布をっ~! この野郎絶対に許さんぞッ!」
先程のクールと言う言葉を秒で忘れ、俺は怒りのまま駆け出した。




