第42話 恐怖のLetter?
「あれ、タマモ、狐面が無い……!?」
何時もより開けた視界と常にある感触、そして何時の小言が聞こえない事に疑問を持った俺は、まず顔に触れ、狐面を装着していない事を確認してから周囲を見渡す。
しかし、周囲には石壁と人一人も通れなさそうな鉄格子しか存在しない。
俺が寝てる間に奪われたのであろうか。
更に、自分の着ている和服装備の袖に隠し持っていたクナイ等の暗器も全て取り上げられているようだ。
「ん? ブーツの中に何か入ってる?」
とりあえず体の調子を調べようと立ってみるとブーツの中敷きに何か入っているような感触がしたので、もう一度座り直して靴を脱いでみると、中には白いハンカチのようなものが非常に小さく折り畳まれていて入っていた。
俺は折り畳まれたハンカチを無警戒で広げてみる。
「うひっ……!」
そこには真っ赤な血のようなものが付着しており、俺はビックリして思わずハンカチを落としてしまう。
しかし、そのハンカチを良く見てみると文字のようなものが書かれていたので、俺は恐る恐るハンカチを拾いあげて文字を読む。
「テキ チャパツノオトコ マガンモチニツキ メヲミルナ」
敵、茶髪の男。魔眼持ちにつき、目を見るな。
確かに書きなぐったような乱雑な字体でそう書かれている。
これは誰かからの警告文だろうか。
こんな血文字みたいので書くとは相当切羽が詰まった状況なのか、性格が悪いのだろう。
お陰で変な声が出るほど驚いてしまった。
「魔眼……」
以前ウィルに聞いたことがある。
魔眼とは能力を宿した目の総称で、ウィルの【魔力視】も確か魔眼の一種である。
目を合わせてはいけないと言うことは、つまりは目が合うだけで発動する厄介な能力なのだろう。
しかし、その男の敵とやらは何が目的で俺を捕らえ、狐面を奪ったのだろうか? そしてウィルとアルは一体何処にいるのであろうか?
ここにいても状況は分からないし変わらない。
よし、脱出しよう!
「むん゛、うぐぐっ……! とりゃっ……!」
バキィンッ! と音を立てて手枷の根元から鎖が引きちぎれる。
比較的細い鎖だったので、俺の身体強化【剛力】でさほど苦労も無く引きちぎれたのだ。
同じように他の手足の枷の鎖を取って自由に動かせるようにする。
流石に鉄製の輪は引きちぎれないので鍵が見つかるまでそのまま着けておく事にした。
引きちぎった鎖はしまっておこう
「ふふん、何処のどいつかは知らないがこんな牢屋に俺を閉じ込められると思ったら大間違いなんだよ。ふぐぐっ……!」
牢屋の鉄格子も身体強化【剛力】で無理矢理曲げて頭が通る位の隙間をこじ開けて牢屋の外へと脱出する。
一応どうやって抜け出したかを誤魔化すために鉄格子をなるべく元に近い形に戻しておく事も忘れない。
他にもいくつか牢屋があったが人は誰も居なかったので、こんな居心地が悪くて薄暗い牢屋とはとっととおさらばしよう。
「待ってろよ、タマモ、ウィル、アル……!」
どうやら先程の牢屋は地下にあったみたいで、廊下にも窓が一切無く、上の階層へと登る階段しか見つからなかった。
人の気配を探りながら上へと登っていくが、人の気配は一切感じる事無く地下から出る扉まで辿り着き、そっと扉を開いて顔を覗かせる。
「広いな……どこかの屋敷か?」
扉を開けると手入れの行き届いた長く薄暗い廊下が見える。
カーペットが廊下を端から端まで敷かれており、廊下に置かれている調度品の数々を見るに、かなり裕福そうな屋敷と見れる。
まぁ調度品の価値は俺には分からないのでそこは勘だが。
「――――――!」
「――――――」
少し遠くの部屋から二人の男の声が聞こえる。
声が聞こえた部屋の扉を見ると僅かに開いている状態だったので、俺は中の様子を探ろうと覗く。
「約束通り旅人の三人を眠らせて運びました……! お願いですから妻を返して下さい!」
「ふふ、えぇ、勿論お返し致しますよ。想像以上の掘り出し物で私も満足しています。良くやりましたね」
一人は宿屋の主だ。
話を聞いた限りだとやはりあの宿屋の主が一服盛ったと言う事なのだろう。
そしてその話相手は茶髪で整髪料で髪を撫で付けている男。
……恐らくあいつが恐怖の書き置きに書かれていた敵なのだろう。
猫のような縦長の瞳孔の不気味な目を持ち、俺の本能が奴の目見るなと警告している。
やはり書き置きの通り魔眼を持っていると言う事で間違い無いのだろう。
「あなた!」
「あぁ! 無事で良かった!」
「ふふ、私は律儀に約束を守りますからねぇ……よほど魅力的な何かが無いときは、ね」
宿屋の主と女の人が抱き合っている。
恐らく宿屋の主の奥さんであろう。
なるほど、アルが奥さんの様子を聞いたときに少し態度がおかしかったのはアイツに人質で取られていたからか。
……ウィルとアル、そしてタマモを探そう。
何かアクションを起こすのはそれからでも遅くは無い。
俺はそっと扉から離れてゆっくりと音を立てないように廊下の奥を目指す。
「おや、もう行ってしまわれるのですか? ふふ、所で……どうやって地下牢から抜け出したのでしょうか?」
「ッッ――――!?」
ポン、と背後から肩を叩かれて耳元で囁かれた声は間違いなく先程聞いたばかりの男の声だった。




