第41話 最悪のLocation!
「なぁ、結局宿に着くまで人が居なかったな」
俺らは無事に宿へと到着し、現在は三人揃って宿の食堂にて夕食を食べている。
メニューは森で獲れたと言う魔物の肉を挽き肉にして、香辛料を混ぜて焼いたミートローフと、山盛りのキャベツのザワークラウトに蒸かしたジャガイモと、豆と野菜くずが入ったスープだ。
特にこのミートローフは香辛料がよく効き、中に入ったキノコのみじん切りのコリコリとした食感がアクセントになっていて美味しい。
「確かにそうですね……僕も少し気になるので宿の主人に聞いてみますか。すみません、少しお尋ねしたい事が有るのですが」
「はい、何でしょうか?」
「ここの村の住人の方は夕方位からもう出歩かないのでしょうか? 一人だけご老人の方を見かけただけで、少し気になりまして」
アルは宿の主人の男を呼び、質問してみると宿の主人は少し戸惑ったような様子を見せるが、直ぐに様子が元に戻り解答する。
「あ、あぁ、この里ネーベルは霧深い時には皆外を出歩かないようにしているんですよ。昔から霧が深い時は人が消えると言うような言い伝えが有りまして……」
「は、はは、本当に消える訳じゃないよな……?」
こんな何か出そうな雰囲気が出ている所で、そんな言い伝えは本当に勘弁して欲しい。
別に怖くは無いが、意識してしまうと何かの影だったり、天井の染みが人の体や顔に見えてしまう時が有り、少しだけギョッとしてしまうからだ。
いや、別に怖くは無いけど。
「えぇ、ただの噂ですよ。あの、もし宜しかったら食後のお茶はいかがですか?」
「えーと、そうですね。折角ですから3人分お願いします」
「かしこまりました」
宿の主はキッチンに向かい、茶の準備に向かった。
ふと視線を感じたので、そちらに注意を向けるとウィルがこちらに顔を向けていた。
「イズナ、風邪か? 震えてるぞ」
「ちょ、ちょっと寒くてな! お茶でも飲めばきっと落ち着くと思うからさ!」
『フ、怯えているな』
タマモはそう言うが、俺は怯えてなんていないし、恐れるものなんて何もない。
な、何故なら俺は男の中の男だから、そんな訳の分からない存在に負けたりしない! ……た、多分。
そんな会話をしていると、思ったより早く宿の主がトレイを片手に戻ってくる。
「こちら、カモミールのハーブティーとなります。リラックス、安眠、消化促進の効果がありますよ」
ティーカップに入った黄色いお茶からはやさしいリンゴに似た匂いが漂い、鼻腔をくすぐる。
カップを手に取り、一口飲んでみるとほのかに甘みを感じ、気持ちが落ち着く味わいだ。
「うむ、これは蜂蜜が入っているようだな」
「はい、蜂蜜をいれる事によってどのお年頃でも美味しくいただけるので。これは妻の教えです」
「奥さんと二人で宿屋を経営しているのですね。そう言えば奥さんは見当たりませんがどうかされたのですか?」
「……! その、少し体調を崩してしまって今は奥で休んでいます。し、食事がお済みのようなので、食器を片付けさせて貰いますね……!」
なるほど、だから一人で受付から料理までやっているのか。
うーん、それにしてもこのカモミールティー、初めて飲んだけど不思議な味わいで美味しいな。
旅の道中では紅茶を適当に淹れて飲んだりするけど、やはりしっかりとした淹れ方のお茶は段違いだ。
しかも良く落ち着く。
「ふぁ~、じゃあイズナさん、僕とウィルさんは自分達の部屋に戻りますので、お休みなさい」
「イズナ、また明日だ」
「ん、お休み」
食事が終わり、宿泊している部屋へと向かって歩いている時、二人は別れ際に挨拶をしてくる。
何故同じパーティーなのに別れの挨拶をするかと言うと、俺と他の二人では部屋が別々だからだ。
以前別の宿屋に泊まってからは、アルがリーダー権限とか言って宿屋に泊まるときは必ず別々の部屋にされるのだ。
俺も男だから気にしないと言ってもアルは聞く耳を持たないので 、渋々別々の部屋で寝泊まりする事に決まったのだ。
「っぺ、よし、歯磨きも終わったし今日はもう寝よう……」
『もう寝るのか? 今日はえらく早いな』
「あぁ、なんだかカモミールティー飲んでからスッゴい眠いんだ……恐るべし、ハーブティー……」
俺は自分の部屋に帰ると直ぐ様歯磨きをして寝る準備に入った。
部屋の明かりを消し、直ぐにベッドで横になると眠気が押し寄せてくる。
一人部屋なのでタマモの狐面を取って寝ても構わないが、それすらも億劫に感じる程眠かったので、俺は普段そうしているように狐面を着けたまま眠りに着いた。
『……? ……!? ……ろ! ……ズナ!』
深いまどろみの中、俺はタマモの声が聞こえた気がした。
タマモは焦っているようで、俺に何かを訴えかけているようだが、俺はそれに耳を傾ける事が出来ないほどに意識が深層まで潜っていた。
ぴちょん、ぴちょん
近くから水滴が落ちる音が聞こえる。
等間隔に聞こえるそれは煩わしい事この上なく、俺はその音を遮断しようと思い、無意識に耳を手で塞ごうとする。
カチャカチャと音を立てながら動く手、それと同時に胸の辺りに重みを感じる。
「ん……?」
その音と感触と違和感に疑問を持った俺の意識は一気に覚醒する。
体を起こして周囲と自分の体を確認してみる。
「な、なんじゃこりゃ……!」
先ほどまでの宿と違い、硬い石の床、蝋燭灯る薄暗い牢屋のような最悪な場所、そして両腕と両足にはまった鉄製の輪と繋がった鎖。
それは、紛れもない手枷と足枷であり、俺は誰かに囚われていると言う事実だった。




